3章 欲の魔女と聖剣
第40話 波乱の兆し
「困った」
ランチタイムの忙しさが過ぎ、一時の静かな休憩時間、腕を組み「うーむ」と悩む。シアの騒動の後、反動のようにマギリア食堂は賑わっていた。
謀殺されている事もあるのだが、眉毛を八の字にして、ルルルンは困っていた。
「どうしたんですかルルさん?」
困り顔の美人に、同僚のシアが心配そうに声をかける。
「ここで働き出してはや1ヶ月、この街の事情も大体理解できた」
「はい」
「やりたい目標もできた」
「はい」
「新しい仕事も始めてお金も稼げてる」
「はい」
「で、自分が始めようとしている『何でも屋』っていうのが」
「いうのが?」
「なんと、すでにこの街に存在している事が分かったんだ」
へー、という顔でシアが頷きながら話を聞いている。何が問題なのか理解していない様子だ。
「存在しているとなにか問題があるんですか?」
「そうだね、カインぱいせん曰く何でも屋は街に一つあればいいレベル、そんな職種にライバル企業があるのは死活問題だ、新事業を始めるんだったらレッドオーシャンに飛び込むよりは、ブルーオーシャンに向かったほうがいいからね、まあ飲食やるよりはよっぽどブルーなんだけど」
「れっどおーしゃん?」
「お店を作るなら、誰もやってない事をやった方が目立つって話かな」
「じゃあルルさんは、お店をつくるんですか?」
深刻なルルルンとは裏腹に、シアはルルルンがお店を作る事に興味深々である。
「そうだよ、みんなの困ったを解決する、この街一番の何でも屋を作る!それが当面の目標だな」
「わわわわ……すごい、さすがルルさん」
「ありがとシア」
「ルルさんの話はいつもワクワクします」
ニコニコと笑顔でシアはルルルンの話を聞いていた。
そんなシアを見てルルルンはふと思いついた事を口にした。
「そうだなぁ、もし会社を作ったら、シアを雇おうかな」
「え?私ですか?」
冗談めいた突然の提案に、シアがワタワタとその場でかわいらしく動く。
「そうだよなぁ(全然知らない人を雇うくらいなら)シアがいいかな」
「えええ!でも私、ほら、ヘマばっかりで、ルルさんに迷惑かけちゃうかも、しれません……」
喜びの表情を自己評価の低さが、一瞬で曇せる。もし働いたとしても、きっと迷惑をかける、自分の慕うルルルンを困らせる事は望むところではない。
自己嫌悪でうつむくシアの手を、ルルルンが掴み、シアの顔を真っすぐ見る。
「それでも、シアがいい、俺がそう思うってだけじゃだめか?」
「えええええ!!!そんな!!!!」
「だめか?」
「あの……もし、その、ルルさんがそう思ってくれるなら……でも、ルルさんには、その」
顔を真っ赤にして、シアが目を泳がせる。
「シア!君がいいんだ!(気楽だから)」
「で、で、で、もぉ!」
「白昼堂々浮気は良くないニャ」
「うわぁ!!!」
「ひゃあ!!」
2人の間からひょっこりミーリスが現れた。ルルルンは驚き後ろにひっくり返っている。
「びっくりした!」
「ミーリス様、こんにちわ」
「こんにちわ、シアニャン」
ライネスもいるのかと見渡すが、珍しくミーリスは一人のようだ。
「ライネス様はいないニャ」
「珍しい、じゃあミーリス一人なの?さぼり?最低だな」
「そうだにゃぁ、それよりさっきの浮気現場の説明してほしいにゃ、ってさぼりじゃないニャ!」
「現場?何の話?」
ナチュラルにすっとぼけるルルルンと対照的に、シアは顔を赤くして俯いてしまっている。
「自覚が無いとは、おそろしい女だにゃ」
「それよりライネスは?」
「他の女とニャンニャンしといて二言目にはライネス様とは、やはりおそろしいやつにゃ、淫乱女め!ミーリスは騙されんにゃ!」
ルルルンの底知れぬ女たらし力にミーリスは眉をひそめる、自覚のないルルルンは、なんで?と言った表情をしている。
「で、ライネスは?最近会ってないけど忙しいの?」
「なんで愛人のルルにゃんが知らないのにゃ」
「いや、そんな行動全部知っておきたいメンヘラ愛人じゃないから」
「愛人なのは認めるのにゃ」
「で、ライネスは?」
ニヤニヤしてるミーリスを無視してライネスの事を聞く。
「今日は聖帝騎士団の北部大隊の隊長全員が集められて、大教会で聖帝様と大事な打ち合わせにゃ」
「聖帝様と?」
「それ、すごいことじゃないですか?」
シアがミーリスの話に反応する。
「すごい事なの?」
「聖帝騎士団は1〜13番隊まで存在してて、東、西、北、南それぞれに点在してるんです」
聖帝騎士団は【ウルサ】【ロクジョ】【ゼイホン】【カーノ】それぞれに3~4の大隊を組織している事は知っている、ルルルンは以前無職の時に世界を回って情報収集をしていたので一応それ位の知識はある。
しかしながら、聖帝騎士団の隊長格が集められる事がすごい事なのかは分からない。シアの反応を見る限り大きなイベントなのは間違いないが。
「その隊長が4人も大教会に全員集まるって、めったにないことです」
「へー」
「反応うっすぃにゃ」
「いやだって、そのうち隊長二人と知り合いだし」
よくわからないスケールのでかさにルルルンはいまいちピンとこず、へーっといった薄いリアクションしかとれなかった。
「聖帝様から直々に隊長へご神託を?」
「そういうことにゃ」
「聖帝様って、騎士団の一番偉い人?」
「そうだにゃ」
聖帝様、名前はよく聞く存在……。
ご神託なんて大層なものを下さる、まだ見ぬ聖帝様、ライネスやカインぱいせんの上に立つ騎士団のトップ、さぞかし厳つい男なんだろう、とルルルンは妄想を膨らませる。
「聖帝様は、この世界の教会全てを管理されてる方ですよ」
「……そうだったんだ」
「突然現れて、聖帝騎士団を組織した、神の生まれ変わりって」
「神……」
「実際、聖帝様が加護を与えた武器や防具があるから、ミーリス達は魔女の眷属たちや魔物と戦えている、神みたいなもんにゃ」
「カインのあの剣も聖帝様が作ったってこと?」
「そうにゃ、隊長には聖帝様が作った特別な聖剣と神具が与えられてるにゃ」
「あの謎技術も聖帝様が……」
「謎技術?」
「こっちの話だ」
世界の常識をルルルンはまた一つ学んだ。聖帝と呼ばれる存在がいて、聖帝様は世界を守る教会をまとめる偉い人、聖帝様の下、聖帝に与えられた特別な武器や防具を使って、ライネス達、聖帝騎士団は世界の秩序を守ってる。
カインの炎を操る聖剣、あれはルルルンの知らない技術で作られていた、その技術の元が聖帝様となれば興味が沸かない
「世界警察って感じなのかな」
「いや、ルルニャン本気でこの世界で生きてて、なんでそんなことも知らないんだにゃ?」
「興味ない事にはあまりアンテナ向かなくて、あはは……」
この世界に来て1ヶ月ほど経ったが、未だにこの世界では分からない事が多い、自分なりに調べてはいるが、仕事が忙しくそれどころではない、本格的に調査を行った方が良い時期なのかもしれない、とは考えてはいる、考えてはいるが動けない。
魔女の問題はこの国だけの話なのか、それとも海の向こう側にも関係ある話なのか?興味は尽きないが、ルルルンは目の前に立ちふさがる起業という壁と、毎日の接客で、それどころではないというのが本音である。
「で、隊長集めて何を話合ってんの?」
「たぶん、魔女討伐についてにゃ」
「魔女討伐?」
聞き間違えでなければ、ミーリスは確かにそう言った。
【魔女討伐】と。
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