第2話出会い
俺は現実・・・以前の世界が嫌いだった。誰も理解してくれず、ただ生き続けた。死ぬこともできない臆病者だ。きっと誰もが俺をなんのとりえもない人間だとおもっていただろう。
アスペルガー、adhd。すこし現実世界で生きるにはハンデが大きすぎた。人間関係に打ちのめされ、心が死んでいた。
「あなたは現実が嫌ですか?」
夢をみた。白い光に満ちている。まるで神に話しかけられているかのような感覚だ。
「もちろん嫌だよ。死にたいくらいだよ」
本音だった。生きるのは辛い。無力で何もできない自分が嫌いだった。
「では叶えて上げましょう。後悔はしないでくださいね」
___意識が目覚める。ゆっくりと体を起こすと、神殿・・・のような場所にいる。
パルテノン神殿。そういうイメージだ。
「ようこそ。異世界へ」
床には魔法陣が描かれ俺はその中心にいた。ペンタグラム・・・俺でもそのくらいは知ってる。
「これは現実か!?」
「現実ですよ。あなたは魔術に興味がありましたね?」
驚くほど美人だ。長い髪に金の装飾のついた下着のような服を着ている。
豊穣の神イシュタル。彼女はそう名乗る。
ここは魔術を学ぶには丁度いい世界だと女神は言う。
「では、よろしくお願いしますね。コバヤシ君」
いろいろな魔術を女神から学んではいたがてんでダメだった。
何とか属性付加と武器召喚の魔術が使えたくらいだ。大半の異世界者はそれなりには才能があるらしいが俺はおちこぼれだったらしい。そんな俺だったが、1つだけ他と違うところがあった。それは言葉で干渉する魔術、言霊の魔術だ。
言葉には元々少なからず力がある。嫌な気持ちにしたり、幸せな気持ちになったり。
それ以外にも少なからず、運命にも言葉は作用する。
「その言葉で対象に作用する。という魔術は面白いですね。呪文詠唱とは違う、あらたなジャンルです」
ただしとても弱い、とも言われた。
「例えば魔力を込めて対象に死ね。といいます。そうすると即死するでしょうか」
「それは・・・ないかもしれない。死にたいという気持ちが普通より強くなるとか死ぬのは怖いとか思わせる程度かな」
例えば刃物を見せながら、死ね。と脅せば怯える。
それを利用し魔力を込めて発音すると・・・弱い相手なら恐怖で動けなくなるだろう。
「それ以外にも魔力を込めて転べ。といった場合どうなりますか」
「うーん・・・足元に転ぶ要因があれば確実に転ぶと思う。石があるとかバナナがあるとか・・・」
転ぶ、という無意識に向けられた意識が作用し、転ぶということだ。転ぶかも、とつい意識してしまうのだ。理解が難しい。
「まあそれは実戦で自分で確かめてみてください。こんなものを魔術と呼ぶか、と言われればすこし違うのかもしれませんが・・・」
そして半年間、神の神殿で修行しここに至るのである。
「ししょー!山賊じゃなくてもっとすごいやつ倒したりしないの?」
「無理だろ・・・そろそろししょーっていうのやめてくれないか」
このスライムの少女にあったのはつい最近だ。
最近気づいたのだが、意外とこの言葉を応用した魔術・・・言霊の魔術は格下には有効で様々な使い方ができた。不思議な力を感じた彼女が弟子入りしてきたのだ。
生き残った山賊をギルドに引き渡すとカネを受け取る。とりあえず数日は行けそうだ。
「おー召喚者君だ!」
ギルドカウンターの前で厄介な奴にあってしまった。名前はアリス、ボーイッシュな感じな女の子だ。俺がここに初めて登録した時から声をかけてきた冒険者である。
「あ、ああ・・・元気そうだな」
なぜ苦手なのかというと・・・上級クラスの人間だからだ。年は10代から20代くらいだ。俺が20代なのを考えるとかなりの冒険者だ。
「よかったら私のパーティに入らない?スライムちゃんも歓迎するよ」
「どう考えてもむりだろう。まわりは納得しないぞ。そもそも俺は下級で問題ない。弱いからな」
事実だ。なぜ俺を誘うのか、正直理由がわからない。・・・それに、
「ししょーはむりだよ。なんかこだわってるんだよね。」
「アリス、お前は気にしてないかもしれないが俺は殺すことにためらいがない。どう周りから思われてるかわかるだろう?」
彼女はムッとして言った。
「そんなこというやつは私が許さないよ。私だって人を殺すことくらいあるかもしれないし、そんなこと生き延びるためならしかたないじゃん」
しかたない。言葉に魔力を通す。
「ごめん。もうしわけないから(いま)は(決められないんだ)」
特殊な魔力の使い方だ。言霊の応用、言葉が感情に与える影響を大きくするのだ。もうしわけない。という気持ちを増幅させ伝える。
「わかった・・・いつもごめんね」
今回もうまく捌けたか。
見たところ悪意はないのはわかる。でも・・・だからこそ迷惑はかけたくない。
「ふむふむ・・・君が噂の召喚者だね。噂通り変な冒険者だ。」
「変人なのは自覚している」
見た感じ身なりがいい。魔術師の上流の人間みたいな感じがする男だった。急に話しかけてきて、何の用だろうか。
「なんで彼女の誘いを断ったんだい?昇級のチャンスもありそうなのに」
「俺はああいう人間に嫉妬してるんだよ。何もかも持っていて成績も優秀でうらやましいんだ」
「ふうん・・・そうは見えなかったけど。まあいっか!実は君に依頼があるんだけどいいかな?」
カネはある。といった。嫌な予感はするが、報酬は良さそうだ。
これからなにかがおこるような・・・そんな気がした。
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