35話襲撃

その日もいつも通りだった。


門でいつ来るかわからない敵に備え、兵は見張りをする。


「眠いな・・・」


「ああ・・・平和過ぎて本当に見張りなんて必要になのかと思ってしまうな」


あくびが止まらない。こんなところを隊長に見られたら叱られるだろう。


「そういえば知ってるか?今度遠方から勇者様が来るらしいぞ」


「そりゃあすごいな。聖剣を持つ選ばれた人間か」


聖剣、カリュバーン。


神代の時代から代々勇者に受け継がれし聖剣。


そんな会話をしてる最中、ふと何かに気づき声をあげた。


「おい・・・なんか、見えないか?」


双眼鏡で遠くを覗き見る。


・・・そこには、街に迫る無数の魔物の姿があった。
















_____ソレは魔物の群れを引き連れて、街を目指していた。目的は一つ。「・・・殺戮せよ」


ソレは騎士を思わせる佇まいだった。その手には2メートル程の武骨な槍を持ち、上級の魔獣に馬のように跨っていた。


「なんだあれは・・・!」


「魔物の群れ・・・!?なんで急にこの街に・・・!?」


羽虫がなにやら騒いでいる。急いで数を集めようと、煩わしく叫んでいる。


「人間も、ヤワになったものだ」


城壁から放たれる矢、それは騎士の体に当たるが、その程度では前進は止まらない。


放たれる矢を無視し、魔獣に指示を出す。


「・・・行け」


先行した魔獣はすでに獲物を見定め、門に集まってきた獲物に食らいつき血しぶきを上げる。


魔物は魔獣だけではなく、シャイターン様からトロルも数匹頂いている。あらかじめ用意した転移魔術で騎士は周りに魔物を配置させた。


あっという間に惨状は広がり、羽虫が血をまき散らしながら倒れていく。


「はやく現れねば食らいつくしてしまうぞ」


騎士が待つは魔剣ヘブンズギルの所持者。


騎士は不敵に笑っていた。
















「なんか外が騒がしくないか?」


「そうだね。ちょっとみてこようか」


マリーンと話を終えベッドで休んでいるとドタドタと教会に兵士が駆け込んでくる。


「魔物の群れがこの街を襲っている!決して外に出ないように!」


「なっ・・・・!」


コバヤシはベッドから立ち上がる。十分に休めたので、動くのに支障はない。


「君はけが人だろう!ここにじっとしているんだ!」


「けがはないし、俺は冒険者だ、問題ない。それより、街に侵入されたのか?」


「ああ。そうだ!魔獣の何匹かはもう街に入ってきてしまった」


突然の魔物の襲撃、目的はまさか・・・。


「俺も手伝おう」


「彼は有能な冒険者でね。僕が保証しよう」


「マリーンは此処に隠れていてくれ」


「ああ、そうさせてもらうよ。幸い今日は位が高い冒険者も多いし僕の出番はなさそうだ」


スラ子は一足先に外に出ていたな。コバヤシは教会の扉を開け、外に飛び出した。


















「対象を貫け!アクア・ランス!」


街中を疾走する魔獣。


これほどまでの魔物の襲来はこの街は経験したことはない。


人が賑わう通りもいまは魔獣が闊歩し、逃げ遅れた人がこうして襲われている。


スラ子は震える親子を狙う魔獣を貫き、殺していく。


「早く逃げて!ギルドに行けば匿ってくれるから!」


「ありがとう!お姉ちゃん!」


「ありがとうございます!冒険者様・・・!」


いまこの街の兵士達と、冒険者が協力して魔獣に対処している。


「コバヤシ、大丈夫かな・・・」


コバヤシはまだ起きたばっかりだし、多分本調子じゃない・・・だけどこの状況でじっとしてるわけはないと思う。


それと、いま街の入口・・・門はどうなっているんだろう。


こんなに侵入してるなら大変なことになってるはず。


スラ子は門を目指しながら、逃げ遅れた人を探す。


「もしもっと強い魔物が侵入してきたら、大変なことになるよね・・・私でどうにか出来るか分からないけど、行かなきゃ!」


幸い市民の大半は保護されているようだった。急いでかつては市場だった戦場を通っていく。


「はあ・・・!はあっ・・・!」


「グルルル・・・!」


あれは・・・冒険者だ。4匹ほどの魔獣の群れに追いかけられている。


「いま助けるから!」


「わたしにまかせな!」


後ろからの突然の乱入。戦斧を持った体格の良い女性冒険者が見かけ以上の勢いで走る。


見ただけでわかる。この人、強い。


あっという間に私を追い越し逃げている冒険者に近づくと、首根っこを掴み私の方に放り投げた。


魔獣が女性冒険者に飛び掛かる。


「ハハッ、生きがいいねえ!」


飛び掛かる猛獣を斧を振り下ろすことで豪快に叩き切る。


迫る二匹目は横なぎに斧を振ることで吹き飛ばした。


「グウウウ・・・!」


残る二匹は本能的な恐怖を覚え一目散に逃げていく。


「臆病者は隠れてな!」


「すまない・・・俺のパーティが全滅してしまって・・・助かった」


放り投げられた冒険者はお礼を言いながらギルドに向かっていった。


「よかった!強いねお姉さん!」


「お姉さん!?・・・まったく調子が狂うねえ。わたしはアイザだ」


「アイザさん、わたしはスラ子。よろしくね」


「あの魔獣の母体を倒したって子かい?思ったよりかわいらしい娘だ。・・・おっとこんな悠長にしてる暇はなかったね」


「もし門を目指してるなら気を付けな。兵士長が襲撃者の本元と戦ってるが、どうもそいつが不気味だ」


「ありがとう!でも行かなきゃ」


アイザにお礼を言うとスラ子は門へと向かった。

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