第23話 ラザリオン
ルルルンがライネスの後ろに回り手を取って、発動の補助を行う。
「その……手は握っていないといけないのか?」
小さな声でライネスが呟く。
「暴発したとき、俺がカバーするから、手を繋いでないとすぐ反応できないだろ?」
「そうなんだが……」
「どうかした?」
「な、なんでもない!」
恥ずかしそうに目を逸らすライネスに、ルルルンは真面目に説明を始める。
「ライネスに継承したラザリオンって魔法は、雷を身に纏わせる自己強化魔法、それをイメージできないと、雷の力は自分以外に拡散して大変な事になる」
「雷を身に纏う?」
突飛な話に少しだけ驚くが、魔法という自分にとって未知なる力、常識で考えてはいけないと、ライネスはすぐに納得する。
「雷の力で全身を活性化する……」
自分の身体が雷に撃たれ、黒焦げになる姿をイメージするも、ライネスは首を振りそのイメージを払拭する。その様子を見てルルルンは少しでもライネスがリラックスできるよう、握っている手をギュッと強く力を込める。
「ケイスケ?」
「大丈夫、もし失敗しても俺がフォローするから心配しないで!恐怖は失敗を呼ぶ、恐れず飛び込め、何事も勇気のある者に祝福は与えられん」
「お前の世界の格言か?」
「いや、俺の格言」
「なんだそれは」
ライネスの表情に笑顔が戻る。
「よし、やろうか」
「わかった……」
ライネスは息を飲み、ルルルンの手を強く握りしめる。
「集中して、ライネスならもう魔素を感じられるはずだ」
「魔素?」
魔法の源でもある魔素、それを感じ取る事、それが魔法発動への第一歩。
刻印を手に入れたライネスは、それを感じ取れる資格を得た、集中すれば今まで感じる事の無かった魔素を感じ取る事ができる。
目を閉じライネスは集中する、漠然とした魔素という存在を感知するように神経を研ぎ澄ます。
元々優れた剣士のライネスには、その漠然としたものの気配が何なのかを感じ取るセンスがある、実際に対峙したルルルンはそう確信していた。
「魔素の存在を信じて、感じたい、触れたいって思いが、大事だ」
「信じて、感じる」
「魔素はこの世界中に溢れている、それを信じて」
ルルルンの言葉を胸に、しばらく目を閉じて集中していたライネスが何かを感じ取る。
それは、微かな光のような、暖かい熱のような、例える事が難しい、今まで感じた事の無い感覚、ライネスはその感覚達に導かれるまま、目を開いた。
「あ……」
そこには今まで見た事のない色と光の奔流が広がっていた。
「見えてる?」
「これが、魔素?」
神秘的な光の奔流はライネスの心を奪う。
「なんて美しいんだ」
「そう、これが魔法の源、やっぱりライネスはすぐ見えるようになったな」
「どういう意味だ?」
「魔素ってのは本当にその存在を信じて、見たいと思った人間にしか見えない、心に芯がないと魔素は理解することができないんだ」
「そんな精神論なのか?」
「そうそう、意外とそんな感じなんだ、根性とか気合いとか」
「そうなのか……私向きだな」
「そう、ライネス向きなんだよ」
ライネスは手をなびかせ、魔素の奔流に触れる、光は波紋の様に広がって、また一つになり、ライネスの周りを泳ぐように巡る。その姿にルルルンは見惚れてしまった、ライネスの美しさと魔素の光が重なって目を奪われる。
「すごい……」
ルルルンから思わず出た感嘆の一言は、お世辞などではない本心であった。
「やっぱり、ライネスはすごい」
「なにがだ?」
「最初っからこんなに魔素と仲良く出来る奴なんか、見た事ない」
「仲良く?」
「魔素に好かれる奴は、優秀な魔法使いなんだよ」
「よくわからんが、妙な気分だ、初めて感じたのにそうじゃない、みたいな」
そう話ながら、ライネスは魔素に臆することなく積極的に触れ、それがどんな物なのか、理解しようとしていた。
「魔素は世界中に溢れていて、生まれた時から誰もが常に関わり続けている、そう感じるのはおかしい事じゃない」
「……世界にはこんなに美しい力が存在するんだな」
「そうだよ、魔素はいつだって傍にあって、俺たちを助けてくれるんだ」
魔素に感動するライネスを見て、ルルルンは自分がヨコイケイスケだった頃を思い出す。
魔素が溢れていた元自分のいた世界、この世界は自分が魔法を知ったあの頃の世界と同じだ、魔法は決して恐ろしい物じゃない、世界を助ける力なんだ。
ライネスを見てルルルンは改めて魔法の尊さを確認する、ライネスに魔法を継承したことも、絶対にこの世界の為になる、ルルルンはそう確信していた。
「ライネスなら、きっとうまくいく」
「ケイスケがそう思うなら、うまくいくさ」
「じゃあ始めよう、ライネス」
「ああ!」
ルルルンの言葉を信じ、ライネスは再び目を閉じ、深く深呼吸をする。
「ライネス、魔法の名前を」
ルルルンに促され、ライネスは継承した魔法を詠唱する。
『ラザリオン』
魔素がライネスの手に刻まれていた刻印に吸い込まれると、その刹那、閃光と共に【
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