26話魔を断つ剣
「はあっ・・・はあっ・・・」
迫る人間モドキの首を落とし、殺していく。
一人一人は強いわけではない。しかし如何せん数が多い。
いったい何人男を喰らってきたのか。
パキイイン!
具現化した武器が存在を保てず壊れる。
もうこれで武器召喚は3度目。
「数が多すぎる・・・!」
これは消耗戦だ。守りに入った時点で俺たちは勝てない。分かってはいるがまだこちらの攻め手が足りない。
「うう・・・・あああああああ!」
_____化け物はうなり声をあげる。
もう何人殺したのか。疲れ切って手足は鉛の用に重い。
「狙っているのはその邪魔者だけなのになぜ守るの?一人で逃げればいいじゃない」
「コバヤシ、あの女の言うとおりだ。僕は邪魔者だ。君だけでも逃げてくれ」
「そんなこと出来るか!」
覚悟を決めたのか、らしくないことをいうキルトに思わず怒る。
「くそっ・・・!」
「先生。外がさわがしいです!」
「ええ。急ぎましょう」
「センパイ、お願い私を背負って!」
背負う・・・?スラ子がそういうとマントを脱ぎ、キリエの背中に液状化し、張り付いた。
「ええっ!?スラ子ちゃん!?」
「あとで事情は話すからいまは急いで私を運んで!」
「先に行ってください。わたしも頑張って追いつきます」
色々聞きたいことはあるが、いまは急がなければ。
ここから運動場まで距離にして600メートル。魔力で強化すれば大した距離ではない。
「ウル、風のように駆けよ!」
加速する。一歩一歩が風のように軽くなり、まるで飛んでいるようだった。
「わわ・・・!」
「しっかりくっついててね!」
突風のごとき疾走。
そのままの勢いで、校舎の曲がり角をまるでコーナリングするかのようにバランスを保つ。
窓越しに戦っている二人が見える。
「おっ・・・・・りゃあああああ!」
気合とともにガラスをたたき割り、二人のいる場所へ駆け抜けた。
キルトは遠くから女の子らしくない声を上げながら三階の窓を割り、キリエが飛び降りてくるのをみた。
スラ子が落下するキリエの背中から顔をだし、詠唱を開始する。
「術式展開・・・!水よ束ねよ、あらゆるものを貫く刃となれ。アクア・ランス!」
アダマイト魔石をいくつか放ると、内包された魔力が解放され具現化する。
水の槍が降り注ぐと、二人を取り囲んでいた人間モドキの肉体を貫き、破壊する。
アダマイト魔石のほとんどを使ってしまったが、異形の群れを一掃出来た。
「邪魔」
キリエが着地した瞬間。サキュバスは詠唱もなしに指先から火球を放つ。
着地の隙を狙った素早い攻撃。普通であれば致命的だっただろう。
この程度なら・・・!
「エオロー!硬化せよ!」
強化した腕でキリエは火球を受け止め、弾き飛ばす。
弾いた火球は建物の一部に直撃し爆発する。
「コバヤシ君、キルト!大丈夫!?」
「君らしい登場の仕方だね。もう少し可愛げのある声は出せないのかい?」
「皮肉めいたことはなし!先ずはあいつを倒せばいいのね?」
不機嫌そうに言った後、すぐに敵を見据える。
間髪いれずサキュバスは詠唱を開始する。
「ゲル・・・イアガ・エ・ラズ・ヘルム・バルグロス・・・」
古代の言語だろうか。聞いたこともない詠唱だった。
魔力が巨大な炎の槍に具現化し展開される。
スラ子は最後のアダマイト魔石を放り投げると、キリエを守るようにアクア・シールドを具現化する。
「邪魔者は死になさい。降り注げ、炎の槍よ!」
それは一撃の強さよりも回数を重視した攻撃だった。
キリエに向かって炎の槍が雨のごとく降り注ぐ。キリエは魔力でアクア・シールドの強度を上げ、耐える。
「やばっ・・・!シールドが持たない・・・!」
「いかずちよ、吠えよ!」
直撃した。が、見る間に焼け焦げた部分は元通りになってしまった。
「この程度の魔術ではわたしは死なないわ。傷も与えられない」
「ああ・・!この魔剣を除いてな・・・!」
コバヤシは駆ける。サキュバスは本能的に魔術を停止させ。
隙を突こうとした一撃を避けた。
「これは・・・!?」
自分でも理解不能だった。物理的に干渉するだけの一般的な魔術や如何なる魔法武具・・・現代の技術で作られた武器では傷をつけることはできない。わたしを殺せるのは霊体に干渉する特殊な武装か協会の白魔術のみ・・・!
_____コバヤシの視点。スラ子がシールドを展開し、キルトがいかずちを放っている。今あいつはこちらをみていない。
今しかない。
コバヤシは詠唱する。
「術式展開。検索開始・・・いでよ。あらゆる勝利を約束し、破滅をもたらす剣・・・!」
記録した魔術的な構造を検索し具現化する。・・・検索完了。
「契約に従いその力を具現化せよ。魔剣ヘブンズギル!」
・・・魔剣ヘブンズギルはさっき「我以外の武器では」と言っていた。
つまりこいつにもダメージを与えられるかもしれない。
「・・・・!」
あいつはこちらの動きに気づいていない。隙を見て、コバヤシはサキュバスの不意を突く。
「これは・・・!?」
避けた・・・!無意識に行ってしまった回避に、サキュバス本人が一番驚いていたようだった。
「我は魔力を喰らう魔剣。あやつとは相性が悪いことを本能的に察したようだ」
魔力は残り少ない。具現化していられる時間は少ししかない。
「もういいわ。死になさい」
サキュバスはこちらに狙いを変えたようだ。
丁度いい。
「ヴァナ・・・フレイム・ヴェ・イグロルス!」
詠唱し、放たれる火球。さっきとは大きさからして違う。まともに喰らえば消し炭だ。
「コバヤシ!あぶない!」
「大丈夫だ。この魔剣なら・・・!」
構造検索の結果分かったのは、この魔剣は魔力を喰らう。ということに特化しているという事だった。
いかに強力な魔術だろうが破壊し、魔力を吸収する。
火球を切り払い、全速で距離をつめる。
「(死ね)」
魔力を込め言葉を紡ぐ。
「こんな・・・!」
魔剣がサキュバスの体を貫き、致命傷を与える。
魔剣を引き抜くと、力なく倒れた。
「サキュバスである私が・・・死ぬなんて・・・」
霊体の核である心臓を破壊され体が消えていく。
「・・・わたしはサキュバスの主、イヴ様の側近。誇ることね可愛い魔剣使いさん・・・」
最後に言い残すと、魔力の粒子になって消えた。
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