第11話生還

「術式展開。エンチャント、爛れ(ただれ)おちよ。」


「これは・・・!腐食を付与したか、珍しい属性を扱うんだな」


サーウェスの長剣に毒性を付与する。普段はつかわないが相手の体躯が大きすぎる。毒がいま一番の最善手だ。


そして、言葉に魔力を込めて剣を向け言い放つ。


「(絶対に生還する!全員だ!絶対にお前を殺す!)」


魔獣がたじろむ。言葉の魔力が作用し、現実を変革する。勝つ運命をつかみ取る!


少しでも言葉が運命に作用するのに賭ける!


「へえ!かっこいいじゃない!よーし!全員、生き残りましょう!」


ニナは自分を奮い立たせる。怖がってる場合じゃないわね。


「えい!スプレッドニードル!」


スラ子が強烈な一撃を繰り出す。槍上になった腕を伸ばした。


「・・!」


本能的に危機を感じて魔獣はとっさに避ける。岩の壁に強烈なスラ子の一撃が突き刺さる。


全員その動きをみて確信する。・・・おそらく魔獣の頭に当たれば行けるかもしれない。


「グルアアアア!」


「わわ・・・!」


伸ばした腕を戻すのは時間がかかる。魔獣はその隙を見逃さない。


ガイイイン!振り下ろされる爪をサーウェスが受け止める。


「くっ・・・うおおおお!」


「サーウェス!」


ニナが弓を構え、魔獣の目に一撃を放つ。矢が目に突き刺さり怯んだ。


スラ子は腕を引っ込めあわてて後ろに下がる。


スライムは移動が遅い。足があるわけではないからだ。


「ごめんね!わたし足が遅いんだ!」


なんとか敵から距離をおく。


「くっ・・・。まずい・・・!」


「グアアアアア」


サーウェスが押されている。当たり前だ、体躯の差は圧倒的なのだ。


「・・・!」


魔力を練り上げ、魔力を限界まで体にたぎらせてコバヤシは無防備な魔獣の横腹を狙い、飛び出す。


サーニャの治癒も効いている。もう一度戦える。


「ギャウウウウ!」


コバヤシの剣が深くまで突き刺さる。しかし体躯があり、決定打には至らない。


「やはり・・・頭か!」


サーウェスはうまく逃げられたようだ。


「ウェポンサモナー」


再び剣を召喚する。魔獣に刺さり、手元から離れた武器は自然に消滅する。


空いた傷口から血が噴きだした。ぽたぽたと浅黒い血が垂れている。


それだけのけがを負いながらもこの重圧感。


「これはおそらく毒も大して効果がないだろう。スラ子、君の一撃なら奴の頭を貫けるはずだ」


「ニナと私とコバヤシ君で隙を作る」


わかった。と彼女はうなずく、


・・・こういう時は神官職はほんとに無力だ。サーニャは自らの至らなさを嫌でも気づかされる。


「神の奇跡よ、勇気をお与えください。ブースト!」


サーウェスとニナ、コバヤシの体が熱くなる。身体能力が上がったような感じがする。


「わたしは皆を見守ることしかできません。・・・死なないでください」


「死なないさ。冒険者の意地、化け物に見せつけてやろう」


サーウェスは走る。ブーストの魔術がかかっているせいか、体が軽い。


「食らいなさい」


ニナは弓をつがえた時。


「エンチャント、爛れおちよ」


矢に腐食のエンチャントが付与される。


「コバヤシ、これは魔力のムダよ?」


弓にエンチャントするのは効率的ではない。一回一回魔力を込めるのは無駄だからだ。


しかしいまは何としても隙を作らなければならない。


狙うは潰されていないほうの片目だ。エンチャント、腐食。これが目に入れば間違いなくこの獣でも怯むだろう。


「ニナ!残りの片目をねらってほしい!」


「コバヤシ、無茶いうわね。でもそれしかないなら・・・」


無茶は承知だ。ただでさえ動き回る的なのだ。


しかしもうパーティはクタクタでこれ以上時間はかけていられない。


ニナは属性が込められた矢をつがえ、構える。


(もう一度私が正面から爪を受け止めれば・・・!)


サーウェスはあえて攻撃を受けるため飛び出した。


「グルルルル・・・」


警戒している。先ほどの横からの一撃を覚えているのかこちらを見据えゆっくりと動いている。


学習している。群れのボスだけあり、一筋縄ではいかないようだ。


しかしこれはチャンスだとサーニャは思った。こちらを注視しているということは視界を外さないということ。


「神の奇跡よ、邪を払いたまえ。ホーリーライト!」


聖なる光が場を包み込む。本来はゴーストタイプの魔物に使用する魔術だが目くらましにも使える。


「グウウウウ・・・」


強烈な光に思わず視界がゼロになった。おもわず魔獣は怯み、目を閉じる。


「ここだ!」


サーウェスとコバヤシが走った。ブーストで身体能力も上がっている。

今なら、行ける。


「「うおおおおお!」」


2つの剣が魔獣の横腹を両方から貫き、体を固定した。


「グアアア!」


強烈な痛みに叫び声をあげ、暴れまわる。その瞬間。


「いま!もらったわ」


腐食が付与されたニナの一撃が片方の眼球を射ぬく。


「ギャオオオオオオン・・・!」


「スプレッドニードル!」


スラ子の一撃が、あご下から頭まで貫通し致命傷を与えた。


魔獣はパーティに敗れたのだ。巨大な体躯がその場にドスン・・・と倒れる。


「やったね!」


「もうこりごり!こんな戦闘はもう勘弁してよね」


ニナだけでなく皆もうへとへとだ。


サーニャはアリスを抱えパーティはキャンプに帰るのであった。












「ん・・・ここは・・?」


「起きたか。よく生き延びたな」


体のあちこちが痛い。覚えているのはニナって子に話しかけられたことくらい。


馬車の中のようだ。カタカタと揺れている。


「コバヤシ君か・・・わたし生き残ったんだね」


「そうだ。魔獣の巣で生き残ったんだ。誇ってもいいんじゃないか?」


「ねえ・・・カインとエリスは・・?」


「さあ、知らないが、カイン・・?というガタイのいい男は生きていた」


けがをしていたが、とも言った。


「ありがとう・・・助けてくれて。死ぬかと思ったんだ」


瞼が重い・・・アリスはゆっくりと眠りについた。

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