第4話きっかけ
「・・・エンチャント、燃えよ」
手ごろな武器を召喚し属性を付与する。
刃先に炎が灯り殺傷力が上がる。
魔術は訓練が必要だ。魔力のコントロール、具現化。
要するにイメージを訓練するのである。
俺は具現化する才能が全然だめなのだがウェポンサモナーという魔術だけは具現化ができている。と思う。イメージを検索し、自分の理想通りの武器を召喚する。
俺はこの魔術においてのみ詠唱を必要としない。唯一の得意な魔術ってところだ。
ただし初めてカタチにするときはかなりの苦労が必要だ。
ダガー・・・双剣、ショートソード、いまはそんなものだがそのうちにもっと強いイメージを持った武器を作りたい。だが・・・。
「魔剣の類は構造がわからないとカタチにできないし、貴重品だ」
構造解明の魔術を一度でも行えばイメージとして記憶に蓄積でき、一度武器のイメージを固めることができれば武器召喚もいつでも可能になる。
ガチャ。
ドアが開く音がした。集中しすぎて気づかなかったか。
「ししょーお客さんだよ!」
「やっ!コバヤシ君!」
「アリスか」
ここでは名前は言ってもいい、と彼女にはつたえてある。
いったい何の用だろうか・・・。
「今日は勧誘じゃないよ。これ!なんかちょっと怪しげな魔術使いさんから手紙を頼まれたの」
一般的に冒険者は魔術師のことを魔術師とはいわない、知識があまりないのもあるが魔術使い、魔法使いということが多い。
「マリーン家の者か・・・?ありがとう」
軽く会釈してポケットに手紙をしまう。
「いまからトロル倒しに行くんだ。急がなきゃ」
「ああ。がんばってくれ」
手紙を渡すとさっさとでていく彼女に言葉をかけた。
「ししょー今日は護衛いかないの?」
「ああ。今日は研究室に籠りきりらしい、あの家にいればまず大丈夫だろう」
「ねね!今暇なら魔術おしえてよー」
教えるといってもな・・・とおもう。だって俺自身も半人前で教えるような立場ではない。
1つだけ教えられるのは魔力の使い方だけだ。
「教えるのは良いがなにを教えればいいんだ?」
「うーん・・・基礎から!」
意外な言葉だった。意外と真剣なのだな・・・とおもった。そこまで言われればやってやるか。
スライムが魔術を使うなんて聞いたことはないがやってみよう。
「ぐぬぬ・・・ぐおおお」
「・・・」
いや声をだしてもだめだぞ。というのを堪える。
「魔力を感じたことはないか?なにかきっかけがあればいいんだが」
魔物でも魔術をつかうものはいる。魔術師のゴースト、意思をもった呪物、高い知性があるクイーンクラスの魔物だ。スライムは・・・適正はほぼないだろう。
「人間でさえ魔術は才能がないとまったく使えないんだ。俺もほとんどの魔術はつかえない」
めずらしく、真剣な顔で彼女は顔を上げる。
「わたしは・・・助けになりたいんだよ。コバヤシだけなんだ。ちゃんとわたしといっしょにいてくれるのは・・・」
魔物のヒエラルキー・・・その中で最も弱い彼女が続けて言った。
「群れではあるけどみんなね。ほかの魔物にいつも怯えてるの。だから仲間意識とかはなくて生き残るために群れでいるだけなんだ」
「・・・そうか」
ほとんどの弱い魔物はそうだという彼女はすこし悲しそうだった。
「魔力はほとんどの生命体にあるはずだ。存在しない生き物はいないといえる。でもその前に魔力が感じられないとコントロールも出来ない」
「わたしにはないのかな・・・魔物なのに」
「それなんだがおそらくお前のほうが魔力は多いはずだ。人間ではない、スライムなのだから」
とりあえずマリーンの家に行ってみるか・・・。
「そういえば今日は手紙があったな・・・えーと」
お昼までに屋敷に来るように・・・ちょうどいい。呼ばれているので時間通り行けばいいだろう。
宿を出ると一人と1匹でマリーンの家に向かった。道は覚えている。
富裕層エリアは正直めんどくさい。変にお高い態度でいる気がする。身なりが汚いからかもだが、値踏みされるような態度でこちらを見てくるのだ。
「なんでみんなこっちをみるんだろう・・・目立つのかな?」
「薄汚れた格好で歩いているのもあるが、ギルド所属の冒険者なんだ。この辺りには普通冒険者はうろつかないからな」
「その通り!ほんといやなところだね!ここは」
おい。と言いたくなった。
「護衛もないのにうろつくな。まったく」
「君たちが遅いからきたんじゃないか。ちょうどそのスライムちゃんに協力してもらおうとおもって待っていたのに・・・さてはズボラだな?うんうんまあ仕方ないか」
ほんとにおしゃべりな魔術師だ。一応今回は杖は持っているようだが。
マリーンのお喋りに付き合いながら工房・・・魔術師のデスクに案内された。
適当かと思いきや意外と物はきちんと並んでいる。錬金術で使用するような魔道具が目に付く、
「マリーンは魔術師・・・なんだよな?」
「そうだよ。普段は錬金術を専攻しているけどね」
魔術師の工房は大体は媒体とする宝石や鉱物、魔導書などが積まれた暗くて狭い部屋がイメージされている。がマリーンはすこし違った。日が差した爽やかな雰囲気、綺麗に置かれているアーティファクト。閉塞感がまるでない。
「僕はすこしでも爽やかな職場で働きたくてね!そういうジメジメしたところは嫌いなのさ」
さて!と言わんばかりに綺麗に並べられた怪しげな瓶から1つを取ると言った。
「さあ!スライムもとい・・・スラ子!飲みたまえ!」
「えっ・・・?えーと・・・えい!」
飲むのか!と思ったが突然すぎて対応できなかった。
なんかスライム・・・もといスラ子がヘンだ!体も青色に淡く光っている。
「うおおおお!?」
「君たちに手を貸すんじゃないか!はっはっは」
マリーンは不敵に笑っていた。
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