24話調査

「サキュバス・・・ほんとにいたら厄介だな・・・」


校舎の西側、学園の敷地の2割を使ったかなり大きな別棟の建物。そこは学園の図書館だった。


建物の規模を考えるとかなり大きいと思う。サキュバスは珍しい魔物だが、生態を調べるには十分だった。


古書によると現実と夢の合間に生きるサキュバスは肉体存在が曖昧で、不老不死に限りなく近い不老の魔物だという。


肉体が曖昧・・・というのはどういう意味だろうか。


そんなことを考えていると声を掛けられた。


「コバヤシか、意外と勉強熱心なんだね」


「キルトか。その・・・」


質問しようと思ったが、すこし躊躇われた。


サキュバスについて調べているなんて言ったら、「噂を信じているんだね」なんて皮肉めいた顔で馬鹿にされそうだったからだ。


しかし・・・今は少しでも多く情報を集めたい。


「肉体存在が曖昧・・っていうのはどういう意味なんだ?いま調べものをしていてそこがどうしても分からないんだ」


言葉を選んだつもりだったが、


「それはサキュバスのことだね。彼らは物理的に肉体的を切り刻み、破壊しつくしてもけっして死ぬことはない。存在が魔力そのもので出来ている。という解釈でいい」


「魔力そのものを断つことが出来れば殺せるってことか」


「そうだね。もしかして例の噂の調査・・・ギルドの依頼かな?この学校で依頼しそうなのは・・・エリス先生か」


・・・?


なぜ分かったんだろうか。本人はこっそり依頼をしてきたような気がしたんだが。


「なぜ分かったって顔してるね。先生はじつは教員がメインではなく、冒険者ギルドでの活動がメインだからだ。一部の生徒間でしか知られていない事だから君が知らなくて当然だよ」


それより、と。


「眼鏡似合ってないね。恥をかかない内に外すことだ」


キルトは年相応な笑い顔を見せるのだった。




















「あ!おはよう先生!」


教室に向かう途中、ばったりとスラ子に会った。コバヤシは調査してるのだろう。いまは1人のようだった。彼女は手を振ってこちらに来る。


「おはようございます。スラ子さん」


「ねね!先生はマリーンと仲がいいの?」


依頼について先日話した時、マリーンさんを通じて依頼をした。という事にしたからだ。


別に冒険者ギルドに所属していることを隠しているわけではないがなんとなく、話せなかった。


それにしても、マリーンと呼び捨てに出来るのは少し羨ましい。彼女もなにかマリーンさんと縁があったのだろうか。


「大した関係ではありません。恩師、といったところですか」


恩師?とスラ子は首をかしげる。抜けているというか、こういうところが彼女の可愛げなのだと思う。


「お世話になった。という事です。わたしもかつてはここで学んでいた学生なのですから」


わたしはエリートと呼ばれ、成績もトップだった。出来ないことなんて、理解できないことなんて何もないと思っていた。


マリーンさんはそんな風に思っていたわたしに何のために魔術を使うのか。と聞いてくれた。


「魔術は目的ではなく手段なのだと・・・いえ難しい言葉ですね。マリーン様は魔術を何のために使うのかを教えて下さった方なんですよ」


「へえー!魔術をなんの為に使うか、かあ。考えたこともないや」


でもね。とスラ子は笑った。


「コバヤシの手伝いが出来たらいいなって思うの。その為に今勉強してる」


「理由を聞いてもいいでしょうか?」


優しくしてくれたからと、彼女は言った。


かつて郊外の森で出会い初めて優しく手を差し伸べられたのだと。


スラ子の事情は少しはエリスも知っている。


だけど彼女は魔物だ。人殺しなんて言われてる冒険者が果たして見ず知らずの魔物に優しくするだろうか。


「そうですか・・・。それは良いことですね」


(彼には酷いことを思っていたかもしれませんね)


そろそろ話していると時間が来てしまう。生徒を指導する立場の人間が遅れるのはまずい。


「そろそろ教室にいきましょう」


「今日もよろしくね!先生!」


二人は教室にむけて急ぐのだった。






















「ふーん・・・今度の獲物は彼にしようかな」


夕暮れ時の校舎。獲物を求めてその女は目的地があるわけでもなくうろついていた。


不思議な魔力を・・・色香を纏う女だった。


「名前は・・・誰だっけ?」


そいつは優秀な魔術師ってわけでもないし血統がすぐれてるってわけでもない。


でも、


「どんな魔剣かは分からないけど契約してるみたいだし」


魔剣と契約できる人間なんて、そうはいない。


美味しいかは微妙だけど珍味としてはいいのかも・・・♪


ブロンドの髪の女はニヤリと笑うと夕闇に霧散した。

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