21話魔剣の具現化

武器召喚、ウェポンサモナー。得意な魔術のはずだが今はまったく使えない。


まいったな。いまさら杖を中心に戦うのは合わないし。


そんなことを考えながら誰もいない校舎の中庭でパンを頬張る。


「やっ!コバヤシ君!」


「ああ、えっと・・・キリエさんだったか」


初日で案内してくれたセンパイだ。


「一緒にいた子は今はいないの?」


「スラ子は俺よりも基礎が出来ていない。だから勉強中だ」


「ふーん。そうなんだ」


手癖なのか、髪の毛をいじりながら話すキリエをつい意識してしまう。


こういう風に2人で女の子と話すのは俺は苦手だ。


「ねえ。コバヤシはサキュバスって知ってる?」


サキュバスは男を誘惑し、精を奪い。そして殺す恐ろしい魔物だ。


身体能力も高く、魔術も扱える高等な種族らしい。


「いま謎の衰弱事件が起こっててこの学園にサキュバスが紛れてるって噂なんだ。コバヤシ君も気を付けるようにね」


「わかった。ありがとう」


何の用だったのか。キリエは一言二言話すと校舎に帰っていく。


センパイも案外暇なんだな、と思った。
















「コバヤシ!一緒に教室いこ!」


ここに来て5日。スラ子はメキメキと実力を上げ、魔法陣を展開するところまで出来るようになっていた。


魔術は魔力を円環させ、魔法陣を展開出来るようになってからようやく行使できるようになる。俺が魔法陣を展開出来るようになるのに一か月くらいかかったのを考えるとすごい成長だ。


この調子なら何かしらの属性をカタチに出来るようになるだろう。


「ああ。そういえば友達は出来たのか?」


「私のこと、褒めてくれる人はいるけど友達はいないかも」


虐められてはいないようだ。コバヤシは内心安心する。


今日は魔術の具現化について詳しく教えてもらう予定だ。


いつもの教室に入り、席に着く。


俺たちは基本的にこのエリス先生に教わっている。優秀な先生だしなにより教え方が分かりやすい。


「今日は魔術の具現化についてやろうと思います。スラ子さん、あなたは成績優秀なので皆のお手本として一番に実践してみてください」


「はい!」


術式展開・・・!


スラ子が魔法陣を展開するとエリスはアダマイト魔石を手渡す。


「これに魔力を込めてみてください。魔力のコントロールもしっかり行わないと石が壊れてしまうので注意してください」


手渡された石に魔力を込めると淡い青色に光る。不思議な雰囲気だ。


「ふむ・・・これは氷とも水とも取れる反応ですね。スラ子さんは不思議な属性を持っているようです」


石を私に渡してすこし先生から離れてください。と言いスラ子が離れると、「解放せよ」と短く詠唱する。


パキイイン!


エリスの手にあったアダマイト魔石が花が咲いたような形に結晶化する。


結晶からはほのかに冷気を感じた。


「氷・・・やはり水の属性も感じますね。2つの属性があるのはとても珍しいです」


「すごい!綺麗なお花!」


「アダマイト魔石は魔術の媒体として一般的に使われるものです。スラ子さんの魔力を具現化する為に媒体となる魔石に魔力を込めさせたんですよ」


おお・・!すごい・・!


教室がざわめく、


「魔術の具現化にはイメージを固めることが必要です。具現化の才能には個人差がありますが・・・詠唱の工程を増やすことによって魔力をより強く具現化することが出来ます」


エリスが術式を展開する。


「たとえば・・・。この結晶にさらに魔力を加えてみましょうか」


「術式展開、くわえよ。我が力。詠唱をもって奇跡をおこしたまえ・・・」


エリスが魔力を帯び、空気が魔力でビリビリと揺れる。


「クリエイト・マジック!」


ガキイイン!


「石に込められたスラ子さんの残留している魔力を強く具現化させ、変化させました」


掌に収まる程度の大きさだった結晶が2倍くらいの大きさになる。


詠唱をすこし加えるだけでこんなに具現化させられるのか。


これをやってみればもしかしたら魔剣の具現化に成功するかもしれない。


詠唱は魔剣のイメージに沿うものを考えて・・・。


今度こそ出来る気がする。


授業を終えるまでそのことばかり考えていた。


















「術式展開。検索開始・・・いでよ。あらゆる勝利を約束し、破滅をもたらす剣」


コバヤシは授業が終わると同時に中庭に行き、具現化を試していた。


出来るような気がしたからだ。


______たしか契約がどうかとか言ってたな。


「契約に従いその力を具現化せよ。魔剣ヘブンズギル!」


(ようやく我を召喚したか)


詠唱によって魔力が編まれ、カタチになっていく。


現れた魔剣は紫の刀身、赤い宝石がついた黒い柄。


まさに魔剣といった見た目だ。


思ったよりもあっさり召喚できた。おそらく契約、という言葉が必要だったのだろう。


それにしても、


「驚くほど軽い・・・重さをまったく感じない」


「当然だ。お前は契約者、お前にしか我が剣は使えない」


!?


「口を利くのか。この魔剣」


驚いた。しかし何百年も血を吸い、呪物になるほど魔力が込められ続けた剣だ。こういうこともあるのかもしれない。


「今回の契約者は変わり者だな。我が破滅をもたらすかはお前次第だが楽しみにしている」














魔剣ヘブンズギル。この力が手に余るものだということを存分に見せつけられることになる。


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