37話不敵な来訪者2

「術式展開!束ねよ、水の刃。連なり、対象を貫く水の奔流」


コバヤシとゼパルと名乗る騎士は拮抗していた。魔剣はコバヤシの身体強化の魔術を上乗せしている。


魔力放出は今迄の比ではない。


響き渡る魔剣と魔槍の激突音。コバヤシは深追いせず、そして距離を置かれないように適切な間合いで剣を見舞った。


スラ子はこの隙を見逃さず魔力を編み込み、必殺の一撃を狙う。


「アクア・ランス!」


「・・・・!」


ゼパルは盾でその一撃を防ぎ切った。衝撃で後ろに後退する。


連なる水の刃は容赦なく続けてゼパルに解き放たれる。


「邪魔をするな・・・!我が槍フルンディング!その力を以て(もって)・・・貫き、破壊する!」


槍が怪しく光り、魔力の刃がスラ子に向けて放たれた。スラ子の放った水の刃がゼパルに直撃したがそれを無視し放った攻撃だった。


「スラ子!」


繰り出された強力な魔力の刃、貫く、という一点に特化した強烈な攻撃。間に合わない。あんなものに直撃したら間違いなく死ぬ。


「っ・・・!」


アリスが飛び出し、スラ子を突き飛ばす。勢いに任せて突き飛ばしたので二人とも倒れるように直撃を免れた。衝撃とともに、背後にあった城壁が半壊した。


「大丈夫?スラ子ちゃん」


「ありがとう!大丈夫!」


ゼパルは再びコバヤシと向かい合うと笑いながら槍を構える。愉快で仕方ない、という顔だ。


「さすがは魔剣ヘブンズギルだ。並みの武器では我が槍と打ち合うことなどできぬ」


スラ子の与えた傷はみるみる修正(なおって)いく。この性質、あの時遺跡で会った男と同じ・・・!

この魔剣なら傷をつけられるかもしれない。


しかし、距離を詰めようにもあの盾がこちらの攻撃を防ぐ。


スラ子の魔術でさえも破壊できなかった。


「コバヤシよ。汝はまだ我の性能を発揮しきれていない」


性能・・・?魔力を喰らう、というのが性能ではないのだろうか。


「行くぞ・・・!我が槍を受けるがいい!」


槍に魔力が込められる。来る、さっきの一撃が・・・!


「集中しろ。我に魂を接続させるのだ」


接続開始・・・!ヘブンズギル起動、出力上昇。


「・・・フルンディング!その力を以て、貫き、破壊する!」


「・・・・!」


放たれる刃。避けることのできない必殺の一撃。それをコバヤシは魔剣で受け止める。


「(ここで負ければ、皆虐殺される・・!負けるか!!!)」


言葉に魔力を乗せ、叫んだ。


この一撃を逸らすことができれば、攻撃を放った後の隙に魔剣を叩きこめる。


「うおおおおおお!」


「我が槍を耐えて見せよ!人間!」


いまだかつてないほど魔力が体を巡っていた。凄まじい一撃に受け止める魔剣を吹き飛ばしてしまいそうだ。


魔剣ヘブンズギル、出力最大。


「これで・・・!どうだ・・・!!」


逸らした。槍の一撃はコバヤシの心臓を捉えていたが、魔剣によって軌道が反れたのだ。


「・・・おお」


ゼパルは感謝した。これほどの戦いを出来たこと、かつてない歓喜を味わえたことを。


コバヤシは全速で駆ける。


無駄のない動きで槍を放った隙を、魔剣で貫く。


「これで終わりだ・・・!」


「ハッ・・・!」


最後にその男は笑ったのか。


言葉もなく倒れ、消滅していく。


「コバヤシ!」


アリスとカイン、そしてスラ子が駆け寄ってくる。


「あの化け物、死んだのか?」


カインは呟くように口を開く。


「ああ。あいつは死んだ」


「まったく、こんなに疲れる戦いは初めてだ。・・・コバヤシ、俺はお前に助けられた」


カインは珍しく、コバヤシを認めた。


アリスは笑いながらそれを見る。


「珍しいねカイン、あんなに嫌ってたのに」












_____どこからかマリーンはその戦いを見ていた。


「コバヤシ君に掛ける価値はありそうだね。過酷な運命だけれど。・・・イシュタル様、あの時の後悔を晴らせるのでしょうか」


マリーンは独り言を呟いた。

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