第21話 勘違い
「あー疲れたぁぁぁぁぁ」
一日の仕事が終わり、さっきまでお客が訪れていたテーブルに、ルルルンは疲れ果てて倒れこむ。
「もっと魔法を使えば楽なんだけど、これ以上使うと魔女認定されるし……」
働くにあたってルルルンはいくつかの魔法を使っていた「身体能力向上」「常時回復」「判断力向上」3つほど併用しているが、これ以上は超人扱いになるため自粛している。常時回復を使用しても、それを上回る労働量のため、結果として疲労困憊となるのが悩みの種だ。もっと魔法を使えばという欲に負けそうになるも、この世界のルールに従う姿勢は崩さない。魔法を使っていると気が付かれてはだめなのだ。
「おう、ルルあがっていいぞ!!」
「あーい」
店の奥からバルカンの大声がするが、ルルルンはまだ机に伏せたままだ。
「なんだ、流石のお前でも疲れてんのか?」
バルカンが厨房から出てきて、疲れ果てているルルルンに声をかける。
「毎日こんな感じだからね」
「そりゃそうだ、がっはっはっは」
しなびれた声にバルカンが大笑いする。
「まあ、おめえは若い奴の中じゃ、中々根性あると思うぜ」
「そうっすか?」
「お前が働き出してから、売り上げは右肩上がり、もう少し誇ってもいいんじゃねえのか?」
「力になれてます?」
「まあ、そこそこな」
「じゃあ給料上げてください、お金沢山ほしいです」
「そこそこって言ってんだろ!調子のんな!」
「ぐぇぇぇ」
バルカンからのそこそこ評価に、顔を机にぐりぐりして悔しさを表現する。
「明日も忙しいんだ、早く帰って、疲れをとれ!いいな!」
「あーい」
そう言って、よっこらせと立ち上がるが、この後の約束を考えると休んでもいられないと、気合を入れる。
よしっ、と気持を改めると……
ガシャン、バリンバリンバリン、ガラガラガラ、ドン、ガチャン!!
厨房から派手に皿を割る(だけではない)音がする。
「馬鹿野郎!!なにやってんだ!シア!!!」
バルカンの怒声が響く。
「あわわぁ、ごめんなさいぃぃ!」
「お前は片付けなくていい!あっちいってろ!!」
「えぅぅぅ、はぃぃ」
この店ではおなじみの光景である、皿を割ったのはこの店の従業員。
「あぅぅぅ、またやってしまった」
とぼとぼと厨房から出て来たのは背の小さい少女、しかしながらその小柄な身体に似合わない大きな胸は、ルルルンより確実に大きい。可愛らしい見た目とキレイな黒髪は、ルルルンと並んでも引けをとらない美少女と言っても過言ではない。
「またやったのか?シア?」
「はいぃ、またやっちゃいました」
シアと呼ばれた少女は目をウルウルさせてルルルンに泣きつく。
シアはルルルンがこの世界に転生して、最初に出会った魔女の眷族に絡まれていた少女である。
シアにとってルルルンは恩人であるが、逆にルルルンとっても餓死しそうなルルルンに食事を与えて、助けてくれた命の恩人である。
マギリア食堂で働く事になり、そこで
職場的にはシアはルルルンの先輩に当たるのだが、その仕事っぷりは、あまり褒められたものではなく、いつもミスをしてはバルカンに怒鳴られている。
「どうすればルルさんみたいにカッコイイ女性になれるんでしょうか……」
「うーん、そうだねぇ、カッコイイの基準がよくわかんないけど、男心は理解できるから、そういう理由でもしかしたらかっこよく見えるのかも……」
「どうすれば、シアのドジは治るのでしょうか?」
「うーん、そうだねぇ」
ルルルンはふと現実世界で一緒に働いていた部下の事を思い出す。誰もが最初はミスを犯す、失敗して失敗して成長する、そんな人間を多く見て来たルルルンは、落ち込むシアに優しく話かける。
「失敗しても構わないよ、きっとシアが皿を割っただけ、シアは成長できる、だから皿は割れていい。シアは皿を割った時、何故皿が割れてしまったのか原因を考えて、じゃあ、次割らないためにどうやって行動すればいいのかを考えればいい、トライアル&エラー!何事も試行錯誤だよ」
「ううう……難しいです」
「ごめんごめん、要するに、同じミスを繰り返さないために、いろいろ考えればいいって話」
「色々考える」
「そう、考えるのって、すごく大事」
『思考する』当たり前だけど、忘れてしまいがちな反省の方法。なぜ、どうしてそうなったのかを考える、考えて実践することでそれは学びに繋がる、失敗しても成功しても、それは糧になる。ルルルンが大事にしている部下への教育論だ。
「同じミスをしちゃう時はどうすれば……」
「その時は……」
「その時は?」
シアはまじまじとルルルンの目を見つめ、その答えを期待する。
「素直にごめんなさいって言えばいい」
ルルルンは笑顔でシアの問に答え、頭をポンポンする。
妹みたいな感覚で、シアといると心が穏やかになる、ルルルンはシアと話すこの時間がとても有意義だと感じていた。
「怒られるのは怖いです」
「だな、まあ店長も見た目と言葉遣いはあれだけど、結構優しいし、大丈夫大丈夫」
「大丈夫、理不尽なパワハラは俺が許さないから!」
「パワハラ?」
「とにかく!シアは笑顔で頑張ればいい!俺と一緒に頑張ろう、な!!」
「はい、シア頑張ります!」
「困ったことがあったら俺が助けてやるから、安心しろ」
そう言われたシアの表情はキラキラと輝いて、嬉しさのあまり。ルルルンの胸に飛びつき背中に手を絡める。
「シア!?ちょっと」
「ルルさん……ありがとうございます」
素直な表現にルルルンは困りつつも嬉しい気持ちになる、シアの屈託のない感情表現は毎日悩むルルルンの清涼剤であった。
「ははは、ありがとシア、俺も結構感謝してるんだよ」
「ルルさんが私に?」
「シアと話してるとすごく落ち着くから、癒しっていうのかな、感謝してるよ」
「そんな、シアでよければ、いつでもルルさんの癒しになりますからね!」
「はっはっは、癒し、ほんと癒しって大事……はっ?」
背後から殺気が放たれている。
そこにはライネスが腕を組んで立っていた。
「ライネス?」
「あ、ライネス様!こんばんわ!」
「そうか、熱い抱擁だな、そうかそうか、二人はそうゆう……知らなかったな」
「え?いや、そうじゃないよ」
「はい!そうゆう(癒し癒され)関係です!」
シアがキラキラ笑顔でライネスに言い放つ。
「まぶしっ!」
ルルルンもライネスも、キラキラ過ぎてシアを直視できない。
「だったら私は邪魔だな、今日の修行は無しということで」
そういって踵を返し、ライネスは店を後にする。
「誤解だよ!ライネスさん!確実に何か誤解しているぞ!シアごめん、後片付けよろしく!」
「はい!任されました!」
ルルルンは不機嫌に店を後にするライネスを追いかけ、慌てて店を飛び出した。
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