36話不敵な来訪者

街を守る門、その障壁はもう度重なる攻撃により意味をなしていない。


敵は転移魔術により魔物を召喚している。


民を守る兵士たちは限界を迎えていた。


「引くな!我々が引けば民の命が失われる!」


「ハッ・・・・!」


衝突する巨大な槍(エモノ)とミスリルの長剣。兵士長、ハモンドは兵士を鼓舞しながら敵の本元と打ち合っていた。


「うおおおお!」


繰り出される槍をラウンドシールドで受け流す。先ほどから何度か剣で相手の体に致命傷を与えているはずなのだがその男は表情も変えず次を繰り出してくる。


まるで不死身だ。ただ傷を負わせるだけでは効果はない。


元から魔力を断たねば、すぐに修正(なおって)しまう。


ハモンドは巨大な凶器が体を貫こうと放たれるたび、かろうじてそれを避ける。こちらは一度でも当たればタダではすまない。


さすがは、兵士長だけあり戦いなれているが圧倒的に不利だった。


「人間にしては素晴らしい。しかし、果たして何合(なんごう)持つ・・・?」


先ほどから剣から生じる違和感、いかにミスリル製といえど、限界に近づいた剣は。


「・・・まずい!」


槍の一撃で砕け散る。


続いて繰り出される一撃で彼は吹き飛んだ。


重力を無視して吹き飛ぶと、城壁にたたきつけられる。


「ぐっ・・・!皆、すまない・・・」


魔獣が迫る。肉を食いちぎろうと迫ってくる。


「やああっ!」


間一髪だった。アリスの一撃で迫る魔獣を貫く。


「大丈夫ですか!?助けに来ました!」


「ここからは俺たちがやる。任せろ」


「ハッ・・・上質な獲物だ。餌にするならば、最適だ」


本当に愉快そうに槍を持った男は笑っていた。
















「術式展開!爛れおちよ・・・!ディザーゥヴ!」


発射された強酸性の塊が数匹の魔獣コアトルをまとめて溶かしつくす。


「これは・・・!?」


魔剣を通して放たれた魔術は自分で発生させられる威力のモノではなかった。


「我は魔剣、ヘブンズギル。そこらの剣と一緒にされては困る」


コバヤシは門を目指して魔物を仕留めながら走っていた。


街中の惨状は冒険者と兵士のおかげで大分落ち着いてきた。


ほとんどの生き残った市民は保護されているはずだ。


無人の市場を抜けるとこの街を守っているはずの門にたどり着く。


そこは数匹コアトルがいただけで予想したよりも静かなものだった。


「対象を貫け!アクア・ランス!」


「ギャウ!」


水の槍が魔獣を貫く。兵士の死体を喰らっていた群れは一気に全滅する。


「コバヤシ!動けるの!?」


「ああ。大丈夫だ」


スラ子と無事に合流出来てコバヤシは安心していた。


「そっちは大丈夫だったか?」


「うん!私だって強くなったんだから!」


防衛機能を失った、形だけの門を抜けるとそこには凄惨な光景が広がっていた。


兵士の大半は死傷し、もはや街が落とされるのも時間の問題だ。


「そこっ!」


「食らえ化け物が!」


アリスとカインが不気味な雰囲気を漂わせる男と戦っていた。


アリスが背後を取り、カインが正面で槍の一撃を捌く。


「何度も倒せているはずなのに、なぜ倒れないの・・・!?」


「・・・羽虫が。その程度では傷すらつけられぬ」


男が攻撃を止めた。


カインの大剣を片手で受け止める。


「ぐおおおおお!」


まるで強力な万力で抑えられているかのようだった。ピクリとも動かない。


恐るべき怪力だった。


「邪魔だ」


大剣ごとカインを投げ飛ばす。


その男はこちらを見ると、


「ハッ・・・・!」


不気味に笑う。まるで獲物を見定めた子供のようだった。


「見つけたぞ、シャイターン様の敵。俺の獲物」


槍を持ち、コバヤシに向けて突進する。まるで戦車のごとき突撃。


・・・!


突撃の終わり際に槍(エモノ)を前方に繰り出す。


咄嗟にコバヤシは身をかがませる事で避ける。直撃したら死んでいただろう一撃。


ここにきて初めての明確な殺意で放たれた攻撃だった。


しかし、それは致命的な隙だ。


槍という武器は一度内側に入り込まれれば無力。


コバヤシは素早く敵の懐に入り込む。


「・・・!」


回避不能な状態で放たれた剣戟は、先ほどまで持っていなかった重厚な盾に防がれていた。


内側に入り込んでいたコバヤシを盾で弾き飛ばす。


騎士は重厚な大盾に2メートルもの大槍を装備している。見た目から重量を考えると人間が持てるものではない。


「俺の名はゼパル。存分に殺し合おうぞ、ヘブンズギルの所有者よ」


それはまるで決闘の前の名乗りのようだった。

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