第22話:終盤
話も終盤を迎えた頃だった。
結局、中盤で成立したカップルは別れてしまった。
息を呑む展開が終わり、締めに差し掛かろうとしていた。
スクリーンを見ながら手探りでポップコーンのバケツに手を入れると何か触れた。
ん? なんだこれ……。
「ま、間宮くん……それ……私の手……」
横を見ると春沢が恥ずかしそうに小さくそう呟いた。
「わ、悪い……」
俺はすぐに手を引っ込める。
そして次に襲ってくるのは、鼻の奥が血で満たされた感覚だった。
とっさに引っ込めた方の手でない方で鼻を抑える。
ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ。
ちょ、ちょっと上を……。
顔を傾け血が下に垂れないようにする。
映画ももうすぐ終わる。耐えろ、耐えるんだ!!!
若干、クラクラしつつも気合と根性で意識を保つ。
「ま、間宮くん? どうかしたの?」
しかし、隣でそんな変な格好をしていれば嫌でも異変に気がつく。
春沢が心配そうに声をかけてきた。
「っ。な、なんでも……ちょっと肩が凝ったから首の体操を……」
「え、大丈夫なの?」
下手な言い訳をしたせいで春沢も余計に心配したようにこちらに気を配る。
まずい。そんなに見られると誤魔化しが……。
とそこで、
「ああ、このシーンなんて感動的なのっ!!」
かなり芝居のかかったような口調で後ろにいた女性が声を上げる。
そこまで大声ではなかったが、近くにいた俺たちには十分に聞こえる声だった。
春沢もその声にギョッとした顔をした。
しかし、これはチャンスだ。
「春沢、映画に集中しよう。今一番いいところだから。俺、もうちょっと首の体操しながら見るし」
「うん!」
俺の言葉に春沢は正面に向き直った。
助かった。春沢が素直な子でよかったよ。なんだよ、首の体操って。意味わからん。
そして後ろの女性が言った通り、今が一番のクライマックス。締めに入るかと思われた内容からは想像もつかない怒涛の展開だった。
そのおかげで再び気をそらすことのできた俺は首をおかしな角度にしながら最後を楽しんでいた。
エンドロールが流れ、会場に明かりがつき始める。
俺はと言うと未だに首を上に傾けていた。
幸い、手で抑えなくてもいいくらいにはなっているが、油断したら垂れる。
そのまま会場を出る人混みに流されながらも、春沢は興奮した様子でこちらに声をかけてきた。
「面白かったね!! 最後の方なんてドキドキしちゃった!!」
「あ、ああ。確かによかったな」
ごめん。最後の方、多分感動的な内容だったんだろうけど、症状に集中しすぎて全然、覚えてない。
口の中、鉄の味しかしない。
「は、春沢? ごめん、ちょっとお手洗い行ってもきてもいい?」
「あ、うん。私もちょうど行きたかったから!」
そうして俺は、首を不自然な角度にしたまま、トイレへと向かった。
「ぜぇぜぇぜぇ…………」
鼻血はすでに奥の方で固まっていたが、鼻をこすればまたすぐに出血した。
俺はトイレットペーパーで鼻を噛んだ後、顔を手を洗い、お手洗いを出る。
女子の方のトイレは、長蛇の列ができており、まだまだ時間がかかりそうだ。
そこからふと、視線を外すとどこか見慣れた人物が視界の端に映った。
その人物もこちらに気がつくと足早に向かってくる。
「あら、間宮くん。奇遇ね」
「いや、絶対奇遇じゃないだろ」
その人物、鈴原はわざとらしくそう言った。
朝の喧嘩した手前何を言い出すかと思えば、いつも通りの鈴原だった。
身構えて損した。
「なんだか急に今話題の恋愛映画が見たくなってね。そしたらあなたがいるんだもの。驚いたわ。誰と来ているのかしら」
「何を白々しい。絶対分かって聞いてるだろ?」
「さぁ。私は本当にたまたま偶然、居合わせただけよ」
……ほんとかよ。
「はぁ。春沢だよ。前に連絡無視しちゃったお詫びってこった」
「素直に白状するのね」
「別にやましいことはないからな」
「私の方は断ったくせに春沢さんとは約束するのね」
最近、こいつこういうのが多い。
いつもみたいに俺をからかったと思ったら急に可愛らしく拗ねるのだ。
これも演技である可能性は否めないが。
「よかったら、この後私も一緒していいかしら」
「いや、帰れよ」
「酷いわね」
今日は、春沢との約束できている。
春沢も優しいから言えば、きっと三人でカフェに行くことは許可するだろう。
だけどなんとなく。なんとなく、春沢が怒るとは言わないが、悲しそうな顔をするのが浮かんだ。
後、調子こいて、女子一人でも手一杯なのに二人はさらにキツい。
それとダメ押しでこいつがいると単純に気が休まらない、というのもある。
「お前も断られるの分かって聞いてんだろ」
「……まあ、そうね。せいぜい春沢さんとのデート楽しんでらっしゃい」
そう言って、鈴原は一人先に去っていった。
「これってデートなの?」
鈴原に言われて気がつく。
「お、お待たせ!! ってどうしたの?」
「あ、いや、なんでも。じゃあ、カフェ行こうか」
「うん!!」
その後すぐにお手洗いから戻ってきた春沢と俺はそのままカフェに移動することにした。ただ、鈴原の少し寂しそうな顔が頭から離れなかった。
「何食べようかな〜間宮くんの奢りだしな〜」
「お、お手柔らかに頼むよ」
「ふふ、任せて!!」
やはり女子というのは甘いものが好きな生き物らしい。
カフェに着くと店員に案内され、適当な席についた。
春沢は、目を輝かせながらメニューに目を通す。
この顔を見れるだけで一緒に来て良かったなと思わされてしまった。
「じゃあ、私、このデラックスギャラクシージェノサイドストロベリーショコラパフェにする!!」
「なんて?」
でらっ……ジェノサイド?
なんかパフェの名前に物騒な名前が入ってたような。
正式名称が気になったため、俺もメニューに目を通す。
そこで俺の目は点になった。
「あ、あの……春沢さん?」
「どうしたの?」
「なんでこのパフェこんなに高いの?」
「え? でもなんでも奢ってくれるんだよね?」
「うす……」
無邪気な笑顔でそう言われると断ることなんてできないっ!
この横文字が並んだ訳のわからないパフェは五千円もしていた。
それから俺たちは学校のことや、もうすぐ始まるテストのことなどを話題に花を咲かせた。
そうして──。
「ありがと、今日は楽しかったよ」
「ああ、楽しんでもらえたなら何より」
結構、グダグダなところがあったことは否めないが楽しんでもらえたなら何よりだ。
だけど、俺のその言葉に春沢は少し、顔を曇らせた。
「間宮くんは?」
「え?」
「間宮くんは楽しかった?」
別に難しいことを聞かれているわけではないのに戸惑ってしまった。
今日一日は楽しかった。だけど、春沢には悪いが頭のどこか片隅に鈴原がチラついていたからだ。だからすぐに真っ直ぐで純粋な瞳を向けている春沢に即答できなかったのだ。
答えない俺に春沢は不安そうにこちらを見ていた。
「ああ、楽しかったよ」
「よかった」
春沢は安心したような顔をした。それにチクリと胸が少し傷んだ。
「じゃあ、またね?」
「ああ、また!」
そうして今日の春沢とのデートは終わりを迎えた。
駅前で春沢と別れてすぐ。
「デートは楽しかったかしら?」
鈴原がタイミングを見計らったようにして現れた。
───────────
後書き
どうも、最近伸び悩んでいるみつやさいだです。
この作品も結局はあまり伸びませんでしたね。この辺りで下降し始めました。
一応、この作品はキリのいいところまで書き切る所存です。
完結に向けてハイペースで更新できたらと思います。
それに伴い、カクコンまでにもう一つラブコメを投稿しようと考えています。
珍しくベッタベタの王道ものってやつですね。
振られて格好良くなって、ざまぁして見返すみたいな?
こちらもカクコンまでに終わるように投稿できたらと思います。
反応次第で伸ばすかもですが、一気に行こうかと。
またこの作品について、感想などあれば頂けると励みになります。
後、星とかもね。
では引き続き、この作品をお楽しみください。
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