第19話:鈴原花奏の悩み
私、鈴原花奏はクラスメイトのとある秘密を知ってから一緒に住むことになった。
正確には私が無理やり、彼の一人暮らしをしているうちにお邪魔することになったのだけれど。
彼──間宮創麻くんは、女性アレルギーであるという。
初めは、半信半疑であったが目の前でその症状を見て確信に変わった。
それから、私の行動は早かった。
彼のその症状を治したいと思った私は、すぐに彼のお父様に連絡をしたのだった。
「いい加減その格好、どうにかならないのか?」
「あら、あなたは私の体では満足できなくなったということかしら」
「いかがわしい言い方するなッ!! 目の毒だって言ってんの。思春期の高校生の性欲なめんなよ!?」
私は風呂上がりにいつも通り、バスローブ姿でリビングで過ごしていた。彼はその私の格好を見て、目に毒だという。
全く失礼してしまうわ。
「その言い方、常に私に欲情しているみたいなのだけれど、もしかして私は貞操の危機なのかしら」
「……っ。マジで勘弁してくれ」
彼はため息をつくと私から視線を逸らす。
ああ、今日も彼をからかうのは楽しい。
だけれども、彼のアレルギーを治すとは言ったものの具体的にどうすれば治るかという案があるわけではなかった。
色々と試してはいるけれど、彼のアレルギー症状が発生する境目が知れたくらいでそれ以上の進展はない。
第一に食事。私が触れたものなどは特に大丈夫な様子。
後は、抜け落ちた髪とかも大丈夫なようだ。なのに彼は私を頭を撫でるということはできないらしい。
あ、それは単純に度胸がないだけか。
この家に来てからも私が入った後のお風呂とかをさりげなく進めてみたが、症状が現れることはなかった。
「困ったものね」
「……なんだ、珍しいな。鈴原がため息なんて」
「私にだって悩みくらいはあるもの」
「へぇ、どんな?」
「例えば、あなたの反応が前に比べて薄くなっていることとかかしら」
「そりゃ、毎日のように俺のことをからかってくれれば慣れてもくるわ」
「そういうのは、毎日私を抱いてから言って頂戴」
「だ、抱く!?」
そう、その反応だ。
やっぱり間宮くんは面白い。
「そろそろ、私たち次のステップに進んでもいいと思わない?」
私はそう言ってその場から立ち上がる。
そして間宮くんが座るソファの方へとゆっくりと歩み寄る。
「は、え? 鈴原!?」
「どうしたの?」
「ど、どうしたじゃなくて、近くないか?」
私が隣に座ると間宮くんは焦る。
やはり、ある程度慣れたと言ってもすぐそばにいるというだけで彼の反応は新鮮になる。
単に女子に慣れていないということもあるが、アレルギー持ちであるということもあり、過剰な反応になっているのだろう。
「私の隣は嫌かしら?」
「どちらかといえば命の危機を感じる」
「失礼しちゃうわね」
「今までの自分の行いを振り返ってみてくれ」
別に私たちは付き合っているわけではない。だから一緒に暮らしていてそれ以上のことは特にはないのだけれど。
それはそれで私にとってはあまり、好ましいものではない。
できれば、彼には──。
「今更だけどさ。どうして、俺のアレルギーを治そうとしてくれてるんだ? 治すっていうよりも今のところ被害しかないけど」
「さぁ。別に私のことはどうでもいいの。それより、そのアレルギーはいつからなのかしら?」
「なんか、はぐらされてる気がしかしないな……。いつからかは覚えてないな。気がついたらだ。まぁ、小学校入る前くらいだったと思うけど」
「…………」
やっぱり……。
別に確信はしていたけど今一度、私は彼のアレルギーを治したいと思った。
「聞いてなかったけど、鈴原は自分の家のこととか大丈夫なのか? 俺と一緒に住んでるとか」
「さぁ? 知らないんじゃないかしら」
「…………大丈夫なの?」
「多分ね。あの人、私には興味ないもの」
私は父親のことを思い浮かべる。
実の父親だというのに、彼はまるで私に関心がない。故に、高校に入ってからもずっと一人暮らしをしてきた。
だからこそ、一緒に住むのに何の弊害もなかったと言える。そういう意味ではある意味、感謝をしている。
「大丈夫か?」
「……っ」
そこで私は、自分の感情が表に出ていたことを察する。
しまった。彼にそんな顔を見せるつもりはなかったのに……。
「ええ、あなたが慰めてくれるかしら?」
私は誤魔化すためにいつものように彼をからかうことにした。
彼は少しだけ、目を見開く。
「俺にできることであれば」
「!」
まさか真面目に返されるとは思わず、それにも驚いた。
「じゃあ、頭でも撫でてくれるかしら? それだけで頑張れるかも知れないわね」
意地悪なことを言った。アレルギー持ちの彼が、それをできるとは思っていない。
「ッ!?」
「こ、これでいいか?」
油断していた。
まさか本当に撫でられるとは。アレルギーがあるからか一瞬だったけれど。
それでも顔に熱が帯びていくのがわかる。
「何恥ずかしがってんだよ。いつもの仕返しだ」
「──っ」
そう言って、彼はニカッと笑って立ち上がった。
そして必死に彼は撫でた手を押さえながら、必死に悶えそうな表情を我慢してリビングを出て行った。
「間宮くんのくせに、なまいきね」
いなくなったリビングでポツリと一人ごちる。
私の中で、悔しいというの気持ちよりも、嬉しいというの気持ちの方が大きかったことに気がつくとまた一段と顔が熱くなった気がした。
まだまだこの同居生活には慣れそうにない。
この仕返しは、明日、必ずしてやる。
私はそう心に誓い、明日の土曜日にどうやってからかってやるか、計画を練るのであった。
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