22話模擬戦、言霊の魔術の活用
「ふふっ・・・美味しい・・・」
「あ・・・」
体が動かない。まるで命を吸われているようだった。
どうしてこうなっているのか、よく覚えていない。廊下で生徒会のセンパイと話して・・・。
ぼんやりとした意識の中、噂を思い出す。
_____サキュバスがいるらしいよ。
男は意識を保つことが出来ず、意識を手放した。
「それでさあ。魔術学科の男の子、いま教会で療養中らしいよ」
「へえーあの噂マジなのかな」
校内はいまとある噂話で賑わっていた。
精を喰らう魔物、サキュバス。イシュタルから話くらいは聞いている。サキュバスは魔物の中でも(悪魔)と呼ばれる人語を話す特殊な魔物だ。
本当にそんな魔物がこの学園にいるなら大変な事態だが、噂は噂だ。
「コバヤシ!他の人間から聞いたんだけど、なんかさきゅばす・・?っていう魔物がいるかもしれないんだって!」
「そうなのか。キリエセンパイもそんなことを言っていたな」
そういえば今日はキリエセンパイ含めた上級生も授業に参加するらしい。
「コバヤシ、今日は訓練所だよ」
今日は実戦形式で魔術を使うんだったな。
実戦形式での模擬戦だ。
「スラ子。もうお前は魔術を使えるようになったのか?」
「うん!まだ不安定だから出来るかわからないけど・・・」
これは持ってきたよ!とアダマイト魔石をポシェットからいくつか取り出す。
魔力が込められた石が淡く光っている。杖は持っていないようだ。
「(ウイッチクラフト)はまだ出来ないか」
「杖はまだ作れないんだ。今日は貸してくれるって!」
_____訓練所は回覧席もある、大きな決闘上だった。キルトと戦った魔術協会の聖堂に似ている。
今日は上級生が相手になってくれるようだった。生徒によって得意な魔術が違うのでどうやら合わせた相手にしてくれるようだ。
その上級生の中に一人、キリエセンパイの他に見覚えがある奴がいた。
「コバヤシか。驚いたなこんなところで会うとは」
「キルト・・・センパイか、まさかまた会うとは思ってなかったよ」
一応ここは学校だ。センパイと呼ぶべきだろう。
「センパイはやめてくれ。気持ちが悪い」
「悪かったな」
あの決闘のリベンジと言いたいが、今日は相手が違う。
相手はまさかの、
「コバヤシ君、よろしく!」
キリエセンパイだった。普段の制服と違い、近接戦闘専用の魔術礼装だ。
スイムスーツのような恰好をしている。
「加減はいらないよ。思いっきり戦っていいからねー」
コバヤシは事前に1人だけキリエと同じ魔術礼装を着るように指示されていた。そういうことか。
「術式展開、検索開始・・・現れよ。ウェポンサモナー!」
いつもより長く詠唱する。より強く獲物を具現化するためだ。
木刀を召喚するとキリエも構える。魔術で強化した体術で戦うのか。
「コバヤシ君、身体強化に魔力を使う生徒は少ないので彼女が相手になります。一切加減はしません、思いっきり戦ってください」
エリスが合図すると、キリエは魔力を身にまとった。
「・・・ウル」
古代の文字で野生、という意味だ。
身にまとう魔力で瞳が黒から赤色に変わる。
「(センパイには悪いけど、あなたは致命的な失敗を犯すだろう)」
久々に言葉に魔力を込め、現実に作用させる。確実に効くとは限らないが、これなら。
「ふうん。強気だね・・・負けないよ」
「開始!」
声を上げた瞬間、態勢を低くしたキリエが柔軟な筋肉を爆発させ距離を一気に詰めた。
・・・早い!
鋭い右拳が突き出される、狙いは腹。魔力を込めた拳だ、当たれば確実に耐えられない。
「・・・!」
左手に魔力を集中。即座に拳を受け止め、払いのける。
右手で持つ木刀を振り下ろすとキリエは左手で受け止めた。木刀とはいえ全力で振るえばケガでは済まない。そんな思慮する思考を見抜いたのか、キリエは言った。
「コバヤシ君、この礼装は魔力を通すと木刀なんて大したケガにならないから安心して」
剣を振り下ろした右手の膂力を強化し、思いっきり振り払う。さすがに怯んだのか、後ろに滑るようにステップを踏み距離を取る。
たったの一合(いちごう)だったが、キリエの実力はわかった。
強い。ただ、保険はある。
「コバヤシ君もやるね。元々戦闘経験あるとは聞いてたけど、私の初撃。防がれるとは思わなかったよ」
キリエが再び駆ける。・・・動体視力を強化。
上半身を狙う素早い回し蹴りを軽くしゃがみ込み態勢を低くして完璧に避けた。
「ふっ!」
この隙は致命的だった。下から木刀を全力で繰り出す。
回し蹴りを繰り出した足はまだ地についていない。
(なっ・・・!こんな失敗・・・!)
不思議な感覚にキリエは囚われた。まるでこの失敗が起こるのがコバヤシは分かっていたような・・・。
思い切り木刀を下から上に振りぬく。魔力強化された一撃は鈍器と変わらない。
「きゃっ・・・!」
飛んだ。キリエの腹を捉えた強烈な一撃で数メートル吹っ飛んだ。
礼装のおかげで痛みはない。
ただ。
「もー。悔しいなあ。男の子には敵わないか」
「コバヤシ君の勝ちですか・・・!すごいですね。女の子とはいえ上級生に勝てるとは思いませんでした」
皆が驚く中、誰も気づいていなかったがスラ子だけは気づく。
いまの(致命的な失敗)って言葉で・・・現実に変化を起こしたんだ・・・!
「ありがとうございました。キリエセンパイ」
コバヤシの次はスラ子の番だ。
相手はキルト。
「(ま、負けないから!)」
「こっちもそれなりにやらせてもらうよ」
言葉の魔力を込める感覚がまだわからない。弱々しかったかな。
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