31話目覚め

「起きなさい。まだ死ぬには早いです」


「し・・ぬ・・・?」


「ええ。あなたは自分の魔力の範疇を大きく越える武器を手にしてしまった。そのせいで命の危機に達するほど消耗したのです」


ここはどこだろうか。かつてこの世界に来る前の景色に似ている。


真っ白な空間。


そこで女神・・・イシュタルと話しているようだった。


「その魔剣はかつて、我々神が作った神造兵器でした。神の戦争が終わった後、理由は分かりませんが下界に落ち、人の手に渡ったのでしょう」


「これは使わないほうがいいのか・・?」


「いえ・・・」


申し訳なさそうに女神は続ける。


「その魔剣でないと、彼・・・魔王は倒せないのです。それどころか、魔王の血を濃く受け継いだ悪魔の子孫たち・・・彼らすらその魔剣でないと完全に消滅は出来ないでしょう」


手を出すように言われる。女神は白い塊をコバヤシに手渡した。


暖かい光だった。空っぽだった力が満たされるような感覚がした。


「本音を言えば、あなたはただの冒険者として自由に生きて欲しかった。しかし、もう運命からは逃れられない。その魔剣を手に入れてしまった時から」


「・・・もう魔力の問題は解決したはずです。ただし、使い過ぎないよう。・・・それでは起きなさい、彼らが待っていますから」


視界が光に包まれた。














「ん・・・」


瞼を開ける。暖かい。


どうやらベットに寝かされているようだった。


「コバヤシ!よかった・・・!」


手を握って喜ぶスラ子。ずっとこうしてたのか。


「まったく、君は良く倒れるねえ」


「起きて早々に嫌味か。まあそのほうがマリーンらしい」


「いやあ。褒められると照れるじゃないか」


そんなことより、と。急に真面目になりマリーンは言った。


もうスラ子から聞いていたのかいつになく真剣だ。


「確認したいんだけど魔王、と言ったんだね」


「ああ。今は魔王と呼ばれているが、かつては神だったと言っていた」


圧倒的に強く、底知れない。・・・まるで敵う気がしない存在だった。


あんなもの人間が勝てるのだろうか。


「かつてあった神々の戦争。太古の悪魔の生き残り、悪魔・・・シャイターン」


歴史には詳しくてね。とマリーンは笑う。


「魔王は戦争で力を失い、武器も奪われ、同胞も虐殺され地上に落とされた。きっとすべてを恨んでいるだろうね。そして・・・」


魔剣ヘブンズギル。


その魔剣はかつて落ちた天使を殺す為だけに作られたもの。


地上においても天使だった彼らはほぼ無敵。


それを完全に殺すことが出来るのは地上の武器ではヘブンズギルのみ。


「おそらく例のサキュバスを殺したおかげで、その魔剣に気づいたのかもしれないね。コバヤシ君、なぜサキュバスは肉体存在が曖昧だと思う?」


いつ知ったのか、学園の騒動はよほど有名だったらしい。


「・・・!そうか」

思い出した。イシュタルから聞いたことがある。

天使は聖素という特殊な魔力で体が構成されている、と。


「そう。彼らは魔王の数少ない同胞の生きのこり、堕落した天使なのさ」


「コバヤシ君、ヘブンギルを召喚してみてくれたまえ」


・・・検索開始。魔術構造、解明。


「契約に従い具現化せよ。ヘブンズギル」


魔力により、禍々しい刀身がカタチになっていく。


珍しく、魔剣が声をだした。


「ふん、珍しく我を召喚したと思ったら何の用だ。戦いという訳ではあるまい」


「ええっ!しゃべるの!?」


そりゃあ、驚くよな。


ヘブンズギルは気にせず話を続ける。


「我に聞きたいことがあるのだろう。話だけは聞いていたからな」


「魔王は君に気づいていたと思うかい?」


「・・・。そうだろうな。今回は見逃す、と言っていた」


もしかしたら、とコバヤシは思った。あの亡者たちは契約で死んだのではなく・・・。


魔王に殺されたのだろうか。


「コバヤシの思考はすぐに入ってくる。・・そうだ。魔王に殺され、魂を奪われた亡者。汝が見たのはそれだ」


「しかしそんなことは我にとってはどうでもいいことだ。いまはそれどころではない、いま我の依り代となっているのは・・・汝なのだ」


・・・?


どういうことだろうか。


魔術構造の記憶とともに、魔剣の意思が俺の中に入っているということだろうか。


「コバヤシ君が死ぬってことは・・・君も消滅するってことだね。そうか、あの魔剣は長い歴史・・・経年劣化でもう壊れる寸前だった。それでコバヤシ君に移動したわけだ」


「そうだ。だから死んでもらっては困る。知っている情報は話そう」














魔剣は、珍しく饒舌だった。

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