第28話:昔の記憶

「悠くん!!」

「あ、姉ちゃ」

「よかった、よかったぁ……」

「は、恥ずかしいよ。姉ちゃん……」

「バカっ! みんなに迷惑かけて……」

「ご、ごめんなさぁい……」


 再開した会長が悠くんを抱きしめていた。会長は安心もあってか涙を流す。それにつられて、悠くんもまた一緒になって泣き出した。


 うんうん。やっぱり姉弟愛って素晴らしいね!!

 見てるこっちまでほっこりしてしまうぜ。


「よかったね、見つかって」

「ああ。……鈴原?」


 春沢の言葉に頷いた後、鈴原を見る。会長と悠を見るその顔はどこか寂しそうな表情だった。


「なんでもないわ」


 まぁ、なんでもないなら、いい、か……。

 ん? あ、れ……? 体に力が入らない。これはアレルギー反応? いや、違う。女性には触れられていない。

 じゃあ、なんだ……? ああ、もうダ、メだ……。


「間宮くん!?」


 視界が暗転した。




 ***


 小さい頃の記憶はあまりない。

 でも物心ついた時だったか。

 あの頃の俺はもっと自然にあの子と手を取り合って遊んでいたように思う。

 あの髪の綺麗な────。


 ***




「……っ……ぁ…………」


 ボソリボソリと誰かが何かを話しているのが聞こえる。

 いや、これは独り言だ。目を開けようとしても中々、この重いまぶたは上がってくれない。

 薄らとシルエットだけ。そして手には温もりを感じた。


 その人物は何かを呟きながら俺の手を握っていた。

 ああ、だめだ。その人物が女性であることはなんとなくわかった。


 女性が俺に触る? だめだ、アレルギーが出てしまう。手を離さないと。

 ぼーっとする頭の中で繰り返し、そのことだけを考える。


 だけどそれ以上、何も考えられない。

 ああ、でも温かい。誰かに手を握ってもらえるってこんなにも温かいんだ。


「…………好き……………」


 小さくそれだけが聞こえた後、俺の意識はまた深く沈んだ。



「ん……?」


 むくりと体をゆっくりと起こした。


「あ、俺……」


 何してたんだっけ?


「あ、倒れてたのか!」


 寝不足だったとはいえ、まさか倒れるとは思ってなかった。それにしても体がだるくて熱い。まさか風邪かとか? それに誰か居たような……?


「お? 目が覚めたか?」

「……太一? なんでここに?」

「あー実はな。俺らの部活もこのボランティア合流してたんだ。といっても別の場所を掃除してたんだけど、それほど離れてなくてな」

「なるほど……? それでなんでお前がここに?」

「そりゃ、相棒が倒れたって聞けばな」

「お、おう……ありがとう」

「今度の昼飯奢りな」


 太一はニカッと笑った。


「それはそうと、ずっとお前がここにいてくれたのか?」

「ああん? なんでだ?」

「いや、ちょっとな。他に誰かいなかったかなって気になって」

「俺がずっと見てたわよ」


 おえええええええ。吐き気。なんで急にオネエ言葉で顔赤らめてんだよっ!?


「なんだよ、そんな顔真っ青にしなくてもいいだろ。冗談だ、冗談」

「まぎらわしいわっ!!」

「ここになら、鈴原と春沢と会長が交代交代で見てくれてたぜ。ちょうど俺のタイミングでお前が目を覚ましたってわけ」

「最悪のタイミングじゃねえか」

「そんなに言わなくても……」


 わざとらしく涙目になるな、気持ち悪い。


「じゃあ、創麻が目覚めたところで俺、ちょっと席外すわ。また戻ってくるからなんかあったら遠慮なく言ってくれ」

「あいよ」


 そう言うと太一は出て行った。


「……それにしても一体誰だったんだ?」


 俺は自分の手を見つめてそう言う。確かに温もりがあった。これは気のせいじゃない。


 朧げだが、覚えている。誰かがずっと俺の手を握っていてくれたことを。さっきの感じから太一ではないし、男にそんなことするようなやつでもない。そうだとしたら俺は太一に温もりを感じていたことになる。おえ。


「あの三人の誰か……か?」


 別にあの三人に手を握られたことは嫌じゃない。

 ただ、不思議だったのは全くアレルギー症状が出ていないということ。鼻血も、握られていた右手を見ても赤くともなんともなっていない。


「一体誰が……それに……」

「好き」と言われた。一気に顔が沸騰したように熱くなった。

 そのタイミングでガララと扉が音を立てて開く。太一が帰ってきたのか?


「あら、やっとお目覚めね」

「もう心配したんだよ!!」

「よかった……」

「鈴原に春沢に会長……」

「何かしらその顔? 間抜けな顔が余計に間抜けに見えるわよ」

「もう熱は下がった?」

「私のことも会長呼びじゃなくて、ちゃんと名前で読んでね」


 三者三様の反応。俺は自分の手と交互に三人をじっと見つめる。


「どうしたの?」

「ちょっと三人ともいいか?」


 三人は頭に疑問符を浮かべた。そして俺は思い切ったことをした。


「なっ!?」

「ま、間宮くん!?」

「えっと……?」


 三人手を順番に握った。

 おおお、鼻血、出な──


「ぶふぉ」


 俺の意識はまたそこで途切れた。

 ああ、やっぱりわかんねぇ……。





───────


ここまでお読みいただきありがとうございました。

中途半端にはなりますが、一旦、本編はここで終了となります。


よければ、感想や評価等をよろしくお願いします。

また、作者のフォロー等もぜひぜひお願いしますね。


完結してすぐにはなりますが、次回作のご案内です。


と思いましたが、カクコンがもうすぐ始まります。

本当は間に後一回連載をしたいところではありましたが、少しスケジュール上難しくなってしまいました。


その分、カクコンに出す作品はいい作品にしようかと思いますので、応援のほどよろしくお願いします。


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それでは、ありがとうございました。





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毒舌美少女の鈴原さんは俺にだけ苦甘い mty @light1534

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