第1話始まり

言葉には力がある。人間は当たり前につかっているが誰も特別な力だとはおもっていない。言霊を応用した魔術・・・呪文ではなく、魔力を込めることで言葉自体の意味合いを強めて作用させるのだ。人は魔力がなくともすこしずつだが言葉で影響を与えている。


「例えば隣人に感謝の言葉を告げれば感謝の言葉が返ってくるように」


「死ね。と悪意を込めていえば、それは相手に不快な感情を与える。これが言葉の力の作用といえるだろう」


「呪文とはちがうのかな?まだ私にはわかんないや」

     

そろそろ街に着きそうだ。彼女は魔物・・・スライムだ。

このままではどう考えても目立つ。


「そろそろ街だぞ。隠せ」


「うん。わかった」


二人は慣れた様子で仕事の斡旋所・・・ギルドの扉をあける。


「召喚者さん。ギルドへようこそ!」                                                                 この世界は割と異世界の人間が紛れ込むことが多い。俺もその一人だった。本名はコバヤシという。どうやらこの世界は世界樹の数多の世界、その中の1つらしく神の干渉があって俺もこちらに召喚された。


「下級クラスの依頼はこちらです」


「まだ下級か」


下級・・・いわゆる底辺だ。簡単な依頼しかこなしていなかったのもあるのかもしれないがこちらの世界に来てから半年とちょっと、まだ昇級の話などはきていない。


「これがいいんじゃない?山賊だって!」


「あなたのパーティにも、可能な依頼でしょう」


魔物退治は俺たちだけでは難しすぎる。この依頼で良いだろう。


「とりあえずこれくらいなら二人でもなんとかなるか」


















相手は山賊だ。もう3件ほど殺しと強奪をやらかしているらしい。


微かな音も聞き逃さないよう魔力を使い聴力を強化する。一応手軽なダガーを召喚しておく。


武器召喚・・・ウェポンサモナー。魔力を具現化しイメージ通りの武器を召喚する魔術だ。こちらに来て初めに習得出来た魔術。

「この道は絶対に奴らが張ってるはずだ」


「準備はオッケーだよ。でもわたしなんかよりししょーのほうがよっぽどつよいのになんでこんなに警戒するの?」


「弱いからだよ。人間は」


致命傷を食らえば死ぬ。どんな武具を持ち最強の魔力、才能があるとしても死ぬ。


馬がふいに足を止める。騒がしいところをみると読みは当たったか。


2人か・・・。


「フォローはたのんだ。」


「金目のモノをだせ。殺しはしない」


「お、お助けを・・・」


もう一人が荷台の後ろを確認する。荷台に隠れ後ろを覗こうとする愚かな山賊にダガーを見舞う。確実に致命傷になる動脈とのどを切り裂くと声を出す間もなく絶命する。血はきらいだがしかたない。正面の山賊はどうだろうか。


「おっけーだよ」


粘着性のある体の一部を絡ませて手と足を拘束する。スライムの体だから出来ることだ。


「なんだお前。魔物なんか連れて!はなせ!」


「お前は運がいいな。相方は首をやられてバッサリだ。おかげで血まみれだよ」


カネの為ならどんな依頼もこなしてきた。この世界に来てから初めて生き物を・・・人間も殺してきた。冒険者は依頼であれば人を殺しても罪には問われない。

武器を持った相手を殺さずに勝つにはどうすればいいのだろうか。俺はギルド内でも逆に有名人だった。


___人殺し。

元々心が死んでいた俺は必要であれば殺す。という状況を受け入れてきた。

でもいままで俺がいた現実世界よりこの世界はまだマシだ。だって魔術を極め、いままで妄想としか思えなかった事を出来るのだから。


「ありがとうございます。冒険者様・・・」


怯えている。当然だろう。人を殺したのだ。


「俺は皆が言うように残酷な人間なんだろうか」


そう思った。


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