第18話:思惑と勧誘

 五限目の授業が終わるまで残り十分と言ったところか。

 俺は疑問にしていたことを会長に聞いた。


「それにしてもなんで会長は俺の名前知ってたんですか? 公園で別れ際に呼ばれましたけど」

「ああ、それね。私、この学校の生徒の名前は全員覚えてるしね。あと、特徴とか、クラスでの立ち位置もね」


 え、何それ、怖い。


「間宮創くん。二年四組所属。性格は明るく社交性もあり、頼まれれば基本的にその頼み事は困らない。成績は上の下ってとこかな。運動神経もそこそこあり、どんなスポーツでも人並み以上にこなす。生徒や先生を問わず、誰からも慕われており、今この学校で注目の男子の一人! ってね」


 なんだこれは。褒めすぎじゃない? そんなに褒めても何も出ないんだからねっ!!! しかし、


「その注目の男子ってはなんですか?」

「ん〜? それは女子生徒の間で出回ってる校内いけてる男子ランキングの備考に載ってる言葉だね」

「ええ……」


 そんなランキングが存在してるの? 俺の場合、かなり好評だからまだいいけど、不評だったら目も当てられないな。

 つーか、今時の女子ってそんなことしてるの? えげつねぇ。


「男子の方こそ、妙なランキングいっぱい作ってるでしょ? 女子なんてまだまだかわいいものよ」


 そういえば、太一も踏まれたいランキングだとか言っていたな。そればっかりは……すみません。


「あ、後、こんなことも書いてあったね」

「え? まだあるんですか?」


 できれば、このままで終わって欲しい。これ以上聞くと悪評が出てきそうだから。俺に対していいイメージを持つ人が多いことは喜ぶべきことだが、見る人が増えればアンチも増えるわけで。必ず、俺のことを嫌いなという人もいるわけだ。


「そう。続きを言うね。ルックスも悪くなく、性格なども平均評価を大きく上回るのにも関わらず、彼にはなぜ恋人ができないのか。調査の結果、これまでにも恋人がいたことはないようだ。告白をされることもしばしばあるのにも関わらず、これは異常なことである。かといって男が好きなのかと言われればそういった兆候も見受けられない。ただ、ここ数日観察してわかったことは、なぜか彼は、女子生徒との接触を極端に避ける傾向があるということ」


 待て待て待て──ッ!? バレてる。俺が女の人に触れられないことがバレてる!? しかも何その調査結果って。なんで俺調査されてるの? 学年の男子みんなされてるの? というか、待て。それがランキングに乗っているっていうことは女子はみんなそのことを知っている?


 だらだらと急にいやな汗が吹き出し始めた。


「そんな顔しないでもいいのに。今の調査結果は私しか知らないから」

「……え?」

「調査をしたの私だしね。これは機密事項ってやつかな。さっきのランキングとは関係ないよ」

「な、んでそんな調査を?」


 混乱する頭で精一杯言葉を捻り出す。


「君のことは前々からマークしてたんだ」


 ええ……生徒会長にマークされるとか、身に覚えがない。俺は優良な生徒だぞ。


「そんな顔しなくても……君には生徒会に入ってもらおうかと思ってね!」


 なんだ。秘密がバレたってわけでもなさそうだな。よかった。いや、よくはないな。なんて言った? 生徒会?


「ま、待ってください! 俺そんな話一度も……」

「今言ったからね」


 ふふっと、会長は上品に笑う。


「成績も良く、生活態度や素行のいい生徒を生徒会に入れない理由はないから。ぜひ考えておいてほしいな」


 会長はこちらをみて微笑む。クール系の会長にその笑顔を向けられると照れてしまった。


「……まぁ、考えるだけなら」

「ちなみに体験活動じゃないけど、今度、生徒会主導のボランティアがあるの。よかったら参加してみて生徒会がどんなものか体験してみない?」

「分かりました」

「じゃあ、またそれについては連絡するから……はい。スマホ出して! 連絡先の交換しておこう!」

「は、はい」


 なんか、やや無理やりな気もしなくはない。

 俺は会長に促されるままにスマホを取り出す。


「じゃ、そろそろ五限目も終わりそうだし、間宮くんは教室に戻ってね」


 俺は会長と連絡先を交換した後、会長に促され、生徒会室を出ようとした。


「ありがとうございました」


 お礼を言うのをおかしな気もするが、ゆっくりさせてもらったので頭を下げる。


「あ、待って」


 会長は俺を呼び止めるとゆっくりと近寄ってくる。

 そしてかなり近い距離でこちらにグイッと詰め寄った。


「ど、どうしました? ち、近いです……」


 会長の端正な顔が視界いっぱいに広がる。会長から爽やかないい香りが漂ってきて、思わず反射的に顔を逸らした。頬が熱い。


「ちょっと確かめたいことがあってね」

「は、はぁ? ってちょっ!?」


 俺は握られた手を瞬時に振り解いた。


「す、すみません。失礼しますっ!!」


 そして逃げるように生徒会室を後にした。廊下にはいくつかの血痕が残されていた。

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