第13話 魔法継承の儀

 ルルルンの突然の申し出に、ライネスの思考は追い付かず?マークを飛ばし続ける。


「魔法をあげる?」

「ああ」

「訳の分からん事を言うな」

「そのまんまの意味だよ」


 普通の話をしている素振りがよけいライネスを混乱させる。


「あげるとはどういう意味なんだ?」

「うーん、ライネスが魔法使いになる?ってことかな」

「な!????」


 それを聞いたライネスは手を振り払い、ルルルンを睨みつける。


「貴様、さっきまでの話を聞いていたのか???魔女を殺すと言っている人間を魔女にするつもりか??馬鹿なのか?」

「あー、そうだけど、俺が言いたいのは、魔女っていうのは人為的に生み出せるって事を言いたくて」

「何を言いたい?」


 ライネスの警戒は緩むことなく、鋭い眼差しでルルルンを更に見据える。


「まず、この世界の、魔法という存在について整理しよう」


 ライネスに理解してもらえるようルルルンは語りだす、なるべく簡潔に分かりやすく。


「この世界で魔法が使えるのは、4人の魔女だけ、眷属はその魔女から与えられた魔動機マギジストを使って特定の魔法を使う事ができる、確認されてる界位は超界まで、その上の絶界、極界、神界については知られていない、魔法は選ばれた人間にしか使えないって事で合ってる?」

「合っている、それがどうした?」

「俺の世界では、魔法を使う適正があれば、誰でも魔法使いになれる」

「な?」


 その言葉にライネスは目を見開いて反応する。


「誰でも?」

「適正があればね、魔素を知覚できる人間じゃないとだめだけど、俺は訓練次第で誰でもなれるって思ってる」

「それが本当だとしたら、とんでもない事だぞ」

「だろうね」


 ライネスの今までの話を聞いている限り、この世界の常識をひっくり返す事実なのは理解できる、だからこそ、ライネスにその事実を知ると同時にしっかりと理解してほしいのだ。


「俺の正体を信じてくれたライネスだから話す、魔女は神が作り出したような存在ではないんだ、人だったら誰もがその可能性を秘めている、才能なんだ」

「詠唱をすれば私にも使えるということか?」

「それは無理」

「……からかっているのか?」


 自分はこの魔法少女にからかわれているのかと、ライネスは夢物語のような話をするルルルンをジトっとした目つきで睨む。


「からかってないってば、魔法を使うためには、刻印を継承しないといけないんだ」

「刻印?」

「魔法を使うためのサインって言うのかな、それが体に刻まれていないと、魔法を使う事ができない、だから魔法の才能があっても刻印が無ければそれを使う事はできないって話」

「魔法を使う鍵……みたいなものか?」

「そう!そんな感じ!で、刻印ってのは、魔法使いから魔法使いに代々継承していくものなんだ」

「継承?」


 ヨコイケイスケの世界では魔法使いが魔法刻印を刻むのに、いくつかのルールが存在する。


①魔法刻印の独自開発は魔法省の認可が必要 ※宝石級魔法使いのみに許可される

②魔法継承を行うには、双方の同意が必要の上、継承後必ず申請を行う

③認可されていない魔法刻印の継承は禁止する

④認可されていない魔法の使用が確認された場合、刻印の没収と共に罰が与えられる

⑤魔法適正のない者への刻印継承は禁止する

⑥刻印を不法で売買する事は禁止する


※上、下界位の魔法については上記ルールは適用されない。


 詳細を話し出すと、とんでもない情報量になるため、ルルルンは割愛する。


「本当は継承するのにも、俺の世界だと手続きがめちゃめちゃあって、めんどくさいんだけど、ここ異世界でしょ?継承するの自由だなと思って」

「で、なんだ」

「ライネスに魔法継承しようって」

「なんでそうなる!!!」


 ライネスが激しく突っ込みを入れる。


「まじめな話すると、魔女と戦う上で、魔法を理解する事って大事だと思うんだよ」

「……そうれはそうだが」

「もし魔女と戦う事になったら、ライネスには負けてほしくないというか」

「なんでお前がそう思う、お前を殺そうとしたんだぞ私は?しかも勝ったのはお前だ!!嫌味か!!?嫌味なのか?」

「嫌味じゃなくて、剣捌きがあまりにかっこよくて、美しかったというか……」


 美しい騎士に、過去憧れた機動騎士エクスキャリバーンの面影を見た、とは言えず、はぐらかすが、逆にライネスの何かに刺さる結果となる。


「……世辞はいい、馬鹿者」

「顔赤いよ、怒ってる?」

「うるさい!!」

「でも、ライネスが魔法を使えたら、最強でしょ?」

「お前は……」


 単純なルルルンの提案にライネスは溜息をつき、どうしたものかと目を閉じる。


「ライネスの魔女への抵抗とか、拒否感とかも考慮した上での提案だ、魔女と呼ばれることに抵抗があるなら、ライネスは魔法剣士と名乗ればいい」

「そういう問題じゃないだろ!!」

「ライネスなら理解してくれるって思ってる」


 まただ、さっき会ったばかりなのに、手放しで信用すると言う無警戒な言葉。

 笑顔のルルルンに対して、ライネスは、およそ馬鹿げてる提案を断る事ができない。


「裏が無い訳じゃない」

「なにかあるのか?」

「この世界でも、俺の世界と同じ事ができるのかを試したい……っていうのかな、俺の事情を理解してないと言いにくい話だろ?」

「まあ、確かにそうだが」

「だからライネスにしか頼めないと思って」


 なんとも、嘘が付けないのか、ルルルンの馬鹿正直な話も含めて、彼女の提案をライネスなりに理解する。

 雲の上で会話した時と変わらない真っすぐな目、嘘ではない、本心の提案……どうもライネスはこの目に弱い、真摯に思いをぶつけてくるルルルンの言葉を否定することができない。


「解った、お前の提案を受けよう」

「ありがとう」


 こうなる事が分かっていたかのような、感謝の言葉。裏のない笑顔にライネスもつられて表情が緩む。


「事故は起こらないのか?」

「大丈夫、俺前の世界で一番の魔法使いだったし」

「痛かったりするのか?」

「しないよ……もしかしてライネス注射嫌い?」

「いやっ別に、そんなこと、ないが?」

「痛くないから安心して」

「怖くないって言ってるだろ!?」

「そんな事言ってないでしょ」


 頭では理解していても、未知の体験にライネスはテンパっていた。


「最終確認だけど、本当にいい?騎士のプライドとか色々、俺は考慮してないからね」

「この世界の謎の一つが、私がプライドを捨てるだけで解明できるのだ、安い買い物だ」


 そう言うと、ライネスは不敵な笑みを見せる。


「それに、知りたいんだ、自分の憎む相手はどんな力をどのように使っているのかを」


 ライネスのある意味「覚悟」を察したルルルンは、継承に関しての説明を始める。


「ライネスに継承する魔法は、ラザリオンっていう雷の力を身体に宿す【自己強化魔法】だ、剣をメインで戦うライネスとの相性はすごくいいと思う」

「わかった」

「継承しても、もしかしたら使えないって事もあるし、相性が悪ければ逆に自分を傷つけることもある、魔力の総量、どれだけ刻印を刻めるかの総数はその人間が持って生まれた変えられない才だから」

「デメリットを今更言うな」

「そこはあまり心配してないよ、ライネスなら大丈夫」

「なんでお前は……まったく」


 ライネスがゆっくりと手を差し出す。ルルルンは迷いなく、その温かな手を優しく受け取る。


「お前を信じる」


 お互いの瞳が交わる瞬間、魔術の継承が始まった。まるで時間が止まったかのように、空気が静まり返る。魔力が彼らを包み込み、力の流れが交錯する。

 掌を中心に光の魔法陣が展開される、初めての感覚だがライネスは不思議と安心感を覚える。


『我が魔力の片鱗を、我が使徒へと継承せん。我が魔力よ、使徒の器に宿り、満たされんことを願う、満たせ、満たせ、満たせ、使徒の器を満たせ』


 ルルルンの手に刻印が浮かび、それがライネスの手に吸い込まれるように消えていく、展開していた魔法陣はライネスの手に収束し、魔法刻印がライネスの掌へと刻まれる。それはほんの僅かな時間で、ライネスの想像を大きく下回るものだった。


「終わったよ」

「……これで終わりか?」

「掌を見て」

「これは……」


 ライネスの掌に光の魔法刻印が浮き出ている。


「その魔法陣は師と使徒にしか見えない刻印、つまり俺とライネスにしか見えない契約の証みたいなもん」

「契約……そんな事言ってなかっただろ?」

「いやいや、そんなやましい契約じゃないから!」

「ならいいが……」


 まじまじと契約の刻印をみているライネスにルルルンは魔法について説明する。


「通常魔法の発動には詠唱→刻印認証→刻印への魔力供給→発動って手順を踏む」

「ふむふむ」

「詠唱は、魔法を使うためのスターター、決められた言葉を並べることで、魔法を起動させる役割がある、そして魔法が起動したら、刻印がその魔法に対応しているかの承認が行われる。火の魔法を使おうとしているのに、刻印が水だったらその魔法は発動しない……みたいな感じね」

「なるほど」

「刻印は、その人間が元々所有していたり、修業して獲得したり、継承でもらったり、と入手する機会はわりと多くある、けど、刻印があってもその魔法への適正がないと使えない場合もある」

「刻印と詠唱と魔力、それに適正という条件が揃っていないと、魔法は発動されない」

「そういうこと、で、ライネスに継承した魔法は、詠唱と刻印認証の部分を省略できるようにしてある」

「え?」

「え?」

「なぜそんなインチキをする」


 まじめなライネスは、正規の手続きを踏まないというルルルンの魔法に、疑問を提示する。うーんと考えライネスにも分かるように改めてルルルン式の魔法についての説明を再開する。


「インチキじゃなくて、その掌の魔法刻印に詠唱と刻印認証の二つを処理できるよう初めから設定してある」

「設定?」

「魔法を使う前に言うなんたら~かんたら~とか言うでしょ?あれをその刻印に最初から刻んである、最初から何の魔法か刻印が理解しているから、詠唱と認証が省略できるって仕組み」


 この二つを省略するだけで、劇的に魔法発動のスピードが上がる、これがヨコイケイスケの発案した無詠唱魔法の仕組みである。


「効率がいいな、だとすれば、どうすれば魔法は発動する?」

「魔法の名前を口にして発動すると願えばいい、あとは刻印が勝手に大気の魔素を取り込んで魔法へ変換する」

「ふーん……ラザ」

「ストオオオオオオオップ!!!!!!!」


 おもむろに呪文を唱えようとするライネスを、間髪入れずにルルルンが静止する。


「何故止める」

「ここで使うと大惨事になるからやめた方がいい」

「そうなのか・・・」


 ライネスに継承したのは強力な雷魔法、その力はこの世界で言えば絶界レベルの魔法、うかつに慣れていないライネスが使えば、周辺はえらい事になる。それに、ライネスに何かあったら後悔しかない。


「最初に使うときは人がいないところで使おう、レクチャー兼ねて今度、練習台になるから」

「そうか!約束だぞ!」

「ああ、約束だ」


 笑顔で魔法の練習を約束する二人のいる宿に、荒々しく踏み込んでくる音が響く。


「なんだ?」


 足音は2人のいる部屋の前で止まった、扉をノックする音がして数秒、男の声がする。ライネスにはそれが誰か分かっている様子だった。


「ライネス様、カインです、よろしいでしょうか?」


 カインと名乗る男の声が響く。

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