第3話魔術戦
「さあさあこちらへ」
素直についてくるべきではなかったかもしれないがカネになりそうな話なのでついていくことにした。
身なりはよかったし多分大丈夫だろう。2人と1匹が富裕層エリア・・・アキスリング地区を歩く。
富裕層のエリアだけあり立派な建物ばかりだ。
「わわわ・・・こんなとこ私が来てもいいの・・?」
「一応マントで隠しておくんだ。気をつけろ」
ここら辺は治安もいいが魔物は目立つ。
「浮きまくりだね!君たちは!」
自分で声をかけておいてそのセリフか。
「僕はマリーン・マイルスっていうんだ。君と同じ魔術師だよ」
「名前を言うのか・・・?不用心な魔術師だな」
魔術において名前は最も重要だ。いきなり魔術師に名前を明かすのはかなり危険だ。
勝手に悪魔の契約に名前を使われたり、呪いをかけられたり・・・とにかくロクなことにならない。
「君は・・・コバヤシ君だよね?」
なっ・・・。驚いた。ギルドにも正確な名前は教えていないはずでは・・・。
「僕はなんでもわかるからね!天才なのさ」
そろそろ歩き始めて30分ほどになる。さすがに疲れてきた。
「まだ歩くのか?」
「ご到着だよ!どうぞはいりたまえ」
かなり大きな建物だ。白で統一された芸術的な作り、カサロマとかいう典型的な城のイメージだ。バカでかい門があり兵士や門番はいないようだ。特殊な鉱物や宝石でつくられているようで、外から魔術的な干渉が起きないようになってはいる。さすがは金持ちだ。正直俺のボキャブラリーでは言葉にできない。
「わーーー!すっごい!」
俺もこんな感想でいい気がするな。
「マイルスだ!開けてくれたまえ」
「まさかいまのが合言葉なのか・・・?」
「そうだよ?僕のこの名前を言わないとぜったい門は開かない。名前なんて僕は隠す必要がないからね」
二人と1匹は門をくぐるのだった。
「紅茶をどうぞ」
メイドが音をたてないよう器用に人数分の紅茶を並べていく。良いにおいがした。
そういえばスライムって紅茶飲むのか・・・?
「さて、僕はマリーン・マイルス。この辺りではある程度名前が通った魔術師だよ」
魔術師・・・というより賢者をイメージさせられた。最初は気づかなかったが着ている服は魔術礼装だし杖なしで魔術を使っているところを見ると魔術のレベルもそれなりだ。
俺も杖はいらないがそれは杖を使った魔術はてんでダメだからという理由で、大半の魔術師は杖を持ち歩いている。
「マリーン、あなたは協会から任命された賢者じゃないのか?」
魔術協会、と言われているものがある。そこで任命されると賢者と名乗れるようになり特別な礼装が与えられる。いわゆるエリートだ。
「その通り!なんだけど僕は無理やり任命されてね。マリーン家は代々賢者になっているんだよ。ただ僕はそれがあまり好きじゃなくてね」
「そうか。ところでその賢者サマが何の用なんだ?」
「じつはいま僕は命を狙われていてね。守ってほしいんだ。そういう依頼だよ」
「誰から狙われているんだ?同業者か?」
魔術師どうしで殺し合いは思ったより多い。依頼を独占したり自分の地位を上げるためだ。
「そうだよ!僕は有名人だからね!」
まったく謙遜しないのが逆にすがすがしいな。マリーンは続ける。
「あとはアレだね。君は人間相手だと負け知らずじゃないか。きちんと調べはついているよ。」
人間相手、ならたしかに俺は得意だ。俺は何人か依頼で魔術師を暗殺している。
「お金いっぱいもらえそうだね!」
「たしかにそうだな・・・。たまには美味しいものも食べたいしな」
「では依頼は受けてくれるということでいいのかな?」
カネがもらえるなら問題ない。マリーンの依頼をこうしてあっさり受けたのだった。
とりあえず拠点にしている宿に帰る。すこしボロいが値段も安く済むし宿の主人も良い性格をしているので気に入っている。
「うーん・・・どうするか」
どうやら今回の依頼、何度か断られているらしいんだが理由がわかった。
ーかなり厄介だ。
ラートルフ家という名門の魔術の家系だ。そこもかなりの名門でマリーン家ほどではないが歴史も古くほとんど名前を聞くだけで依頼も断られるらしい。
「一応一通りの魔術は学んだつもりだがこれは・・・見たこともない魔術もあるな。まいった」
資料を見通してはいるが正直、骨が折れそうな依頼だった。
「ししょーは人間に対してはつよい。って言ってたけど・・・どういうこと?」
「手段を問わないからだよ。あとは俺の得意な魔術と相性がいいからだ。」
「あのよくわからない魔術かな・・・言霊の魔術ってやつ!」
ただ・・・。
「今回は直接戦うって状況がつくれないからすこし骨が折れそうだ。」
上流階級の大概の魔術戦は呪術の掛け合いだ。なにより直接魔法を打ち合うよりはるかに安全だし簡単だ。しかしこんな呪術戦はめったにない。大体は戦いになる前にお互い譲歩してそうならないようにするんだが・・・。
賢者に任命されたからだろう。冒険者にも階級があるように魔術師にも階級がある。
「守ってほしい。ということは直接刺客を放たれてるのだろう。」
一応電話のような術式がある。マリーンに直接話をしておくか。
渡された羊皮紙に書かれた魔法陣に魔力を循環させる。
・・・円環せよ。
「マリーンいるか?」
「やあ。コバヤシ君、準備はできたかい?」
脳内に直接に響くような声、どれほど距離を置いてもこの呪術を使えば会話をする事ができる。日常的に浸透している魔術だ。
「ところで、なんで俺なんだ?他にも魔術師で冒険者なんていると思うんだが。」
「面白そうな噂を聞いたからだよ。新米なのに傷1つ追わずにいままですべての依頼をこなしてるらしいじゃないか。しかも魔物討伐の依頼はほとんど受けず対人間のものばかり・・・。」
「楽だからだよ。正直他の冒険者みたいに強力な魔物を倒すなんてできないんだ。弱くてね」
「謙遜だよ。コバヤシ君、人間のほうが魔物より強いのさ。君は十分だよ」
「ししょーはつよいよ!私にも勝ったし!スライムは弱いから比べるのはむりだけど!」
「ありがとう」
「術式展開」
魔術師は1人。足元に魔法陣が展開され詠唱が行われる。
魔術は人間が本来行えない奇跡を起こすための術式だ。
魔力をコントロールし、詠唱で自身の魔力を具現化して媒体の杖を通して放つ。
「燃えよ。放て、ファイヤボール!」
俺はこの火球を放つ、または相殺する技術はない。
「ふっ!」
足の筋力を魔力で強化し瞬発力で避ける。もちろん火球は遅くはない、弾丸よりは遅いが。
ボシュウウウウ・・・熱で地形が変わる。ただのファイヤボールの威力ではない。
そのまま手ごろな獲物・・・ショートソード。というべきか、を召喚しつつ駆ける。
「なっ・・!?お前魔術師なのか・・!?」
筋力を魔力で強化している。距離はまだ数メートルあるが問題ない。
「(死ね)」
死ねという言葉を言い放ちながら魔力を込める。。
「ひっ・・・!?」
殺される。その言葉で感情が増幅され、魔術師は恐怖した。体が震え恐怖で思考が停止する。
迫る剣から目が離せない。潜在心理に直接恐怖を教え込まれているような・・・。
気づくと男は目の前だ。剣が体を貫く感覚。痛みのあまり意識を放棄した。
「見事!すごいね!これが君の魔術か・・・!」
「どうも」
マリーンは褒めてくれたが褒められる技術じゃない。
「ししょー魔術つかったよね?多分・・・!」
「そうだ。(死ね)という単語に魔力を込め発音した」
俺のそれは魔術戦とは程遠いやり方だ。プライドのある魔術師ならしっかり杖を持ち魔術で迎え撃つだろう。俺にはその魔術の才能がない。
「言霊の魔術か・・・不思議だけど実際にみるとわかってくる。正直、その魔術自体は強いわけではないけど素晴らしい技術だとおもうよ」
いまは護衛依頼の最中だ。いまの魔術師はおそらくラートルフ家の差し金だろう。
「めんどくさいな。いったい何人殺せばいいのやら」
しかし・・・どこか新たな敵に期待しているのも否定できなかった。
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