第26話:修羅場な予感

 俺は極力、ペアの女の子、真輝ちゃんに触れないようにしながらゴミ拾いを進めていく。触れられないだけで会話ができないわけではないので、適度にコミュニケーションをとっていく。


「真輝ちゃんはあっちの子たちとはお友達?」


 俺は、鈴原と春沢の方を見てそう言った。

 鈴原のペアは女の子でおさげで大人しそうな女の子だ。そして春沢のペアの男の子は、子どもなのにどこかクールな印象を受けた。


「春馬くんと美紅ちゃん? うん、お友達だよ!!」


 おお、やっぱりか。楽しそうに話していたし、同じ園だからそりゃそうだろうけど。この年齢の子たちは俺たちと違ってやっぱり人間関係で悩むことなんてないんだろうな。みんな仲良し。それが一番だな。


「美紅ちゃんはね、春馬くんが好きなの!!」

「お、おう」

「だけど、春馬くんはね! いろんな子からいっぱい告白されてるの!!」


 なるほど。春馬くんはラノベの主人公属性だった。今からモテモテですかい。


「だから春馬くんを好きな子はみんなでね、勝負してるの!」


 思ったより、ドロドロした関係だった。最近の園児はませてるのね……。


「真輝ちゃんも春馬くんのことが好きなの?」

「違うよ! 真輝が好きなのは、悠くんだよ」


 なるほど。会長の弟か。生意気なシスコンだが、やるじゃないか。


「それでお兄さんはどっちのお姉さんが好きなの?」

「どっちってなんだ。誰のことを言ってんだ?」

「あのお姉ちゃんたちだよ。どっちも美人さんだね!」


 真輝ちゃんは、鈴原と春沢を差してそう言った。


 なんで、そーなるんだ。俺が鈴原と春沢を? 冗談は寄せ。

 と思ったが、よくよく考えるとここ最近で一番絡んでいる女子があの二人だ。しかも、鈴原に関しては俺の体質のことを知っていて一緒に住んでいるし、春沢とは一年からの付き合いだ。


 彼女たちを全く異性として意識していないか、と言われればそれは否定せざるを得ない。容姿だけでいえば、どちらもかなりの美少女であることは間違い無いし。


「……」

「あれ、なんの話ししてるの、間宮くん」

「口を動かさないで、手を動かしなさい。その口縫われたいの?」


 二人の話をしているところでタイミングよくこちらにやってきた。


「お姉ちゃんたちはどっちがお兄さんの彼女なの?」

「ええええ!?」

「かっ──!?」


 え、何その反応。春沢はともかく、珍しく鈴原が慌てている。


「……こほん。何を言ってるのかしら。私がこの男の? ありえないわ」


 今更、取り繕う鈴原。その頬は心なしか赤いようにも見える。


「みんなちゃんとやってる? あら、二人ともなんでそんなに顔が赤いの?」


 そこに更に会長が参入した。やっぱり顔が赤いのは気のせいじゃなかった。


「あ、悠くんのお姉ちゃん! こんにちは」

「真輝ちゃん、こんにちは」

「おっす、真輝」

「おっす、じゃないでしょう。もう! ほら、みんなで一緒にゴミ拾いしておいで」

「真輝、行こうぜ」

「うん!!」


 悠くんと真輝ちゃんは仲良く手を繋いで春馬くんと美紅ちゃんのところへ向かった。


「じゃあ、私たちもあの子たちを見つつ、ゴミ拾いしましょ」


 会長が来たことで先程の話はうやむやになった。特に掘り返すつもりもないのでここは会長が言う通り、ゴミ拾いに集中しよう。なんたって、ボランティアに来たんですからね。


 それに会長が率先してゴミ拾いを行う姿を見せられれば、俺たちだけ駄弁っているわけにはいかない。


 俺たちは子どもたちを見つつも周りのゴミをトングを使って拾い、ゴミ袋へと入れていく。



 そして時間が少し経ったところで会長が口を開いた。


「それでさっきはなんの話ししてたの?」

「なんでもないわ。会長も口じゃなく手を動かしたらどうかしら」

「手厳しいね。でももうこの辺のゴミはあらかた拾い終わったしね。ちょっとした息抜きも必要じゃ無い?」

「……」

「それで春沢さんだったかな。なんの話をしてたの?」

「ええ!? それは……その……」


 鈴原が答えてくれないと思ったのか、会長は春沢にターゲットを変えた。春沢はというと話しにくそうにモジモジしている。仕方ない。ここは俺が話そう。


「真輝ちゃんに鈴原と春沢がどっちの俺の彼女か聞かれていたんですよ」

「へぇ。それは私も気になるね。実際のところどうなの?」

「興味持たないでくださいよ。どちらも違いますよ。ただのクラスメイトです」

「ただのクラスメイト……」

「サンプルのくせに生意気ね」


 そう言った瞬間、春沢はなぜか少し元気がなくなり、鈴原はこちらを睨んだような気がした。何かまずいこと言ったか?


「そうなのね。じゃあ、私が彼女候補に立候補しようかな」

「──はいっ!? な、何言ってんですか、会長。冗談も程々にしてください」

「そうですよ!!」

「それは見過ごせない発言ね」


 俺の言葉を擁護するように春沢と鈴原が続く。


「あら、どうして? 別に間宮くんは彼女がいないんでしょ? それなら私が立候補しても問題ないはずだけど」

「そうですけど……」


 これってもしかして告白されてる? いや、まさかな。でもなんでだ。俺との接点なんて今までほとんどなかったのに。ついこの間、お互いを認識しあったところだぞ。


「おわっ!?」


 何て答えようか迷っていたところ、俺は後ろから追突された。あまりの勢いに俺は勢いよく前にこけた。


「お前なんかに姉ちゃん渡さないからな!!!」


 シスコン弟の登場だった。

 痛い……鼻を強打して、俺は鼻血を垂らす。なんか、普通に鼻血出たの久しぶりかも知れない。いつもはほら、女性触って出るから。あれ、この言い方やっぱり変態っぽい。


 それにしても悠くんのシスコン度は、太一に匹敵するものがあるな。シスコンってみんなそうなの? 将来が心配である。




「あいたたた」


 それから俺は、公衆トイレで鼻血を洗い流した。

 悠くんはというと会長こと、お姉さんにこっ酷く叱られていた。


 ただの突撃だったならまだしも、俺が血を流してしまったことに酷く激怒した。

 俺がトイレから戻ってもまだ怒られており、悠くんは不満気な顔をしていた。


 うーん、あれは反省してないな。

 まぁ、俺も大人だ。あの程度のことで怒ったりはしないし、子どものしたことだからで済ませられる。それに俺の鼻血などプライスレス。いつでも出せるのだ。


「まあまあ、会長。鼻血出ただけですから。悠くんも会長のことを思ってのことだったと思うのでその辺にしておいてあげてください」

「……間宮くんがそう言うなら」

「そうね。そこの男は年中どこでも鼻血を出せるびっくり人間だから気にすることないわ」

「ま、間宮くん、そんな能力あるんだ……」


 間違えてないけど、むかつくぅ! ほれみろ。春沢引いてるじゃん。


「わかった。じゃあ、悠くん。お兄さんにごめんなさいして」


 悠くんはお姉さんに促され、俺の前に項垂れる。


「ご……ごめんなさい」


 うん、謝れて偉い!!


「なんて言うか、バーカ!!!」

「あ、こら!! ご、ごめんなさい、間宮くん。後でしっかり謝らせるから」


 悠くんは捨て台詞を吐いて、走って行ってしまった。会長はそれを慌てて追って行った。

 難敵だな。


「会長の弟さん、中々元気な子だったね」

「ああ、まぁ……男の子ならあれくらいやんちゃな方がいいのかもな」

「悠くん、かっこいい……」


 真輝ちゃんは悠くんにメロメロだな。シスコンはやめておいた方がいいぞ。のちのち苦労する。

 そうして俺たちはまた、会長を除いたメンバーでゴミ拾いを再開した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る