第9話救助
冒険者ギルドはアリスのパーティの報告をうけ魔獣の巣を一掃する為、大規模な依頼を出していた。かなりの数の冒険者、展開されたキャンプもかなりの規模だった。簡易的だが魔術的な宝石で魔物除けの結界も展開されている。討伐対象は魔獣コアトルだ。聞いたところによると爪に毒をもつかなり凶暴な魔物らしい。
「俺たちはあくまで負傷者を介護したり、戦場に薬を届けたりするんだ。戦場で戦うのは先輩冒険者だよ」
「わたしも戦ってみたい!」
「魔獣と戦ったことはあるのか?」
「ないよ!でも・・・強くなったか試してみたい!」
この前の話もある。もしかしたら俺のためなのかもしれない。
しかし・・・。
「いくら物理には強いとはいえ魔獣は警戒すべきだな。毒もあるし何より爪で切るのは斬撃属性だ。さすがに耐性はないだろう?」
さすがに俺たちだけでは返り討ちにあって死ぬだけだ。だけど今回は人が多い、誰かのパーティについていくことくらいはできるかもしれない。
「あとは・・・アリスを探さないといけないな。結局まだ見かけてはいないし」
「お!君も冒険者だな?そろそろ作戦を説明するから集まってくれ」
集合場所に向かうとキャンプのリーダーらしき冒険者が作戦を説明している。魔獣はそれほど知識はないので真剣に聞かなければ。
「魔獣は基本的に獣と同じだ。火を恐れ集団で狩りをする」
ボードには冒険者がすべき動きが書き込まれている。どうやら正面から平原で大量の群れを受けるパーティと裏手の森から回り込むように空いた巣を潰すパーティにわかれるらしい。できれば俺は巣を潰すパーティに入りたいところだが行けるだろうか、当たり前だが熟練パーティが多いな。
「君は魔術師か?」
コバヤシは急に話しかけられた。これはチャンスかもしれない。
「ああ。そうだ」
「わたしも魔術師だよ!」
スラ子がとっさに嘘をついた。フォローしなければ。
「俺は身体強化とエンチャントとウェポンサモナーが使える。彼女はスプレットニードル、水の魔法が使える。(体を使った物理攻撃だが・・・)最近魔力が発現したばかりだが魔獣くらいなら仕留められるだろう」
「おお!それは助かる。魔術師がちょうどいなくてね。・・・危険な任務だが巣に潜入するパーティに入ってもらえないだろうか」
スラ子はうまくいった!とどや顔をしている。結果的にだが。
「俺は頭目のサーウェス。あとはレンジャー・・・弓兵のニナ。そしてシスターのサーニャだ。」
「よろしくね。わたしはニナ」
「わたしはシスターのサーニャです。よろしくお願いします」
スラ子は笑顔で、
「わたしはスラ子!よろしくお願いします!」
良い人だね♪と俺の顔を見る。
・・・そうだな。コバヤシもそう思った。
「身体強化の魔術か、めずらしいな。」
サーウェスはどの程度戦えるのか、手合わせを頼んできた。時間はまだあるしある程度は実力は見せなくては。
「はあっ!」
コバヤシはウェポンサモナーで木刀を召喚する。
相手も模擬専用の木の剣だ。
魔力で脚力を軽く強化して駆ける。一気に距離を詰める。
サーウェスは両手で剣を構え待ち受けた。
コバヤシは魔力で木刀を強化しつつ振り下ろす。・・・受け止めれば一撃で木製の剣は折れる!
サーウェスは受け止める、と思いきや剣を横に構え右斜め後ろに受け流した。
「そこまで!」
ニナがいうと振り下ろす剣をサーウェスは止めた。
あっという間だった。悔しいがもともと勝てる相手ではない。
「コバヤシ君。君はどこでその剣術を?」
「自己流だ。いつも戦うときは一撃で決着がついていたから・・・」
「たしかに身体強化の魔術を使えばたいていの相手に勝てるだろう。しかしそれに頼ってはいけない」
たしなめるように言った。
たしかに・・・と思った。もうすでに1回負けている。
「あとは・・・スラ子ちゃんだっけ。こっちはオッケーだよ。破壊力は十分!」
ニナが言うと、スラ子はドヤ顔をしている。
「すごいでしょ!魔獣なんかには負けないんだから!」
岩を砕いていた。一撃の威力はさすがだ。
「よし。こんなものか」
サーウェス、ニナ、サーニャ、コバヤシにスラ子。
「基本的な動きを確認する。俺とコバヤシは前線でニナはいつも通り弓での援護、スラ子とサーニャは後衛でスラ子は魔術での中距離の後方支援。サーニャは皆を白魔術で助けてくれ」
「皆に神のご加護があらんことを」
サーニャが祈りを捧げる。
(神がほんとに助けてくれるといいが・・・)
つい皮肉めいたことを考えてしまう。そろそろ時間だ。
パーティは戦場にむかうのであった。
「くるぞ!」
3匹ほどの魔獣がこちらに気づいた。本能にまかせて魔獣達が疾走する。
大きさは大人の男性ほど、170センチくらいだ。赤い毛に鋭そうな毒の爪。
「的ね。まっすぐ走ってくるだけの獣なんて」
ニナが弓を構え、放つ。狙うは頭部、弓はそれほど殺傷力があるわけではない。
「ギャウ!」
疾走する魔獣が転倒する。
「グルルルル・・・」
転倒した同胞を無視して駆ける魔獣にさらに弓を放つ。しかし曲線的な動きで動き弓を避けた。
「・・・外したっ!フォローお願い!」
「いくぞっ!」
魔獣が距離を詰めてくる。コバヤシはとびかかってくるコアトルの首を掻っ切り、胴体を貫く。
サーウェスもうまく切り抜けたようだ。頭を一撃で落として仕留めている。
「いい動きだ。無駄がない」
「どうも」
これで襲撃は3度目だ。これでも前線で大規模な群れを引き付けているのを考えると相当な数だ。
しかも巣は2か所、どちらかに大物・・・ボスが居るはずだとサーウェスはいった。
・・・血の匂いだ。
辺りには魔獣の死体が転がっていた。5,6体はいる。
死体は刺突や斬撃で死んでいた。これは。
「冒険者か?」
しかし辺りには俺たちしか来ていないはず、もしかしたら。
「アリス!いるのか!?」
・・・返答はない。
「アリス・・?あの子がいるのか?」
「ああ、行方不明らしい。頼まれているんだ」
血の痕跡をたどってみる。何かに引きずられていった跡がある。
これはもしかすると。
「巣があるかもしれないな。行ってみよう」
サーウェスは剣をしまうと言った。
「生きていると、いいがな」
「ゴホッ・・・くっ・・・」
体中が痛い。毒がまわっているのか。目が暗闇に慣れてきた。洞窟のようなところにいるらしい。
そこら中に死体が転がっていた。魔獣に死んだと思われて餌場にでも運び込まれたのかな。
「武器は・・・ない」
もしあったとしても血のりでまともに使える代物ではなくなっているとはおもうけど。
「グルルルル・・・」
ガツガツと腐肉を食べる音が聞こえる。最悪な状況だ。
(まだ気づかれてはいないようだけど・・・)
彼らも視力が良いというわけではない。その聴覚やにおいで判断して動いているのでここでじっとしていればしばらくはバレないだろう。
しゃがんだままゆっくりと動き動ける範囲で何か武器を探してみる。
・・・ナイフ。これは動物の肉を切るくらいにしか使えないけどないよりはマシかな。
死体の握られた手から無理やり取る。
(ごめんなさい。使わせてもらうね)
そっと魔獣の数を確かめる。1匹だ。
なんとかなるかも。アリスは転がっている石を掴むと魔獣に投げてみる。
「・・・?」
こちらに魔獣が向かってきた。死体の山に隠れ、様子をうかがう。
十分な距離に近づいてきた。いまだ!
「やっ・・・!」
全力でナイフでも殺せそうな部位・・・頭に叩きつけるように突き立てる。
「・・・ギャッ!」
バタバタと血を流しながら魔獣が暴れる。アリスは必至でナイフで抑え込んだ。
「早く・・・死んじゃって・・!」
ようやく魔獣が動きを止める。ナイフは欠けてしまった。もう使えないだろう。
「これですこしは生き延びられる・・・でもどうしよう・・・」
誰か助けて・・・カイン、エリス・・・。
アリスは祈るしかなかった。
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