第7話一斉討伐
魔術戦の敗北。当然だ。
あまりにも格上すぎた。数分も持たなかった。
「いやー!まさか負けるとはね。最後の一撃、アレが決まれば勝ちだったけど」
決闘で敗北したのにも関わらずなぜか全然心配していない。まるで他人事だ。
「いや・・・それどころではないんじゃないか?」
「ああ!それか!何も心配いらないよ。ホラ」
「なっ!?不当な決闘だと?なにを・・・」
「あなたは彼に魔術で魔力提供をしていましたね。マリーン様が教えてくれるまで気づきませんでした」
それは明確な不正行為だった。ルール上決してそのような行為は許されない。
「召喚者様の勝ちということになります。不正は不正ですから。」
ラートルフ家の功績を加味してペナルティは食らわなかったものの、これは信用を失うに値する出来事として扱われた。
そしてマリーン家へのあらゆる魔術的接触を禁止する為、魔術協会から誓約書にサインを求められる。誓約書とは調停につかわれる重要書類でこれを破ると爵位をはく奪される。
「くそ!なぜこんな調停誓約をしなければいけないんだ!」
一番ショックを受けているのは決闘した・・・彼だろう。そんなことがあるわけない。という顔をしている。かける言葉も見つからなかった。
「お父様・・・仕方ありません。受け入れましょういままでの行為を不問にしていただけるだけマシなんですから・・・」
こちらに向いて丁寧にお辞儀をすると静かにその場を立ち去る。
思ったより律儀な魔術師だったな。もっと傲慢なやつかとおもったが・・・。
「これで依頼も解決。よかったよかった」
「ぢぢょー・・・」
スラ子がガン泣きしていた。
直撃した割には大してダメージもなかったのでほんとに殺すつもりはなかったのかもしれない。
だから大丈夫だ。と伝えてもしばらくは心配したままだった。
「負けた・・・。」
悔しい・・・不正で勝ちはしたがかなり悔しかった。
これでも何人かの魔術師と戦って勝ってきた。自信があったのだ。
決闘。という特殊な条件と場所だったとはいえ負けてしまったのだ。
なにより、
「具現化の先の段階にいけていない。学ぶ必要があるのかもしれない」
魔術を展開し詠唱して火球やいかずちを発射するには高度なイメージ力が必要だ。エンチャントは付与するだけで、発射する必要がない。具現化したエネルギー発射する為には次の段階になる必要があるのだ。
「やあやあ。コバヤシ君元気そうだね」
「ししょー起きてる!もう体は大丈夫?」
ああ。そういえば。
「依頼はおわったんだったな。カネももらったからもうマリーンに用はないぞ」
「つめたい!それは冷たくないかい!?」
相変わらず大げさにするな。
「もう関わるのも御免だ。魔術師同士の抗争なんて二度と依頼は受けない」
「もうすぐここも出ていくらしいね」
傷をいやすためやむなく教会でベットを借りてはや4日。ここは冒険者の診療所のようなものでけが人がよく運び込まれてくる。
あまりにも退屈すぎて治り次第すぐ出ていく予定だった。
「お前もうすぐ退院か、うらやましいかぎりだぜ」
隣の冒険者・・・2日前くらいに運ばれてきた冒険者だ。
「なにがだ?」
「聞いてないのか。どうやらギルドで結構な額の依頼があるらしいぜ。しかも人数を結構あつめてるらしい」
魔物の一斉討伐・・・という話らしい。
最近は魔物の活動が活発でこのままだと物の流通にも影響がでる。街道に魔物が現れると大変だ。
そこで周辺の魔物の巣を潰すらしい。人数を集めるのはそのためだろう。
「うーん・・・よし。行くぞスラ子」
スラ子の強さがどのくらいなのかもみてみたい。ずっと訓練していたしな。
「僕はいかないよ!荒事は苦手でね」
「マリーンは誘うつもりはない。安心しろ」
隣の冒険者が続けて話す。
「もしあんたが行くならアリス、という冒険者を探しておいてほしい」
「・・・ん?」
「今回潰す巣に別の依頼で言ってるはずだ。しばらく見ていなくて心配なんだ。今回の一斉討伐もそのパーティが報告してからの依頼だ」
アリスだけをみていない、とのことらしい。
「わかった」
・・・何もなければいいが。その冒険者は心配そうにしていた。
「ふっ!・・・はあっ!」
時間は早朝。日が昇り始めたひんやりした時間だ。この時間は一番集中できる。
宿屋のつかわれていない道具小屋でいつもの日課の素振りだ。剣に体を馴染ませるために毎日やっている。
そして身体強化のトレーニング、具現化の訓練。
「トロルとか・・言ってたな」
なんとなしに独り言をつぶやく。心配してないといえば嘘になる。
アリスは一般的な女性戦士といったところだ。男の俺より力もあるし彼女はレイピア、小剣、ダガー、弓など様々な武器を扱える。
スキルはマルチウェポンマスタリー。2種類以上の武器を扱える特殊なスキルだ。
他にも多少魔力もあるので魔法武具も扱える。パーティのメンバーはしらないが、おそらく実力者パーティのはずだ。
「そろそろギルドいこ!はやくカウンターいかないと枠が埋まっちゃうよ!」
「ああ。おはよう」
そろそろギルドも受付時間か。スラ子にマントに被せる。じつはこのマントは特別性だ。服みたいになっていて伸縮自在な彼女がそこにうまく入り込む。
「厚ぼったい!違う方法で隠せればいいのに」
魔物を連れ歩く冒険者はかなり少ない。例外的に・・・飛竜種なら移動用に使う者はいる。
俺は高所恐怖症なのでむりだが。
ギルドの看板が見えてきた。さすがにこの時間は人も閑散としている。
ガチャッ。ギルドのドアをあけると、
「アリスがいないんだよ!おい!いますぐパーティ編成をさせてくれ!」
なんだが騒がしい。
「あ!召喚者様、どうぞ」
「お前・・・コバヤシだろ。何しに来た」
「依頼を受けに来たんだよ!まだだれも来てないよね!」
「魔物の巣の一斉討伐の依頼だ。・・・お前は急に誰なんだ」
やたらにガタイがいい男だ。背は176センチくらいで見るからに・・・近接職だ。
武器はもっていない。腹の当たりに包帯を巻いている。
「あなたはケガ人です。とても行かせられません。無理をしても彼女は助けにいけませんよ?」
ああ・・。そういうことか。
名前を知られているところをみるとアリスのパーティか。
受付嬢はこちらに向くと、
「かしこまりました。あなたには階級的にまだ危険な依頼ですが大丈夫ですか?」
「いまはとにかく数が欲しいんだろう?支援活動でもなんでもやるさ。カネがもらえるならな」
「はい。そういったパーティも募集しているので大丈夫です」
「・・・おい!」
先ほどのアリスのパーティメンバーらしき冒険者が睨んできた。
「お前が来ても役に立たない。帰れ」
「支援活動くらいはできるさ。それにこいつもいる」
「えっ・・・!?」
エヘヘヘ。思わず笑ってしまう。こんなこと言われるの初めて!
スラ子はおもわず心が躍った。
「お前なんか認めない。精々死なないことだな!」
ひとしきり言い放った後ドカドカと立ち去る。
心配なんだろう。気持ちはわかる。
・・・アリス。無事でいるといいが。
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