第32話 策謀のマギリア②
マギリア中心部から少し離れた静かな住宅エリア、街の活気とは程遠いが、雰囲気のよい閑静な住み心地のよい場所だ。
マギリア食堂で働くシアは、このエリアで一人暮らしていた。
「今日もルルさんに会えたし、明日も会える」
ニコニコと笑顔で、明日の準備をしているシアは、ルルルンに明日も会えると考えると、思わず笑顔になってしまう。
両親を早くに亡くし、一人で暮らしてきたシアにとって、突然現れたルルルンは、姉に近い存在なのかもしれない、優しく自分に接してくれるその姿に、いつも励まされる。シアにとってルルルンは憧れ以上に大切な存在になりつつあった。
「私、おかしいのかな、女の人と一緒にいてドキドキするなんて」
自分でも不思議なその感覚にシアは戸惑いつつも、胸に手を当て、正体の分からない感情に暖かい何かを感じていた。
「お弁当とか差し入れに持っていったら迷惑かな……」
屯所で働くルルルンのために、自分が出来る事はないかと考える。自分が出来る事は少ない、それは理解している、いつも失敗ばかりで迷惑をかけてばかり、そんな自分にできる事はこんな小さな事しか思いつかない。自信はないが、毎日お腹減ったと口にしているから、お弁当は喜ばれるに違いない、シアは前向きに考える。
「ルルさん何が好きなのかなぁ……喜んでくれるかなぁ……」
お弁当に何を入れるか、胸を躍らせ部屋の中を落ち着きなく歩き回る。
トントン
ドアをノックする音が、舞い上がっているシアを現実に引き戻した。
「こんな遅くに、だれだろう……」
小走りに部屋の入口に向かい、ゆっくりとドアを開き来客と対面する。
「夜分に申し訳ありません」
黒いフードを被った女性が笑顔で語り掛ける。
「はい……どなたですか?」
シアは警戒する事なく、訪ねる。
「青い髪の女性とお知り合いですよね?」
「ルルルンさんの事です……よね?」
「ルルルン……そうです、そのルルルンさん」
女は確かめるようにゆっくりと話す。
「知り合いですけど、ルルルンさんがどうかしましたか?」
「はい、ルルルンさんについて知りたくて……少しだけ付き合って頂きたく、お時間よろしいですか?」
女がそう言って手を差し伸べる、表情は笑っているが、目は笑っていない。シアは突然の訪問者に対し明らかな警戒感を示した。
「あれ?怖がらせてしまいましたか?」
「いや、そういうわけじゃ」
「大丈夫、私は、そういうのではありませんから」
フードの女の表情が変わる。
「え?いや、今日はもう遅いので、明日に……」
慌ててドアを閉めようとしたシアの動きが停止する。
「あ……う……あぁ……」
「……ごめんなさい」
そう言うと、マントの中から魔動器を取り出す。すでにそれは起動しており、シアを拘束する魔法が発動していた。
「手っ取り早く餌になりそうなのが、あなただけだったから」
「ああ……うあ」
フードの女は冷たい笑みを浮かべ、シアを担ぎ暗闇の中に消えていった。明かりのついたままの室内と開きっぱなしのドアが静かな空間を異質なものに変えていた。
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