17話キルトの悩み、決心
ラートルフ家。魔術の家としては12代目ほどだ。
長く続く歴史、魔術師は自分の息子、または娘に自らの研鑽された技術を受け継いでいく。
僕の受け継ぐものは従属の魔術、ルーン文字を利用した特殊な魔術だ。父上よりさらに前の代から実現しようと努力し、研究を重ね、積み重ねた結果得られた奇跡だと聞いている。
「術式展開、汝の意思を破壊し、縛る鎖」
魔法陣が展開される。魔獣の頭にルーン文字が浮かび上がり、苦しみ始める。
「グ、ウウ・・・」
「呪いよ。成就せよ。たぎれ、たぎれ、たぎれ・・・」
詠唱を綴る。もうそろそろだな。
「私に従え。・・・ハガル!」
「グルル・・・」
魔獣はガラス越しに、おとなしく座り込んだ。成功だ。
「ふう」
もう実験は十分だろう。あとは実践するだけだ。
キルトは悩んでいた。
「本当に父上は人間にこの魔術を実行するのだろうか」
父上の建前上、あのコバヤシという男には実践するとはいったが・・・。
正直躊躇いはある。意思を破壊するのだ、死ぬのと何が違うのだろうか。
コンコンコン。
「誰でしょうか」
「依頼で品を届けにきたのだが・・・コバヤシだ」
「入ってくれ」
ガチャ。とドアを開ける。
頼んだものを持ってきてくれたようだ。仕事が早いのは良いことだ。
「こんなものが欲しいのは意外だったな」
「なかなか工房から出ないものでね。僕は冒険者ギルドに属している訳ではないし」
依頼の品はアダマイト魔石だ。魔物の体内から稀に取れる石なのだが、冒険者はただの石ころ同然に扱っている。魔術師くらいしか必要とはしないだろう。
「アダマイト魔石は魔術師にとっては扱いやすい石だ。性質上呪いが込めやすくてね。呪物に使われるんだよ」
宝石を使った魔術は1回で使い切りだ。杖の原理と同じで媒体になるのだが一度でも使うと壊れてしまう。
なのでタダ同然で手に入るアダマイト魔石は工房を持つ魔術師なら皆常用している。
「良いことを聞いたな。感謝する」
「マリーンさんは元気かな?あのマジックエリキシルは本当に嬉しかったよ。お礼を伝えておいてほしい」
マリーンさんは僕の幼少期からの付き合いだ。何かと助けてくれたし魔術の手ほどきもしてくれたこともある。父上より魔術の腕は上かもしれない。
「君に、聞きたいことがある」
相談なんて自分らしくないな。と思いながら話す。
「もし自分の両親が手段を問わず、そのせいで間違いを犯しているのを知ったら君ならどうする?」
「目的によるな」
「目的・・・目的が正しければ手段を問わないのは間違いではない。と」
そういうことだ。とコバヤシは答える。
「お前は魔術師の名家だろう。だったら手段は問わない、というのが分かるはず。自分で言ったはずだ、真理の探究をするってな」
「ただ・・・」
もし苦しいなら、マリーンに相談すればいいとコバヤシは言った。
それは考えたが、それは裏切りではないかと思ってしまう。
「裏切りかもしれない。でも自分を裏切るのは一番つらい」
もし相談したければいつでも言ってくれ。とコバヤシは帰っていった。
「父上、僕は・・・」
許されるだろうか、と思った。
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