第24話:ボランティア

「で、なんでここにいるの?」

「えへへ。実は美織に聞いたらボランティアに間宮くんも参加するって聞いたから私もきちゃった」

「ふーん。で、お前は?」

「あら。私がいたら何かあなたに不都合でもあるのかしら? まさか春沢さんや会長さんにいやらしいことでもしようとしてたのかしら」

「なんでそーなるんだよ」


 会長からボランティアに誘われて数日。あの後はなんとなく会うのが気まずかったのでチャットでのやり取りのみになってしまったが、せっかくなのでお誘いに乗り、ボランティアに参加させてもらうことに決めた。


 気まずいと思っていたのはこちらが一方的にそう思っていただけで、会長は廊下ですれ違うたびに気さくに挨拶をしてきた。


 挨拶されるのはいいんだけど、その度に周りの男子から殺気を感じたのは多分気のせいではない。

 会長ってやっぱりファンが多いからね。


 ボランティアが行われる今日は、日曜日。

 昨日、遊んでいろいろ疲れたので正直、今日はゆっくりしたかったが約束を破るわけにはいかなかった。


 ボランティアの内容が地域の子どもたちと一緒にゴミ拾いなので汚れてもいいように学校指定のジャージに身を包んでいた。


 別に春沢や鈴原には特にボランティアのことは言ってなかったんだが。どこから嗅ぎ付けたのか一緒に参加することになったのだった。

 春沢とか昨日も会っているのに一切そのことに触れてなかったからな。今日、集合して普通にいるから俺も驚きを隠せずにいる。


「いやらしいこと……」

「ええ。春沢さん気をつけて。彼は狼の皮をかぶったダンゴムシよ」


 逆だろうが。ダンゴムシでもないけど、そんなに俺は全面的に性欲を出してますかね?


「昨日だって──……」

「ああああ、何でもないッ!!!」

「昨日?」

「なんでもないぞっ! もう、ツッコミを入れる気力がおきないから無視して……ごほっ……」


 鈴原の相手をすると疲れるのである程度、適当に捌くことにしよう。


「あれ? 間宮くん、風邪?」

「あ〜、うん。ちょっと体がだるいくらいかな。今のは唾が気管に入っただけ」

「そうなんだ。無理しちゃダメだよ! 熱測った?」

「ちょ、待って、待って!」

「え?」


 春沢は俺のデコに手を触れそうになってきた。

 それ触れた途端、本当に倒れちゃうから。熱上がっちゃうから。


「だ、大丈夫。ただの寝不足だから」

「……」

「それならいいけど……」

「ああ」

「あ、美織だ。私ちょっと、美織のとこ行ってくるね!」


 そう言うと春沢は生徒会のメンバーが集まっている方へと走っていった。篠田は委員長をやりつつ、生徒会で書記でもあるのだ。


「それで、あなた本当に大丈夫なの?」

「珍しく心配してくれるのな」

「ええ。貴重なサンプルが倒れてしまっては困るもの」

「サンプル言うたか?」

「ええ。言ったわ」


 否定しろよ。せめて口が滑ったみたいなリアクションしろ、このやろう。

 実際のところ、体は確かにだるい。正直言うと裸で放置されたのが原因じゃないかと思っている。


「まぁ、昨日は流石に悪いと思ったし……」


 鈴原はボソリと小さな声で何か言った。

 俺はそれを聞き取れずに聞き返す。

 

「なんか言ったか?」

「別になんでも無いわ。それより、このボランティア中、気を付けたほうがいいんじゃないかしら」

「なんだ。またちょっかい出してくるつもりか? 勘弁してくれよ」

「さぁ、どうかしら? 私よりも厄介な存在がいると思うのだけれど」

「お前以上に危険な奴いるのか?」


 そう言った鈴原の視線の先には元気に走り回る子どもたちの姿があった。追いかけっこをしたり、既に他の生徒に遠慮なく突撃して遊んでもらっている子もいる。幸い、こちらにはまだきていないが。


「……」


 確かに結構やばいかも。別に子どもが嫌いってわけでも苦手ってわけでもない。小さい子ってかわいいしね。


 しかし、子どもゆえに無邪気で悪気がないというのが危険なのである。ああ、そうだ。男の子はまだいい。問題は女の子だ。女の子は俺にとって非常に危険な相手になることが予想される。無邪気に飛び込んでこられようものなら、俺は死ぬ。避ければ、社会的にも死ぬ。


 あれ、これ積みじゃね? とにかく女児に気をつけなければならない。今日は大変な一日になること予感がした。


 後、言っておくが俺は決してロリコンではないからな。小さい子、さいこー。……冗談だ。


「間宮くん、今日は来てくれてありがとう。とても助かるわ」

「ああ、会長。おはようございます」

「鈴原さんもおはよう。来てくれてありがとう」

「……どう致してまして」


 相変わらず、鈴原は他人には冷たいな。それは相手が会長であっても変わらなかった。


「ふふ、相変わらずね。そう警戒しないで」

「……」


 二人の間に広がる独特な空気感。なにこれ。気まずい。


「もうそろそろはじまりの挨拶するから、ログハウスの前に集まってくれる? じゃ、また」


 会長は、そう言って、颯爽と去っていった。


「会長と何かあったのか?」

「別にあなたには関係のないことだわ」

「そう言うなよ。なんか気になるだろ」

「……はぁ。昔生徒会に誘われたことがあったっていうだけ。もちろん断ったわ」

「ああ、そういう」

「聞きたいことがそれだけならさっさと集合場所に向かいましょ」


 鈴原はなんとなく不機嫌になり、俺を置いてツカツカと歩いて行った。

 これは、また……何か嵐の予感だな。

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