30話魔王

剣と剣がぶつかり衝撃音が響く。


動機も分からない、正体も分からない相手だがそんなことを考える余裕はない。


笑っている。


(正気じゃない)


相手の剣戟(けんげき)を受け止め、受け流し、相手の体にむけてこの魔剣を叩きつける。


それだけでこの戦いは終わるのだが、


「そんなものか!」


この男、膂力が尋常ではない。魔力による身体強化を剣を振るう手に9割、そして動体視力に1割。要するに、ほぼこちらは膂力を強化しているのだ。


にも関わらず。


ガギイイン!


うまく受け止めないと打ち負ける。強さが今まであった人間とは比較にならない。


魔剣でなければとっくに砕け散っているだろう衝撃をいなす。が、


「・・・!」


態勢が崩れる。致命的な一撃。


容赦なく振るわれる一撃に一瞬怯んだが、かろうじて受け止めることには成功した。しかし、こんな力とても押し返せる気がしない。


「どうした。もう終わりか、あっけない」


「くっ・・・!うおおお!」


「対象を貫け!アクア・ランス!」


「あまい」


その男は手を広げると詠唱もなしに障壁を展開する。


水の刃が受け止められ砕け散る。


「フン」


その隙になんとかコバヤシは距離を取ることに成功する。


「貴様が我が眷属を殺した魔剣使いか。合点がいった」


「あのサキュバスのことか・・・!」


(こいつは何者なんだ・・・!?)


手を抜いているのは明らかだった。本気になればこちらを一方的に殺すのは造作もない。といった感じがする。


カバンに手を突っ込む。効果はあるかわからないが、やるしかない。


「スラ子!最速で詠唱してくれ!当たりさえすればいい!」


「うん!だったら・・!」


アダマイト魔石を放り投げる。


「水よ、束ねよ。アクアランス!」


大量の水の刃が降りそそぐ。最速の詠唱だったが魔石に込められた魔力をカタチにするだけならそれだけで十分だった。


「解放(リブレーション)」


その隙に、赤い魔石に無理やりに押し込まれた魔力を解放する。


その男に魔石が触れた瞬間。


容赦なく、圧縮された熱量が炸裂した。


流動する土煙とともに、爆風で吹き飛ばされ壁にたたきつけられる。


(どこが・・・安全だよ。マリーンめ)


でも・・・この威力なら・・・!


「ほう・・・これは精霊の残滓、欠片のようなものか」


半身が吹き飛んだその男は薄笑いを浮かべたままだ。


本来なら即死してもおかしくない状態だ。


傷はまるで初めからなかったかのように魔力で編まれ、修正(なおって)いく。


「人間じゃない・・・!」


「ふん、なにしろ元が神と呼ばれたものだからな。魔王といまは呼ばれているが」


少しずつ、こちらに歩み寄ってくる。魔剣は、まだ具現化出来ている。


「ししょーに近づかないで!」


スラ子は魔力で水を限界まで編み込み。解き放つ。


「なかなかだが、あまい」


それはまるでミサイルのようだった。直撃すれば上級の魔獣すら仕留められるであろうそれを。


「プロテクション」


障壁でたやすく受け止め、破壊する。


「ククッ。そうだな、その女の頑張りを認め。いまは見逃してやろう」


圧倒的な優越感からか。あざ笑うかのように歩みを止めた。


「我が魔剣、ズルフィカール。その切れ味もしっかりと確かめることもできた。今日は気分もいい」


「目的はなんだ。こんな辺鄙な廃神殿、来る必要なんてないだろう」


「忘れ物だ。かつて神代の時代、愛用していた魔剣を回収する為だ。・・・さてお喋りは終わりにしよう」


その男は霧散し。まるで初めからいなかったように、消滅した。


これ以上は限界だったのか召喚された魔剣が魔力がなくなり、消滅する。


コバヤシは意識を失い、その場に倒れた。


















「ししょー!起きて!死なないで!」


____薄れゆく意識の中、スラ子の声が遠くに聞こえた。

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