第25話:シスコンとロリコン

 その後、集合場所に集まった学園の生徒は会長の挨拶を聞いた。

 今日は、学校近くの幼稚園の園児たちを交え、一緒に山を掃除しようという内容だ。山と言っても標高は低く、キャンプ場を併設しているところで、ゴミ拾いが終わったらこのキャンプ場を使ってバーベキューをしようということになっている。


 挨拶の後は簡単な説明があった。

 俺たち、生徒と子どもたちが一緒にペアになってゴミ拾いを行い、その間保護者の皆様は、バーベキューの準備をしてくれるとのことだ。


 会長から名簿を受け取り、俺たちは決められたペアに別れた。


「お兄ちゃん、よろしくね!!」

「おおふ」


 ペア、というのが園児たちと二人一組というのは想定外だった。しかも相手は女の子。これまたお転婆感あふれる元気な女の子だ。


 おいおい。運営よぉ。どうなってんだ。こんな小さな可愛い女の子を男に預けるなんざ、危険なことしていいのかい? もし、俺が小さい子見て欲情するような人間だったらどうするよ? ここは、普通に考えて同性同士で組むのが筋じゃないのかい?


 ……一応言っておくが、俺は小さな女の子に犯罪的行為を犯すような興味は全くない。断じてな。


「会長。すみません」

「あら、間宮くん。どうしたの」

「会長のペアの子と代わってもらえませんか?」

「どうして?」

「あ、いや……ほら、小さな女の子って苦手で」

「へぇ。意外ね! でも」

「やだっ!! 俺、お姉ちゃんと一緒がいい!! こんな得体の知れない男なんてやだ!!」

「こら、悠くん。失礼なこと言わないの!」


 会長の後ろに隠れていたおそらくペアであろう子からとんでもない評価を受けていた。

 いや、本当にな。得体の知れないって何よ。お兄さん優しいよ?


 それにしても会長とその子の関係はやけに親密だ。男の子は会長の足にしがみついている。とてもこのボランティアの間だけで知り合ったとは思えない感じだ。


「えっと、その子は……」

「ああ、悠くんは私の歳の離れた弟なの。ほら、悠くん。お兄さんに挨拶して」

「お前、姉ちゃんのことやらしい目で見てるだろっ!! お前みたいなやつに姉ちゃんは渡さないからな!!」

「あ、こら!」


 そういうと悠くんは走り去ってしまった。いやらしい目でなんて見たことありません。決して。それにしても……典型的な、あれだな。


「ごめんね、間宮くん」

「いえ、気にしないでください。それより、追いかけないと」

「ありがとう。やっぱり間宮くんは優しいわね」


 会長はこちらに軽く微笑んだ後、悠くんを追いかけて行った。

 さてはて。困った。どうしよう。結局、ペアの交代はしてもらえなかった。


 後は、鈴原と春沢のところか?

 そう思っていたら、俺のジャージが軽く引っ張られる感覚に陥る。


「真輝のこと、いやなの……?」


 振り向くとそこには俺のペアである女の子が目に涙をいっぱい溜めていた。


 あっかーん!! これは完全にやらかしたやつ!

 そうだよな。確かにペアを変えてなんて聞いたら自分のこと嫌だと思うよな。


 周りを見るとうちの生徒やそのペアの子たちがこちらを不安気に見守っている。


「ごめん、そういうんじゃないよって、待って。泣かないで! 今のはお兄ちゃんが悪い! 悪いからお願い! 泣かないで!!!」


 俺は真輝ちゃんと同じ目線になるためにしゃがみ、慌てて慰めようとした。


「ぐすん、ひっぐ……真輝……いらない子?」


 罪悪感がとんでもない。胸がえぐられる。


「いやいや、全然! お兄さんと一緒に楽しくゴミ拾いしよう!!」

「……じゃあ、頭撫でて?」

「あぅぅ……」


 我ながらなんて情けない。非常に男らしくない声が出てしまう。

 追い詰められた。目の前には涙目の幼女。ここで拒否すれば、俺は死ぬ。拒否しなくても死ぬ。


 勝負は一瞬だ。一瞬であれば、どうにか……っ!! 

 もってくれよ、俺の体──ッ!!!


「じゃ、じゃあ、撫でるよ?」

「うん! いっぱいナデナデしてね!!」


 無邪気な笑顔。あ、あれ? 泣き止んでない?


「よ、よしよし」


 俺はほんの一瞬、真輝ちゃんの頭を優しく撫でた。

 そしてすぐに手を離す。ふぐおおおおおお。


「もっとしてー!!」


 思わず、目を瞑り、目頭を押さえる。


 た、助けて。鼻血出ちゃう……かゆいかゆいかゆいぃぃぃ。


 幼女を撫でて鼻血なんか出して倒れたら、俺は間違いなく終わる。下手したら逮捕される可能性すらある。そして一生、犯罪者としてのレッテルを張られ続けるのだ。


「ふぁ」

「ふふ、どう? 私でもいいかしら?」

「うん!! ありがとう、お姉さん!!」

「お、おろ?」

「何してるのかしら間宮くん。まさか小さい子に手を出しているなんて。見損なったわ」

「してねえよ。というか俺が何もできないの知ってて言ってるだろ」


 目を開けると目の前には、真輝ちゃんの頭を優しく撫でる鈴原の姿があった。た、助かった。


「真輝ちゃんだったわね。ごめんね、このお兄さん結構、危ない人だから。迂闊に体を触らせちゃダメよ」

「え? そうなの? わかった!!」


 くぅ、ナイスフォローだ、鈴原!! ただし、より一層犯罪者扱いに近づいたぁ!!!


 それにしても意外な一面だな。他人と関わるのが好きじゃないのに、子どもの扱いは慣れているのか。


「あ、間宮くんに鈴原さん! 何してるの? よかったら一緒に掃除しようよ!」


 そこへちょうど、ペアの男の子を連れた春沢も合流した。

 俺たちは、三組一緒に行動することとなった。


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