29話嫌な予感
ザクザクと雪を踏みしめる音。辺り一面は真っ白でかろうじて道と判断できるところを歩いていた。
「あと少しで村だ。がんばろう」
「うん!」
この世界にきて初めての雪原。どこまでも広がる白銀の景色は、幻想的な雰囲気だった。
・・・幸いまだ魔物には出くわしてはいない。
歩き始めておよそ4時間くらい、村に急ぎたいところだが、この辺ですこし休憩すべきだろう。
「スラ子、少し休憩しよう」
「わかった。1つ試したいことがあるんだけどいい?」
「・・・?ああ」
荷物を下ろすとスラ子は術式を展開する。
「氷よカタチを成せ・・・!」
空から舞う雪がスラ子の魔力によりキラキラと瞬く。
瞬いた雪が氷となりドーム状に形を成していく。
魔術による具現化の応用だろう。
「すごいな。こんなことも出来るようになったのか」
スラ子が作ったかまくらの中で暖を取る準備をする。スラ子の食べるものを考えると・・・スープがいいか。「エンチャント、燃えよ」軽く詠唱すると炭に炎を灯す。
少しすると、コトコトとスープが煮立つ音。携帯型の小さな鍋からほのかに甘く、いい匂いがする。
「温かいね。それに良い匂い」
「ああ」
スープをコップに注ぎ、コバヤシは干し肉をかじる。
雪が降る雪原はとても静かだ。物音1つしない。
時間がゆっくりと流れ、しっかりと休むことが出来た。
_____そこは少し閉鎖的な雰囲気がする、コベットという小さな村だった。
この地方は本格的な冬になるとさらに雪が積もり、外界とはほぼ断絶状態になるらしい。
そんな村だからだろう、遠くからきた俺たち冒険者は物珍しそうな目で村人からは見られていた。
「こんな不便利な村に来てもらってありがとうございます。冒険者様」
意外にも出迎えてくれたのは若い女性だった。依頼を出したのは彼女だという。
「わたしは村長の娘です。この村の安全の為、依頼を出しました」
「ドラゴンの幼体だったな」
「ええ、そうです。幼体とはいえ大きさは3,4メートルほど、危険であることは変わりません」
コドラが住み着いているのは村から少し離れた古代の遺跡らしかった。
中にはコドラだけでなく他の魔物も住み着いているだろう。
「でも、お二人で大丈夫なのですか?あそこは他の魔物も住み着いているかもしれません」
「今回は二人でやらなければいけないが、問題ない。よほどの大物が出てこなければ」
ここに来るまでに消費した食料を補給したいというと、倉庫に案内され快く村の備蓄を分けてくれた。
地図を見せてもらったが遺跡までは距離的に半日、もしくは1日はかかるだろう。
「ではよろしくお願いします」
こちらに丁寧にあいさつすると、家に戻っていく。
「たった二人で大丈夫かねえ」
「しっ!声が大きいよ」
はあ、とため息をつく。
所詮俺たちはよそ者だ。まあ、こんなことも言われるだろう。
居心地が悪い。身支度を整えるとさっさと村をあとにし、遺跡に行くことにした。
「スラ子、一応アダマイト魔石はもってきたか?」
「うん!あんまり用意できなかったけどコバヤシの杖があるから大丈夫!」
_____その遺跡は神代のころ築かれた神の神殿であったらしい。いまはただ、神代の秩序を無くし魔物が往来するただの巣窟だ。
およそ1日かけてたどり着いたその廃神殿は獲物を待ち受ける口腔のように入口をぽっかりとあけていた。
「エンチャント、燃えよ」
獲物を召喚し、刃先に炎を灯らせる。
「・・・こわ」
「俺も怖いが、行くしかない」
朽ちた扉を押すと崩れ落ち、倒れる。幸い気づかれてはいないようだ。
慎重に奥に進む。予想していたような魔物の襲撃は全くなかった。
(拍子抜けだな)
ところどころ穴の開いた天井から光が差し込み、中も少しは照らされている。
壁には古代の文字が刻まれ、良くわからない絵も刻まれている。
神殿はそこまで広くはなかった。このまますぐに最深部にたどり着くだろう。
「グルルル・・・!」
不意に。
物陰から聞きなれた声がする。
「魔獣・・・!」
すこし様子が変だ。
既にその魔獣は傷だらけで死にかけている。
魔獣同士で殺し合いでもしたんだろうか。
こちらを視認すると、獣は疾走する。
「任せて!水よ束ねよ・・・アクア・ランス!」
鋭い水の刃が魔獣を仕留めると、勢いで死体が転がっていく。致命傷を受けたのだ、それは当然耐えられるわけはないのだが。
(やはり何かがおかしい)
違和感を感じたので死体を確認する。すると、
「・・・既に武器で攻撃を受けている」
「どうしたの?ししょー」
胴体を貫かれた跡。これは魔獣同士の殺し合いで出来るものではない。
何か嫌な予感がした。
「スラ子、気を付けろ。何か嫌な予感がする」
「う・・・うん」
さらに奥に進むと、神の神殿の最奥が見えてきた。
奥にはコドラが居るはずだ。
「検索開始・・・契約に従い具現化せよ。ヘブンズギル」
本能が告げている。この神殿の奥には何かがいる。
そっと音を殺して歩く。
ここが最奥。そこには、コドラの死体があっただけだった。
「すでに死んでいる・・・。やはり何かがいたのか・・?」
コドラは一撃で頭を貫かれ絶命していた。鱗をはぎ取るとカバンに入れる。
「依頼、終わっちゃったね。帰る?」
スラ子はそういったが、召喚した魔剣を戻す気にはなれなかった。
・・・!
「死ね」
スラ子を狙い、奥の暗闇から解き放たれた火球を素早く切り裂く。
魔術は無効化され魔力は吸収された。
「なに・・・いまの」
「スラ子、本命が来たかもしれん。攻撃に備えろ」
「ほう、貴様も魔剣を所有しているのか。これは面白い」
奥からゆっくりと歩んできた、漆黒の鎧を身に着けた長身、長髪の禍々しい魔力を漂わせる男。
その手には黒い炎を纏った凶器を握っていた。
薄笑いを浮かべ、駆ける。
それに応じるようにコバヤシは待ち構え。
剣戟が木霊した。
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