第10話魔獣の主

「第一陣!突破されました!けが人多数!」


「けが人は保護して退避!支援パーティは前衛パーティをフォローしろ!」


魔獣は12体ほど、平原での魔獣との戦闘は人間が不利だ。人海戦術で上回る数を用意して戦うしかない。


「はっ!こんなもんかい!」


そんな戦場で1人だけ異様に魔獣を屠っている女戦士がいた。


戦斧で力任せに魔獣の腹を捉えて吹き飛ばし、頭をたたき割り、倒れた魔獣を踏み潰す。


体躯も大きく、とても女とはおもえない。見た目も胸部と下半身をわずかに鎧で隠すだけでほぼノーガードだ。アマゾネス・・・というのがピッタリだろう。


その場に、


「ギャオオオオオ!」


魔獣が現れる。しかしただの魔獣のサイズではない。


「大物だね!雑魚ばかりで飽きてたんだよ!」


歩くたびに衝撃が走る。およそ5メートルくらいだ。


「アイザ!一旦引け!」


「御免だね!わたしの獲物だ!」


魔獣の主といえるほどのサイズだ。心が躍る。


アイザはいままで負けたことがない、その圧倒的な力で敵を叩き潰し屠ってきた。


「グアアアアア!」


「バリスタを使う!!」


一斉討伐のリーダーが指揮しバリスタ・・・投射機を動かす。


矢をつがえるとリーダーの指示のもと打ち出される。3台ほどの一斉掃射。普通の魔物であれば1台でも十分な威力だ。


魔獣の主はその体躯に見合わず素早く跳躍し、


「うわあああああ!」


バリスタに突っ込んできた。2発は外れたが1発は足に命中している。


しかしまったく意に介していないような動きでバリスタに付いていた冒険者に食らいつき、食いちぎる。血しぶきを飛ばしながら前進する。


「くっ!まずい・・・」


そのままの動きでまるで分っているかのように統率者・・・リーダーに向けて駆けていく。そのとき、


「うおおおおお!」


カインは食らいつこうとする魔獣の主に斬りかかった。しかし、浅い。


首を落とすつもりだったが思ったよりカインの傷が深かったのか。致命傷にならない。


「グルルルル・・・」


カインに向かい合った瞬間。


「術式展開!燃えよ、放て!ファイヤボール!」


「グウウウウ!」


強力な魔術を打ちこまれ、大きく魔獣は怯む。


「カイン!まったくあなたは無茶をして!死んだらおしまいじゃないですか!」


「すまない。エリス・・・」


「バリスタ!投射します!」


魔獣の足が止まった瞬間、バリスタにつがわれた強力な鉄の塊が魔獣の主の首を貫いた。


血が噴きだす、さすがに致命傷だったのか。巨体がその場に倒れこむ。


「フン、間に合わなかったか」


「アイザ・・・とどめはさせなかったな。すまなかった」


「カインか・・・死にぞこないはおとなしくしておいたほうがよかったが」


ため息をつき、言った。


「たまにはやるじゃないか。ほめてやるよ」














「あそこか」


引きずられた跡を追っていくと洞窟が見えてきた。血の跡もある。間違いはなさそうだ。


「ニナ」


レンジャーは潜伏スキルがある。最後まで言わなくても意味が分かった。


「了解」


足音を立てないよう。ゆっくりと偵察する。見たところ大した数はいないようだ。


(殺しても)


(いいですか?)


手信号でこちらに振り向きサーウェスに指示を仰ぐ。


(了解した。可能なら構わない)


ニナは弓をつがえると無防備に眠る魔獣の頭を射止める。


2匹目も仕留めると。パーティメンバーを呼んだ。


(すごいね!ニナ!)


(さすがです。ニナさん)


小声で話す。レンジャーは特殊な技能を習得している。罠をみつけたり、音を立てずに偵察したり・・・一朝一夕で身に着けられるものではない。


(静かにしろ。いくぞ)


ニナを先頭に洞窟をゆっくりと進んでいく。途中何度か道が分かれていたが問題はない。冒険者はダンジョンを進むためにかならずパーティの1人がマッピングを行っている。今回はサーウェスが行っていた。


また分かれ道だ。右と左どちらに進むべきか。


「右にしましょう。どうせどちらに行ってもしらみつぶしですし」


その通りだと思う。この洞窟、おもったより広い。


(・・・この匂い・・・死体か?)


(待って。)


ニナが足を止める。奥を指さすと、


「・・・・」


そこにはひときわ大きい魔獣がいた。7メートルはある。


おそらく・・・あれは。


(メスだ。子供を産んだのはこいつだ)


(うわあ・・・おっきい・・・)


サーウェスは続ける。


(これは助けを呼んだほうがいいんじゃないと思うんだが、皆はどう思う?)


これはたしかに戻って助けを呼んだほうがいいかもしれない。しかし、コバヤシは嫌な予感がしていた。


(奥に行ってからでもいいだろうか?)


(正気?あれはいまは寝てるいいけど起きたら厄介よ)


(なにか、嫌な予感がするんだ。なんだかアリスがいるような気がする)


さっきの死体を引きずったような跡、妙な魔獣の死体。


コバヤシは確信めいた気がしていた。


(頼む。行かせてくれ。もしやばかったら皆逃げても構わない)


(ししょーが行くなら私も行く!)


はあ・・とサーウェスはため息をつく。


(わかった。ニナ、見に行ってくれ。お前ひとりなら気づかれないはずだ)


そっと音を殺して歩く。このフロアだけなぜかやたらに広い。日が天井の大穴からさしているおかげではっきりと魔獣の母体の体躯が見て取れる。


体を覆う表皮も下っ端とは比較にならないほど堅そうだ。


(さて・・・横を抜けてはきたけど・・・)


死体の山だ。かなり臭い。思わず鼻を抑える。


・・・!!


(誰・・・?カインなの?エリス・・?)


こんなところに生きた人がいた。かなり驚いたがそれどころではない。


(わたしはニナ、助けにきたわ)


(たす・・け?ほんとに・・?)


とりあえず腰にあるカバンから薬を取り出す。


(解毒薬よ。飲んで)


薬を飲ませると状況を説明する。


(いまあなたのパーティの生き残りが報告してくれたおかげで大規模な一斉討伐が行われてるのよ)


(私たちはそのパーティの1つってわけ)


(・・・)


死んだ・・わけではない。おそらく体が限界だったのだろう。眠っているだけだ。


(さて・・・一度ほかのパーティに連絡して助けを・・・)


一旦意識を失ったアリスを隠し、戻ろうとした時だった。


「グルルルル・・!」


「起きた・・・!?なんで!?」


ニナは魔獣の主と目があってしまった。


「ニナ!」


恐怖で体がすくむ、体がうまく機能しない。やられる・・・!


「ふっ!」


魔力をすべて足に流す。一瞬でもはやくたどり着かないとニナが死ぬ。


「俺のせいで・・・殺すわけにはいかない・・・!」


魔力で足の筋力を強化し、爆発的に駆ける。それはまるで弾丸の様だった。一時的に人のそれをはるかに超えた力を発揮する。___間に合ってくれ・・・!


魔獣が爪をふるう寸前、ニナの体を掴み壁に向かってその勢いのまま吹っ飛んだ。岩の壁に二人は体を強打する。


「いったああああ!」


なにすんのよ!と文句を言おうとしたがそれどころではない。ニナはコバヤシのケガをみて息をのむ。


「はあっ・・・はっ・・・」


間一髪、直撃は防げたがコバヤシは爪に当たってしまっていた。傷が深い、毒も回り始めている。


「ニナ!弓で引きつけてくれ!コバヤシ君が危ない!」


「わたしが治療します!コバヤシ君!うごけますか!?」


「ししょーは私が守る!」


朦朧とする・・・解毒薬を飲まなければ・・・。


サーニャが駆け付け、治療魔術を使用する。白魔術とは神の奇跡を人が起こす為の術式だ。攻撃に使える魔術は少ないが病気を癒したり、治癒力を上げて傷を癒したりすることができる。


「神の奇跡よ。癒しを与えたまえ。キュア!」


「はあっ・・・はあっ・・・」


全員でかからないとこいつには勝てない。


剣を杖にして立ち上がる。休んでるわけにはいかない。


「エンチャントを付与するくらいはできる」


「白魔術は詠唱に時間がかかります!せめてもう少し回復してから・・・!」


サーウェス、ニナ、スラ子。


彼らはいま俺のせいで戦っている。










「大丈夫だ俺は戦える。無茶しないと絶対に勝てない相手だ」

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