第39話 策謀のマギリア 終幕
無事シアを救出し、三人は岐路につく。
ルルルン護衛の任務を終えたカインは魔女の眷属の件を報告するため、途中で別れ教会へと向かう。成り行きとはいえ、カインには感謝しないといけないな、と、ルルルンは遠くなる背中に頭を下げる。
マギリア食堂へ戻るまで、シアはずっとルルルンの手を握り締めていた。強がっていたが怖かったのだろう、心配をかけまいと、そういう配慮をするのは実にシアらしい、小さくておどおどしているが、芯があって決して諦めない強い意思がある、そんなシアからの珍しい甘えはルルルンにとって微笑ましく、嬉しい態度であった。
「どうかしました?」
「いや、何もシアはホントかわいいなって思って」
「ややや、そんな、かわいいとか」
「シアはかわいい、うん、かわいい」
「言い過ぎです」
からかっている訳ではないが、シアの顔は真っ赤になっている。
「ほんと、無事でよかったって思ってるんだ、」
「ルルさんとカイン様のおかげです」
「俺はなにもしてないし、カインパイセンのお力だよ」
事実だし謙遜しているわけではない
「ルルさんってやっぱりすごい人なんですか?」
唐突にシアがルルルンに難しい質問をする。
「なに急に?」
「いえ、再確認、みたいな?」
「うーん、すごいのかも?でも、なんで?」
「フェイツさんがですね、ルルさんが優秀だから会いに来たって、言っていて」
「あー、そうだね、ちょっと目立った事しちゃったからかなぁ」
「私それを聞いて嬉しくて」
「嬉しかったの?」
「はい!私がすごいって思ってる人が、街の外でもすごいって言われてて、同じ職場で働いているってだけなのに、自分の事みたいに嬉しくて、誇らしくて、へへへ……」
照れた素振りで笑顔になるシアを見て、ルルルンがシアの頭をポンと撫でるように叩く。
「ふぇ?」
「がんばってシアがずっと誇れるような存在に、いつかなるよ」
「頑張らなくてももう誇れる存在です」
「もっとすごくなるって話!」
「これ以上すごくなったら、私置いていかれちゃいますよ」
「置いていかないよ、シアはずっと大切な存在だから」
「ふぇ!!!」
不意の言葉に、シアが目を丸くする。
「た、大切ですか!?」
「うん、シアは大切な人だよ」
「……ライネスさまと……」
言いかけた言葉を飲み込む、それは口にしてはいけない、分かっているが思わず出かけた自分の思いにシア自身が一番驚いている。
「ライネス?」
「なんでもありません!」
憧れを超えた想いを口にする勇気はまだない。
「いつか、いつか話ます」
「お、おう、いつかね」
いつか話す、それが今のシアが伝えられる精一杯だった。
「お店に行ったら、店長に謝らないといけませんね」
「そうだなぁ、一日休んじゃったからなぁ」
「お、怒られますかね……」
「いや、流石に怒られないでしょ」
「ですかね?」
などと、大事の後とは思えない他愛のない会話をしながら、二人はマギリア食堂へ向かった。
店に戻ると、バルカンが無事でよかった!!と二人を抱きしめたあと、店に迷惑かけやがって!!!と理不尽にめちゃくちゃ怒られるのであった。
マギリアでの策謀は終わりを告げ、新たな物語が始まる。
―――――――――――――――――――
マギリアの繁華街、その路地裏で、男と女がまぐわっている。
女が男に耳打ちすると、男は態度を豹変させる。
「お前!!!魔女なのか!!!!!」
男は顔を真っ青にして、女を突き飛ばす。後ろに倒れそうになった女は、ふわりと浮かび転倒を免れる、それは魔法であった。
「いったぁ……」
「ま、魔法?ほんとに魔女!?」
「そうだけど、だったらダメなの?いい女が魔女だった、それだけでしょ?」
「馬鹿言うな!!!」
「馬鹿?」
「魔女となんか付き合えるか!!!!!お前らは世界の敵だ!!!!!」
魔女と名乗る女はため息をついて、残念そうに項垂れる。
「残念」
その言葉の後、糸が切れたように男はがくりと膝から倒れこむ。
「ほんと、残念、いい男だったのに」
魔女は踵を返し闇へ消えていく……マギリアでの事件は終わっていなかったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます