23話エリスの依頼

「これは真剣勝負じゃない。だから死ぬようなことはない」


スラ子は緊張した面持ちで杖を受け取る。ここに来る前にすでに体を隠せるような魔術礼装に着替えてある。エリス先生の計らいだろう。


「よろしくお願いします!」














「術式展開。いかずちよ、吠えよ。サンダーブレイク!」


スラ子はポシェットに入ったアダマイト魔石を掴むと放る。


「展開せよ!アクア・シールド!」


まだ安定して杖での魔術行使は出来ないが、すでに込められた魔力を使って具現化するのは簡単だった。あらかじめ、いくつか魔力を込めた石を用意してある。


スラ子の展開したシールドに当たると、魔術を弾く。弾かれたエネルギーが周りに飛び散った。


「魔術は、安定して具現化していますね」


スラ子の属性は水、氷だったがまだ水の属性しか扱えない。しかし、それでも十分な成長だ。


「珍しい属性だね。ほら、次は君が攻撃してみるといい」


「術式・・・展開!」


杖を構え、詠唱する。


「水よ、束ねよ。あらゆるものを貫く刃となれ。アクア・ランス!」


詠唱で束ねられた水が槍のようなカタチになり、展開される。


「おお・・・!このわずかな期間でここまで出来るようになるなんて、スラ子さん流石ですね」


「これ、放っていいの?死んじゃわない!?」


キルトはため息をつき、言った。


「そのためにこの魔術礼装を着ているんだよ。この礼装はあらゆる魔術が与える効力を無効にする。だから放ってみるといい」


「・・・・い、いくよ!対象を貫け!アクアランス!」


水の槍が、キルトに向かって発射された。キルトが「展開せよ」と言い魔力で作られた結界を具現化すると、壁に阻まれた水の槍がたやすく砕ける。元々具現化の練度が違うのだ。この程度の魔術は簡単に防げるようだった。


「ここまで、ですね」


エリスが言うと、彼は杖を下ろす。


初めて魔術を実践的に使えた。スラ子は嬉しくて思わず笑ってしまう。


「スラ子、すごいな。もう俺なんかとっくに追い越してるよ」


「わわ・・・!コバヤシに褒められた!」


こんなことめったにない。という態度だ。コバヤシはすこし不満そうに笑い、言った。


「俺だってそのくらいはする。人をなんだと思ってるんだ」


実践授業は順調に進む。良い勝負をした生徒は何人かいたが、上級生に勝ったのは俺だけだった。


偶然だよ。とほかの生徒には言っていたがあの場面で特殊な魔術を使って勝ったことは誰にも言わなかった。


授業も終わり、人もまばらになったころ。エリス先生は俺たちに声をかけてきた。


「コバヤシ君、スラ子さん、あとで話があります。授業のあとで私と来てください」


なんだろうか。エリス先生はどこか真剣な様子だった。


















夕暮れ色の廊下。赤く照らされた風景はどこか寂しい雰囲気を漂わせている。こんな雰囲気ではサキュバスだってホントに表れたって不思議じゃない。


スラ子はさっきからずっと実践授業の話をしている。


それでね、と続ける彼女は気配に気づく。


「時間がかかってすいません。二人とも」


教室のドアを開ける音がすると、エリス先生が入ってきた。


「先生!どうしたの?」


エリス先生の雰囲気がいつもと違う。授業をしている時とは違って堅苦しい雰囲気がしないからだろうか。手に持っている書類は・・・ギルドの依頼書・・・?


「コバヤシ君、スラ子さんあなた達はギルドに所属しているらしいですね。マリーン様から聞いています」


どこかよそよそしく、彼女は続ける。


「この学校に来たのも何かの縁。学業ついでに私の依頼を受けてくれませんか?」


「依頼・・・?まさかこのサキュバス騒ぎのことですか?」


コホン、と咳払いをしてエリス先生は続ける。


「何かが関与していることは確かです。噂で聞いているとは思いますが」


ただの噂だとおもっていたが、衰弱事件は本当らしい。


たしかここ最近、魔術学科の男子生徒数人が連続で襲われたとか。意識が戻らずいまだ昏睡しているそうだ。


「決まって放課後、一人でいるときに襲われているそうです。コバヤシ君にはその調査件、囮になってもらえないでしょうか」


「囮って・・・。何か保険はあるんでしょうか」


サキュバスなら魅了の魔眼を持っているはず。それを対策しないと魔力抵抗なんて無意味だ。


魅了の魔眼は呪いのようなもので、男なら決して逆らえない。


エリス先生はこれを、と眼鏡を渡してきた。


_____これは、魔眼殺し。本来なら本人を無視して暴走してしまう魔眼所有者に対して力を無理やり抑える為のアーティファクトだが・・・。


「これなら、たしかにいけますね」


魔眼をシャットアウトするならこれで十分だ。


「ししょーの眼鏡・・・ププッ」


スラ子はいたずらっぽく笑う。・・・そんなに似合わないだろうか。


「学園内では眼鏡を外さないようにしてください。・・・あとスラ子さんは私と別行動です。一応聞き込みをしましょう」


「なんか探偵みたいだな・・・」


「タンテーってなんでしょう?」


「ああ、いやなんでもない・・・です」


では明日から男子生徒が襲われたところで痕跡を探してください、と魔石が嵌められた時計のようなものを渡される。


「これは魔力探知機です。魔力の強い反応があるとその方向に針が動きます」
















「サキュバスなんて出てこないでほしいですが・・・」

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