第53話 超越する空

 命中したストリムランスは、エクスキャリバーンの周りの空間を歪め、エクスキャリバーンの存在その物を消滅させるかと思われたが。


「ぬああああああ!!!」


 エクスキャリバーンが歪んだ空間の中、ストリムランスを両腕で抱えるようにホールドすると。


「はああああああ!!!!!!」


 気合い一閃、全てを消滅させるはずの究極の魔法はエクスキャリバーンの腕の中で潰され霧散する。


「ま、まじ!?」


 ストリムランスをあっさり無効化されたルルルンは驚きを隠せずいた。現有する、生物、魔法、魔導器、いかなる防御効果を持ってしても防ぐことはできない、それがストリムランス。

 設定上たしかに魔法が効かない設定にしたが、まさかこれほど再現してくれるとは。


「誰だよこんな設定作ったのは……」


 俺だよ!と心の中で一人ノリ突っ込みをして、ルルルンは改めてエクスキャリバーンを見据える。


「どうしたライバルよ、こんなものか?お前はもっと強かったはずだ!魔法の力が落ちたんじゃねえのか?」

「魔法の力が落ちた?」

「あぁ、そうだ!以前のお前はもっとすごい魔法使いだった!まだ本気を出していないなら、早く本気を出せ!!その方が俺も楽しいからな!!」

「もっとすごい?」


 考えてもみなかった、可能性。

 この世界に来て魔法が使える事実にはしゃいで、見向きもしなかった。


「ヨコイケイスケの身体じゃないから?」


 今のこの状況で考えたくもない可能性、極界魔法を使った反動か、ルルルンの刻印は魔素を取り込み過ぎてオーバーヒートのような状態になっている。

 確かに以前のヨコイケイスケならこんな事にはならなかった、限界を感じる事すらなく無限に魔法を使えていた。


『ヨコイケイスケではない事が本来の力を発揮できない足枷になっている?』


 それが本当ならば由々しき事態だが……

 しかし現在の状況は、そんな事を考える余裕を与えてくれない。

 目の前にいる巨大ロボは確実に自分の天敵であり、状況は芳しくないのだから。



「悲しいもんだな、かつての好敵手ライバルが悪の道に足を突っ込んじまうってのはよぉ!!」

「突っ込んでない!!勝手にストーリーを作るな!」


 エクスキャリバーンの中では、この世界でルルルンは魔女を名乗り凶悪の限りを尽くす本当にどうしようもない魔法使い、そういう事になっているのだろう。


「聞いたぜ、魔女ってのはこの世界で悪の限りを尽くす、本当にどうしようもねえ魔法使いだって、しかしながら、それがお前だったとはね」

「想像通りの事いいやがって!!誰に吹き込まれたのか知らないが、それは間違った情報だ!!」

「何言ってやがる!!現にお前は魔女の住処にいたじゃねえか!!お前が魔女でなかったら誰が魔女なんだ!!」

「俺は魔法少女だ!!!」


 意地で言い放ったその言葉にルルルンはハッとする。

 俺は魔法少女だ……つまり。


「俺は魔法少女ルルルンだ……」

「そうだ!お前は魔法少女ルルルン!そのライバルとして、俺様の手で!魔女に堕ちたお前に引導を渡してやる」

「エクスキャリバーンが俺の作った設定通りなら……」


 そう呟くと、ルルルンは自身の手を見つめる。


 エクスキャリバーンの設定以上に、ルルルンの設定もめちゃめちゃに盛ってある!

 エクスキャリバーンが設定通りの強さなら、ルルルンも設定通りかもしれない、だとすれば可能性はある……。

 エクスキャリバーンに対抗する唯一の魔法、魔法少女ルルルンにしか使えない、どの界位でもない、この世界には存在しない、発動する事は絶対にできない世界の理を越えた魔法。


 【超越魔法ヘブンスフォール】を使える可能性が。


 全てのアンチマジックを無効にする、対エクスキャリバーンの為に設定したルルルン専用のでたらめ魔法。


「これが発動しなかったら勝てないかな」


 フゥ、と一息、ルルルンは一か八かの賭けにでる。


「頼む……」

「何だ?何をする気だ?」


 両手を天に掲げて、発動するかも分からない魔法を発動させようと、ルルルンは呟く。


「発動しろ発動しろ発動しろ……」


 願う、虚ろな願いを、言葉にするその魔法の名を。


「超越魔法ヘブンスフォール!!!!」


 詠唱も、刻印も、魔素も、原理も何もかも無視して、ルルルンは思いだけでその魔法を唱えた。

 

 しかし……


「何も起きないぞ?ハッタリかルルルン!!」


 大袈裟な構えと呪文に身構えていたエクスキャリバーンは、残念そうに周りを見渡す。


「なにも……起きない……」


 奇跡は起きなかった、当たり前だ、魔法を知り尽くしているからこそ、原理を無視してこの世に存在しない魔法が成功するはずもない。わかっていたとはいえ、空振りに終わった超越魔法の発動に、ルルルンは肩を落とす。


 しかし、エクスキャリバーンはルルルンとは、まったく逆のリアクションをしていた。

 

「そうだな、ルルルン……そうこなくちゃ面白くない!!」


 肩を落とし下を見るルルルンとは対照的に、エクスキャリバーンは、何故か空を見上げている。


「なにを見て……」


 エクスキャリバーンの見上げる先をルルルンも確認する。


「なんだこれ……」


 それは見たことの無い大きさの魔法陣、その紋様はルルルンの知らない未知なる紋様。魔法の世界には存在しない形、おそらくはヘブンスフォールを発動するための魔法陣、その超越魔法の発動に、それを行ったはずのルルルンは驚きを隠せないでいた。


「これが超越魔法……ヘブンスフォール」

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