20話初めての学園

「まさか短期間とはいえ学生をやることになるとは・・・」


「すごい!人がたくさんいる!大きい!」


マリーンの紹介状で少しの期間、魔術を学べることになった。具現化の練度を上げ、武器召喚を使えるようにする為だ。


ここはマーレッジ学園と呼ばれている。歴史ある学園で数百年も続く名門らしい。


「ここではししょーはやめてくれよ。コバヤシでいい」


彼女に釘をさすと、門をくぐる。


花壇で飾られた賑やかな校舎への道を進む。


校舎は木造3階建てほどの大きさの古い建物だった。


ペンタグラムの模様のカラフルで綺麗なガラス窓、外からも見える学園内の人の往来にスラ子は興奮していた。


「あんまりキョロキョロするな。ただでさえ浮いてるんだからな」


「だって魔術を教えてもらうんだよ!すっごくたのしみ!」


大玄関を通ると生徒が人だかりを作っている。どうやらひと騒動起こっているようだ。


「風よ。吹き荒れろ、エアロ!」


「術式展開!展開せよ。マナ・シールド!」


これは・・・決闘か?風の魔力の奔流が結界に阻まれ、周りに拡散する。


(編入早々にこんなのに出くわすなんて運が悪いな・・・)


落ち着くまで外に出て待っていようかと思ったその時、


「こらこら!やめなさい!」


女学生が声をあげた。ブロンドの長髪に整った顔立ち、街を歩けば誰もが振り向きそうなタイプの女だった。胸にはなにかバッチのようなものを付けている。


「だってこいつが・・・!」


「私のせいじゃありません!」


声をあげた女学生は二人の話を聞く。


どうやら痴情のもつれのようだった。浮気をされた側と、浮気をした側。


(女は年齢に関係なく怖いものだな)


何しろ魔術の打ち合いに発展するくらいなのだから。


騒動が収まると、人だかりが散っていく。


「えっと・・・すまない。用事が終わったなら聞きたいことがあるんだが」


人の通りが元に戻ると、バッチをつけた女学生に声をかける。


「え・・・?君たちはこの学校の生徒かな?」


いまは俺もこの学校の制服を着ているので問題ないはずだ。スラ子の正体のことはマリーンが一部の教師に伝えてあるらしいので、問題ないとはいっていたが・・・。


「短期編入なんだ。この子は制服ではないが、俺と同じで編入する生徒だ」


「ああー!聞いてるよ!そっか。短い間だけど、よろしく」


生徒の中でもある程度上の立場なのだろう。彼女はある程度のことは教師から聞いているようだった。


「わたしはスラ子!よろしくね!」


「コバヤシだ。よろしく頼む」


下の名前は一応隠しておくことにした。魔術師の学校だ。何があるかわからない。


「コバヤシと、スラ子ちゃんね。わたしはキリエ、二人の入る魔術学科の先輩ってとこね」


この学園には二つの大きな学科に分かれているらしい。


1つは錬金術を専攻して学ぶ錬金学科。そして俺たちが世話になる魔術学科だ。


魔術学科は錬金学科よりも細かい分類分けがされていて、最初は分からないだろうということで案内してもらえることになった。


(なんか大学みたいだな)


義務教育というよりは自分で受ける授業を決めて入る感じだったので思ったより自由そうだ。


キリエに案内され校舎の中を歩く。


「マリーン様の紹介だったわね。すごいじゃない!あの方に気に入られるなんて滅多にないことよ?」


「ああ。そうだな、すごい人なのは知ってる」


ガラっ。


足が止まり、スライド式の扉を開ける。


「案内はここまで、頑張ってね!それじゃ!」


「ありがとう」


「ありがとうね!」


扇形で段差になっている教室。人はまばらにいるだけで時間ではないようだった。


学校か。内心楽しみではあった。


______どんな人が教師なんだろう。


俺たちが受ける授業は基礎の基礎。


具現化について手ほどきを受けるのはこちらの世界に来て、女神に教わった時以来だ。


時間が経つにつれ人が増え始める。授業が始まるようだった。


















「今日は二人、新しい生徒がいます。皆さんよろしくお願いしますね」


・・・?


(なんか反応がヘンな気がする)


初対面なはずだが、コバヤシは違和感を感じた。会ったことはないはずだ。多分。


軽く挨拶を済ませると授業が始まった。


「今日は魔術をはじめたばかりの方が多いと思います」


エリスは冒険者として活動する傍ら、魔術を教えていた。


彼女は珍しく、純粋な血統のエルフだ。4属性を扱う才能から学生のころは有名人だった。


そんな彼女が魔術協会にも属さず冒険者になったことは衝撃だった。いまも魔術協会から時々勧誘が来るが、所属する気は本人にはなかった。


「まずは魔力のコントロールから始めましょう。スラ子さん、強化の魔術は出来ますか?」


「出来るよ!これを強化すればいいの?」


ビーカーのようなガラス製の器にいっぱいまで水が入っている。


「この水は魔力に反応する特殊な水です。魔力を込めすぎるとこぼれます」


エリスがコップに触れ、魔力を込める。


表面張力によってぎりぎりのバランスで保たれた水面が魔力に反応して揺れる。


「これ以上に魔力を込めると・・・」


魔力によって水面のバランスが崩れ水が飛び散った。


この訓練には繊細なコントロールが必要なようだった。


「よーし!やってみる!」


目を瞑り、割れ物を触るように魔力を込める。


_____手を通して魔力をコップに浸透させるイメージで。


「わわ!」


「初めてにしては上手いですね。しかし、」


ぎりぎりで保たれていた均衡が崩れ、水が跳ねる。


「もう少し練習しましょうか。頑張りましょう」


「むむ・・・」


(この子が・・・コバヤシのパーティメンバー。純粋な子ですね)


エリスはスラ子と話したことはない、しかしある程度は知っている。


「どの程度コントロール出来るかは分かりました。席に戻ってください」














エリスはいつも通り授業を続ける。コバヤシが気になってはいたが授業に集中するのだった。

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