第33話 策謀のマギリア③
怪しい魔法使いとの一件があった翌日、屯所の管理を滞りなく終えたルルルンは、拍子抜けしていた。「結局なんだったんだ?」毎日来るわけではないのかと、相手の見えない目的に若干モヤモヤしてると、見覚えのある赤い髪の騎士がルルルンを探していた、ルルルンの姿を見つけたカインが足早に駆け寄ってくる。
なにやら嫌な予感を感じたルルルンはカインに背を向け逃走を図ろうとする。
「うおぃ!!さりげなく逃げようとするな!!!」
「いやだって、パイセンがそんな顔して走ってきたら逃げるよ!嫌な予感しかしないもん」
しぶしぶカインに捕まって話を聞く事にするが、カインはいたって真面目な表情で話しを進める。
「ルルルン、聞いたぞ、魔女の眷属がお前を狙ってるらしいじゃないか?」
カインの口から出てきた要件は意外なものだった。ライネスから聞いたのか、耳の早い事だと、思いつつルルルンはカインに説明をする。
「正確には、狙われたって話で、今日は狙われなかったよ」
「いや、そう言う問題じゃないだろ!?お前は女だぞ、何かあったらどうする!?」
真剣な表情でカインが詰め寄る。カインの熱量とは裏腹に、なんというステレオタイプなのかとルルルンは呆れ顔である。
「あ、いや、俺は一人で大丈夫だから、ほんと」
「だめだ、犯人は聖帝騎士団が見つけてやる、それまでの間、俺が護衛する」
「え?やだよ」
「だめだ!!私の知り合いが命を狙われているのを知っていて、何もしないなど、騎士の汚名だ!!」
めんどくさい事になりそうだと、ルルルンはやんわり拒否しようとするが、カインは真剣な眼差しで詰め寄ってくる。
「でもパイセンって隊長でしょ?隊長なんて偉い人がこんな小娘の護衛とかだめでしょ?」
「問題ない、ライネス様からの命令だ、しばらくの間私の隊は副長に任せてある」
「ライネスかぁ……」
だからやる気満々なのね、と納得すると、半ば諦めモードのルルルンは、さっさと犯人を見つけてこの押しかけボディーガードを返品したい一心である。
正直カインの実力も知らないルルルンは、逆に足手まといになるのではないかと心配すらしている。
「今日は昼から食堂で仕事なんだけど、もしかして来るの?」
「当然だライネス様の命令だからな」
「はい、そうですか」
諦めてカインと共にマギリア食堂に向かう。
「おはようございます!!」
大きな声で元気よくが、出勤時のルルルンのポリシーであが、カインとの同伴出勤がその元気を奪う。こんなテンションで挨拶すれば、いつもならバルカンの怒声が響くのだが……食堂の様子がおかしい。
「どうかしました?」
店主のバルカンが難しい顔をしている。いつも怒るか、笑っている所しか見たことがなかったので、ルルルンはただ事ではないと身構える。
「いやぁな」
バルカンが重たい口を開く。
「シアがまだ来てないんだわ」
シアが来ていない……遅刻だろうか、ルルルンは特に思いを走らせる事無く、何故バルカンがそんなに深刻な顔をしているのか分からなかった。
「遅刻とかじゃないんですか?」
「いやいや、ありえねえよ、あいつは今まで一度も無断で遅刻をしたことがねえんだ」
「いや、シアでも寝坊くらいするんじゃないですか?」
「お前は知らねえだろうけど、シアは毎朝食堂に来て掃除やらなんやらやってくれてる」
「いや、知ってますよそれくらい……って……え?じゃあ」
「朝も来てねえんだ、そんな真面目なシアが昼まで寝坊するか?」
「確かにそうだけど、心配しすぎじゃ……」
バルカンの話を聞いて、少しずつルルルンも不安になってくる。
「シアさんがどうかしたのか?」
ルルルンの隣にいたカインが口を挟む。
「ちょっとトラブルかも」
「そうか、手伝える事はあるか?」
迷いなく真っすぐな意見を投げてくる、こんな時だからか、そんなカインが頼もしく見える。
「いや、心配しすぎなだけかもしれないし、まだ確定な話じゃないから……」
「馬鹿者、少しの心配が大事に繋がる事もある!シアさんの安否が気になるんだろ?私も協力する」
「パイセン、ライネスみたいな事言うのな」
「当然だ!!!」
誇らしげに協力を買って出たカインに、ルルルンは素直に感謝する。
「じゃあカインさんと探してきます」
「頼めるか?」
「シアの家ってわかります?」
バルカンは簡易的な地図を紙に書きルルルンに渡す。
「これで寝坊だったら許さねえからな」
「そっちのほうがいいですよ」
「頼んだぞ」
「お任せ下さいバルカンさん!」
ルルルンとカインは店を飛び出て、バルカンに貰った地図の場所に向かった。
「嫌な予感がする」
「嫌な予感?」
「昨日の今日のタイミングで不自然すぎる」
「お前を狙ってる奴絡みか?」
「あの時、シアと一緒に居るところを見られてる」
「なるほど、そういう事か」
フードの魔法使いが、自分と親しい人たちを狙う可能性に、なぜか気づかなかった。その浅はかな考えに、ルルルンは悔しさを感じていた。
「ここだ」
地図の場所に着くと、二人は警戒しつつ、シアの部屋へと向かう。
「ドアが開いてる」
開いたままのドアを見て、ルルルンは慌てて部屋を確認する。
「シア!?」
そこにシアの姿はなく、部屋は人気のない空気に満ちていた。魔力の残り香が、シアに何かあった事を、如実に現わしていた。自分のせいだと内から湧き上がる後悔の
念が、ルルルンは拳を強く握らせる。その気持ちを察したのか、カインがルルルンの肩をポンと叩く。
「大丈夫だ、俺が何とかする、だから安心しろ」
「カインパイセン」
「シアさんは必ず見つけてやる」
「ありがと」
カインの本気の瞳に、ルルルンは落ち着きを取り戻す。
「まずは居場所だな」
シアは必ず助ける!ルルルンのシアを思う気持ちが、彼女を本気にさせた。
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