毒舌美少女の鈴原さんは俺にだけ苦甘い

mty

第1話:誰にも知られてはいけない秘密

 誰しも知られたくない秘密の一つや二つあるものだ。


 俺にだってそんな秘密がある。家族以外の人間に知られてはいけない秘密が。

 これが超能力みたいな特殊な力とかだったら格好いいんだろうけど、別にそんな大したものではない。


 むしろ、知られれば俺の尊厳が大きく侵されかねない、重大な秘密。

 それを抱えて今日も俺は生きていた。


「間宮くん、消しゴムなくなっちゃった。借りていい?」

「ああ、春沢。いいよ」


 俺は隣の席の少女、春沢澪央はるさわみおに消しゴムを貸そうと自分の机に転がっている開けたばかりの新品の消しゴムを手に取り、差し出した。


「……」

「どうしたの?」


 何度やっても緊張する。少しでも触れてしまえば、俺の学園生活は終わる。


「いや……はい」

「あっ! もう、手出してるのに!」


 春沢は頬を膨らませた。教室の外から降り注ぐ、明るい陽光に春沢の鮮やかな赤茶の髪が輝いた。


「まぁ、気にするな。終わったら同じように机に置いてくれればいいから」

「むぅ。いいもん! 角使ってやる!!」

「あ、それは!?」

「なんか文句あるの?」

「……」


 片側しか使っていなかったのに……。消しゴムの角を使う瞬間というのはこの上なく気持ちいいというのにそんな些細な楽しみをお前は俺から奪うのか。

 ちょっとした復讐をされた。



 そう、今のやりとりからも分かるように俺が抱えている重大な秘密というのは、


 ──女性に触れない


 というもの。


 別にセクハラを懸念してとかそういうんじゃない。文字通り、肌に触れることができないのだ。

 何を隠そう、この俺、間宮創麻まみやそうまは女性アレルギーの持ち主なのであった。



 そんな秘密を抱えて、十六年間生きてきた俺ではあるが、振り返ってみてもよくバレなかったなと自分を褒めてやりたい。

 それどころか男女問わず、友人も多く、告白もされることもあったり。俺は間違いなく、リア充と呼ばれる部類に当たるだろう。


 そんな俺はこの女性アレルギーという体質のせいで女子とまともに付き合った事がなかった。

 そして挙げ句の果てには男が好きなんじゃね?という不名誉な噂まで広まる始末。

 一体どうしてくれる。


 そんなもの、事情を話せば誤解は解けるのだが、俺は誰にも話していなかった。

 俺は知られたくなかったのだ。


 まず第一に俺が女性に触れてしまえばどうなるか。

 触れられた箇所がまず痒くなります。これは地味に辛い。

 

 そして次に鼻血が出ます。はい。これが一番知られたくない理由です。

 女の子に触れられて興奮して鼻血出すとかどこかのラブコメの主人公か? 

 

 こんなことがあれば俺が今まで築いてきた爽やか好青年イメージがベルリンの壁のごとく崩壊してしまう。それだけはなんとしても阻止しなければならない。


 最後に最悪、ぶっ倒れます。これは想像もしたくもない。鼻血出して倒れてるんだぜ? 変態じゃん。もう絶対に無理。


 そんなわけで俺は女性に触れることは絶対にできない。だけど、俺だって克服しようと努力はしたんだ。でも無理だった。ほんの少し触れただけで、もう痒くて痒くて。鼻血出かけるし、その時はその場から一目散に逃げたね。めっちゃ変な目で見られたわ。


 やはり、俺も男。

 彼女という存在を作ってあ〜んなことやこ〜んなことしたいのである。

 一般の男子高校生の性欲を侮らないで頂きたい。


 そのためには、変態男なるイメージは避けなければならない。代わりに男好きとか言う変なイメージ広がっちゃってるけど。


 俺は、いつかこのアレルギーを克服できるその日がくることを待ち望んで毎日を過ごしているのである。


「はぁ……」

「どうしたの? ため息なんかついて。辛いことでもあった?」

「ああ、毎日が辛い」

「可哀想に。ほら、よしよししてあげよう!」

「!? ストップ!!」


 ざわざわと教室が騒がしくなり、先生やその他の生徒はこちらを一斉に注目した。


「おーい、間宮と春沢ー。イチャイチャしたいなら授業が終わってからにしろー」


 教室がドッと笑いに包まれる。


「そ、そんなじゃありません!!」


 春沢は声を荒げ、顔を真っ赤にして否定した。それをまたクラスの誰かが「澪央かわいいー」と弄るものだから春沢はその場で小さくなっていた。

 ふぅ。危ないところだった。それにしてもそこまで否定しなくてもいいじゃん。傷つくよ?

 そしてその後、春沢は俺を恨みがましく睨みながらも授業はつつがなく終わりを迎えた。



「もう! 間宮くんのせいで大恥かいたんだからね!」


 授業が終わると開口一番、俺の横に立って文句を言ってきた。だが、文句を言いたいのはこちらも同じ。危うく授業中、血まみれパーティが開催されるところだった。ダイイングメッセージには是非とも春沢の名前を書かせていただきたい。だが、できる男はここで彼女のせいにしたりはしない。


「悪い悪い。いきなりだったからビックリしただけだよ」

「それにしたってあんな勢いで拒否するって酷くない?」

「ほら、髪は命よりも大事っていうじゃん? そう易々と他の人には触らせたりしないのさ」

「それ女子が言うやつだよ……」

「男だって時にはいうんだよ。男女平等ってやつだ」

「それ使い方あってる?」


 春沢はツッコミを入れつつも自分の机に腰掛け、楽しそうに足をぶらつかせる。短いスカートからチラつく太ももがなんとも眩しい。


 俺と春沢の仲はこのような軽口を叩きあえるくらいにはいい。いつも同じグループで行動しているやつのうちの一人だ。人懐っこくて見た目も文句なしの美少女。こんな子と付き合える奴がいたらそいつは幸せもんだろう。


「おーっす、まだイチャイチャしてんのか?」

「うるせぇ、口が臭いから閉じてろ」

「え!? 酷くね!? 嘘だろ……春沢もなんとか言ってやってくれよ?」

「うん……」

「そのリアルな反応は一番くる……」


 ずーんと暗く影を落としたガタイのいい男子生徒は俺の自称親友を名乗る、大神太一おおがたいちだ。俺たちに絡んできたのが運の尽き、返り討ちにしてやったのだ。

 そして次の瞬間、俺と春沢は「ぷっ。あははははは」と吹き出した。


「ひでーなぁ……」


 これがいつもの流れ。様式美ってやつだ。どこへいってもいじられキャラというのは重宝されるものだ。ありがたく思うがいい。


「それでこれからどうするんだ?」


 先ほどの授業が終わり、放課後となった。太一はというといつもなら部活があるのだが、今日は休みらしい。これは暗にみんなでどこかに遊びに行こうと言っている。


「そうだね〜。美織にも聞いてみようかな」


 そう言って、春沢は勢いよく机から跳び立った。しかし──。


「あっ……」

「危ないっ!」


 あろうことか机から跳びのく際に春沢はバランスを崩した。

 俺は咄嗟の判断で椅子から身を乗り出し、春沢の体を抱きとめた。

 ガシャン。という音が教室に響く。春沢の机も同時に倒れた音だ。それによって帰り支度をしていたクラスの連中がこちらを注目する。


「あいたたた」

「春沢、大丈夫か?」

「ふぇ? あ……ありがと」


 春沢は俺に抱きとめられたことに気づくと余程、恥ずかしかったのか顔を真っ赤にした。


「立てるか?」

「うん……」


 俺は春沢を立たせた後、目を見開いて宣言した。


「悪い、俺帰るわ!!」

「へ?」


 そしてカバンを持って全力で教室から逃げ出した。


「マズいマズいマズいマズいマズいマズいマズい」


 心臓の音がやかましい。これは先ほどの春沢が可愛かったからでも抱きとめた時にいい匂いがして興奮したからでもない。ちょっとしたけど。

 アレルギー反応だ。心拍数の尋常じゃないくらいの上昇。それに触れたところが痒い。


「ぬおおおおおおおおおおお」


 俺は廊下を爆走しながら全力で触れていた両手をそれぞれ掻き毟る。しかし、しばらく走ってくるとフラフラしてきた。


「やばい、限界……」


 視界がぐにゃりと歪む。廊下にポタっと赤い滴が垂れる。鼻血だ。俺は片膝をついて、ちょうど横にあった空き教室に這いつくばるように入った。こんな無様姿誰にも見せられん。その強い意志を持って、どうにか気を失うには至らなかった。


「ううう」


 半泣きになっている俺に追い討ちをかけるように鼻血が鼻を抑える手からこぼれ落ちていく。そして血の池の作った。

 こんな情けない姿誰かに見られたら死ねる。


 そう思って、廊下側に首を捻った時だった。


 パチリ。パチパチ。


 二つのまるで星のように綺麗な瞳が俺の薄汚れた目を見つめていた。


 パチパチ。パチリ。


「ふっ」


 そしてその綺麗な瞳の持ち主はこれまた綺麗な黒色の長い髪を靡かせ、鼻で笑って通り過ぎていった。


「……」


 見られた。あれは……。

 逆光のせいでそれがどこの誰かまではわからなかった。

 その後、俺は目撃者の後を追ったがその姿を捉えることはできなかった。見られてから俺は、もうこれ以上目撃者を作らないようにトイレで顔や手を洗い、すぐに家に帰った。見られたことにより一気に動機や息切れから復活したが火事場の馬鹿力というやつだろうか。それなら女子に触れた時に発生してもらいたいものだ。


 そして翌日。処理するのを忘れていた空き教室の血溜まりは、高校の七不思議となった。



──────────────────


お久しぶりです。みつやさいだです。


こちらたいあっぷ様にて公開しておりました、原題:「間宮くんくんはスキだらけ」を再編したものになります。


読んだことある方は、途中から話の流れが変わっていきますので楽しみにしていてください。


読んだことない方でも楽しめるに内容になっておりますので、できればフォロー、星等の評価をよろしくお願いいたします!!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る