第27話:今も昔も

 昼前。

 俺たちはたくさんのゴミを拾い、ログハウス前まで戻ってきた。

 保護者さんたちは既にバーベーキューの準備を終えており、順次戻ってきた学生や園児たちからバーベーキューを始めている。


「あれ? そういえば、会長は?」

「まだ戻ってないみたいね」

「会長のことだからすごくたくさんのゴミを拾ってるとか!!」

「悠くんもいないっ!! まだ頑張ってるのかなぁ」


 真面目な会長のことだからそれもありそうだ。

 だけどそんな真面目な彼女が集合時間を守らないことなんてあるだろうか。正確集合時間が設けられているわけではないが、12時からお昼ということになっている。今の時刻は12時14分。みんな頑張った後のご褒美であるバーベーキューを悠くんに参加させない理由は見当たらない。


 俺に突撃した反省とか? は、ないか。

 ちょっと気になったので、会長を探してこようか。せっかくだし、みんなで食べた方が楽しいだろうしな。真輝ちゃんも悠くんいなくて寂しそうだし。


「俺、ちょっと会長探してくるわ。みんなは先食べてて」

「あ、間宮くん!」


 俺はみんなにそう告げて、再び先ほどまでゴミ拾いをしていたところへ戻った。

 戻ったはいいが五分。二人の姿は見えない。


「んー、もう戻ったかな」


 入れ違いになったと言う可能性もある。もしかしたら俺抜きでみんなで楽しくお肉を食べているかもしれない。


 そして俺が戻ったら鈴原あたりが、「あら、もう帰ったのかと思ってあなたの分のお肉は全て食べてしまったわ。あなたにはその辺で拾ってきたきのこでもあえげるわ」なんて言いそう。


「うん、ありえる」


 もう少し探していなかったら戻ろう。会長もきっといるだろ。

 その時、俺の後ろからガサガサと何かが動く音がした。


「ッ!?」


 まさか、熊!? ヤバイ……喰われる!?

 なんてことを考えていたら、声がした。


「もう間宮くん! 待ってって言ったのに」

「まったくダンゴムシの分際で私の言葉を無視するなんていい度胸ね。触るわよ」

「全く、脅かさないでくれ」


 後ろから声をかけてきたのは、春沢と鈴原だった。わざわざ追いかけてきてくれたらしい。触るわよってどんな脅しだ。


「あ、あれ、会長じゃない?」


 そんな折、遠くにいる人影を見つけた春沢が声を上げた。


「本当だ。会長!!」


 俺は声を上げて、会長に手を振った。


「間宮くん……」


 慌ててこちらに駆け寄ってきた会長はどこかが様子がおかしい。


「会長?」

「悠くん、みんなのところに戻ってない?」

「え? 会長と一緒にいたんじゃなかったんですか?」

「それがはぐれちゃって……」

「……それやばくないっすか?」


 いくらこの山がそこまで高くないと言っても園児が山で一人なんてどう考えても危ない。俺の言葉を聞いて、会長の顔がより一層血の気を引いた。


「ど、どうしよう……私……」


 会長はフラフラだった。

 もしかして脱水症状か? この熱い中、水分も取ってなかったのか。


「か、会長! 落ち着いてください。俺たち、もうちょっと周辺探してみますから。会長はとりあえずみんなのところへ戻って悠くんが戻ってないか確かめて、いなかったら消防に連絡してください!」

「わ、わかった……」

「一人で戻れますか?」

「会長は私が連れて行くよ。二人は悠くんを探してあげて!」


 春沢がすぐにそう言った。


「わかった。ありがとう」

「私たちも探しましょ」

「ああ」


 二人を見送ってすぐ、俺と鈴原は周辺を探し始めた。


 もしかしたらもう深いところに行っているかもしれない。

 いつもの会長だったらこのくらい冷静に処理していたことだろう。しかし、身内ということでパニックになっていたのかもしれない。

 そうしてしばらく探すが中々見つからない。


「はぁはぁはぁ……」

「あなた大丈夫?」

「ああ?」

「すごい汗掻いてるわよ」

「ああ。熱いからな……」

「……」

「なんだよ?」

「別に。あなた汗臭いから無理せず、戻った方がいいわよ」

「へいへい。どーせ、俺は臭いですよーだ」


 体が重い。この気温もそうだが、山の舗装されていない道は体力を余計に奪う。

 ああ、くそ。割とまじで寝不足がたたってるかも。


「ねえ」


 帰ったら絶対爆睡してやる。


「聞いてるの?」

「ぬわっ!?」


 俺の顔に鈴原の雪のように綺麗で白い手が触れようとしていた。俺は思わず、その場から飛び退いた。


「危ねえな!? 何すんだ!?」

「無視するからよ」

「だからってなぁ……はぁ。なんだよ?」

「あなたっていつもそうね」

「何が?」

「いっつも誰かのために自分のことは後回しにしているっていう話」

「……俺の何を知ってんだよ」

「……さぁ?」


 一体何を考えてんだか。俺はいつも俺のしたい通りにしてるだけだ。今も昔も。


「ねぇ。あれ、悠くんじゃない?」

「え? あっ!」


 鈴原の指差す向こうには、大きな木の下に体育座りでうずくまる悠くんの姿があった。

 俺と鈴原は慌てて、悠くんの元に駆け寄った。


「なーにしてんだ?」

「あっ……な、なんで?」

「ったく。みんな探してんぞ? お姉ちゃん、心配してたぞ」

「だ、だってぇ……」


 悠くんは俺たちの姿を見た瞬間、目にいっぱいの涙を溜め始めた。


「足を捻ったのね」

「ぅぅん……」


 悠くんは足首を抑えていた。そうか、だからここから動けなかったのか。


「……うあああああん。わああああああん」


 悠くんはついに泣き出してしまった。そして一頻り泣き止むのを待った後、俺は声をかけた。


「ほら、負ぶってやるから。立てるか?」

「ぅん……」

「うへぇ、兄ちゃん。汗びっしょり。臭いし、気持ち悪い……」

「ええ。臭いわ」

「うるせー。誰のせいだと思ってんだ。それに足捻ってんだから少しは我慢しろ。後、鈴原は余計なこと言うな」

「ふぁい……」


 なんだ、そのやる気のない返事は。

 くっそ、体が重いな。最近運動してなかったからな。久しぶりに筋トレすっか?

 俺は悠を背負うと鈴原と一緒にキャンプの方へ歩き出す。


「……悪かったよ、兄ちゃん。タックルして……」

「なんだ、反省したのか?」

「まぁちょっとだけな!!」

「うるさっ」


 泣いて元気が出たのか、耳元で大きな声を出されたから鼓膜が破れそうだ。


「で、でも姉ちゃんとのこと認めたわけじゃねぇからな!!」


 どこのツンデレだよ。別に会長とはそんな関係でもなんでもないけどな。


「へいへい」


 そうして俺たちはゆっくりと戻った。


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