第11話:度胸と勇気
これってデートってやつか?
俺が鈴原とデート。う〜ん?
相手はあの鈴原。そして昨日から一緒に住み始めた同居人。
一夜を共にしたとはいえ、俺はまだまだ鈴原のことを知らない。
別に付き合っている相手でもないのに一緒に住むことは不自然なことと言うのは分かっている。
本人曰く、俺の体質を治すためとのことだが……。
俺をからかいつつも妙に積極的な気がしなくもない。
まさか、俺のこと……好きとか?
…………いや、それはないか。深く考えるのはやめよう。
デートと言っても何かはっきりとした目的があるわけではなかった。映画を見に行くとか、話題のスイーツを食べに行くとか。はっきりとした回答は返ってこない。俺は、鈴原に連れられながら、人混みを避けて歩いていく。
そうして辿り着いた先は、複数のセレクトショップやファションブランド店が立ち並ぶ複合施設だった。
「何? 服でも買いに来たの?」
「いいえ、特に目的があってきたわけではないわ」
「じゃあ、何しに?」
「さぁ? ブラブラするのも悪くないんじゃないかしら」
そういって鈴原はスタスタと先へ歩いて行く。
相変わらず、考えてることがさっぱりわからんやつだ。俺は置いていかれないように駆け足で追いかけ、エスカレーターに乗った。
この施設には女性モノから男性モノのファッションブランドまで多くの店舗が軒を連ねる。大半が10代から20代の若者であり、周りの客も自分たちと同じように高校生も多かった。
そしてそんな高校生から、おそらく大学生も。みな、一度は鈴原を見て、息を飲む。それほどまでに鈴原の容姿は整っており、気品に満ち溢れたその姿は美しいと言わざるを得ないものだった。
そんなやつと一緒に歩いているものだから、一度はみんな俺を見る。最上級の女性が連れている男性に興味があるのだ。
「うーん、悪くはないけど、及第点ね」
「そう? 私は好みの顔だけど。十分イケメンだと思うわ」
「私はもっとガテン系の方が好みね。筋肉」
「く、なんて羨ましいんだ。あんな子と」
「あいつ、路地裏に引き込もうぜ」
「あれなら俺の方がチャンスあるんじゃね?」
と、こんな感じで俺への感想がところどころ聞こえてくる。評判は上々といったところか。自分で言うのもなんだが、俺自身も容姿はそこまで悪くないという自負がある。こういうのは変に謙遜するより、開き直ってある程度認めてしまう方が印象としては良いのだ。
「随分、人気者なのね」
「お前がな。こういった視線には慣れてるのか?」
「多少わね。良い気はしないわ。たまにめんどくさい男も寄ってくるし」
美人すぎるっていうのも考えものなんだな。
「それより、この店入りましょう」
いくつか店を回った後、立ち止まった鈴原が指を差したお店は女性用のファンションブランド店。
少し、入りにくいなと思いつつも入らなければ文句を言われると分かっていたので仕方なく俺は鈴原について入店した。
店内は明るめ証明が使われており、大人っぽい服が多い。どちらかといえば、可愛い系のものより、大人っぽい魅力を引き出すのがコンセプトのお店のようだ。
周りにはカップルはほとんどおらず、女性同士のお客がほとんど。そもそも女性用のお店など来たことのない俺は、異世界にでも迷い込んだかのような錯覚を覚える。それでもこれが下着売り場とかじゃなくてよかったと安堵した。
鈴原ならヘタをすれば俺をからかうためにそんなところへ連れて行くと言う可能性もある。もしかしたら、これから連れていかれるのかもしれない。
「……」
その時は全力で逃げよう。
「どうかしら?」
鈴原は一枚の黄色のワンピースを手に取り、自分に当ててこちらに見せてきた。
残念ながら俺に女性の服装の良し悪しはわからないので気の利いたことは何も言えないのだが……ここは正直な感想でも伝えよう。
「鈴原にしてはなんだか、珍しい色だな。鈴原の場合、もっと落ち着いた色の方が似合う気もするけど。今日だって紺のワンピースがよく似合ってるし」
「そうかしら。それじゃあ、これはどう?」
今度は、薄い水色の生地をベースにした花柄のワンピースを手に取り、見せる。ワンピース好きだな。
「ああ、それだったら似合いそう。かなり清楚な感じがしてぴったりだと思う」
「そう。なら、試着してくるわ」
「あ、おい」
鈴原はそう言って、試着室へと少し上機嫌になりながら試着室へと向かって行く。
ああ、あのワンピース結構、気に入ってたんだな。
「覗きたいなら覗いて良いわよ」
試着室へ上がった鈴原はカーテンを閉めないでそう言った。
「普通、覗いたら許さないとかいうところだろーがよ」
「あなたにはそんな度胸も勇気もないと思ったからそう言ってあげたのよ」
「いいから、早く試着しろよ」
鈴原はようやくカーテンを閉め、試着を始めた。
この薄いカーテンの向こうでは今、鈴原が着替えている。ワンピースなので今着ているもの全て脱いで着替えるはずだ。
鈴原の白く、絹のような綺麗な肌に淡い色の下着姿……っていかんいかん、何妄想してんだ。これじゃあ、まるで変態だ。
昨日、バスローブ姿を見てるんだ、これくらいで動揺するんじゃない!
『覗きたいなら覗いて良いわよ』
さきほどの言葉が反芻する。
……いやいやいや。度胸も勇気もないと言ったいけど普通に考えて、ここで度胸と勇気を出す必要性ないから。出しちゃったら捕まっちゃうから。
別のこと、考えよう。それがいい。カーテンの向こう側のことは一旦リセットだ。煩悩退散!!
俺は頭を振り、思考をリセットして周りを見渡す。よくよく考えれば女性しかいないこの店で男であるこの俺が一人で立っているというのもすごく居心地が悪い。
周りのことは気にせず、俺はスマホをいじって試着が終わるのを待つことにした。
「あれ? 間宮くん?」
しかし、天はそれを許さなかった。
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