41話カリュバーンを携える勇者
宿屋の荷物をまとめ、掃除をする。
大して荷物があるわけではないが、ゆっくりと片づけをしていた。
思えばこの異世界に来てから数か月、この街に初めて来たときからお世話になっていたな。
最後に金貨をすこし多めに袋に詰め机の上におく。
「スラ子、準備は良いか?」
「うん!」
宿の階段を降り、主人に声をかける。
「お世話になりました」
「今までありがとう!」
すこし主人は泣いていた。
もしこの件が何とかなったら、帰ってくることが出来たら、お礼くらいは言いに来るだろう。
「コバヤシ様、お気を付けて」
宿を出るとマリーンが待っていた。何の用だろうか。
「コバヤシ君、まさか僕に何も言わずにここを去る気だったのかい?」
「・・・いや。そんなことはない」
嫌味もいう気はない。珍しく、マリーンもまじめだった。
「予言を残そうじゃないか!賢者マリーンの予言だ。心して聞き給え」
前言撤回だ。いつもと変わらないな。
・・・ただ、
「ああ。また会えるか分からないからな。聞いておこう」
「君はある敵に追いつめられる。そして本当にピンチになった時。僕が駆け付けよう、何があっても諦めないことだ」
「ありがとう。覚えておこう」
「ありがとう!マリーン!元気で!」
ではね、と言いながら立ち去っていく。最後の挨拶かもしれないが、マリーンらしい。
涙の別れなんて似合わない男だ。その方が奴らしくていい。
「さて、ギルドにいこう。少しでも情報があった方がいい」
ギルドの扉を開ける。すると、中には、
「あーー!いた!あの冒険者だ!」
「はあ・・・名前はコバヤシだぞ。まったく、ニイナが騒がしくて申し訳ない」
騒がしいパーティだ。まあ気分もしんみりしていたので丁度いいが。
ブローはこちらを見ると話しかけてくる。
「コバヤシ君だったね。君、すごい有名人じゃないか!」
「私たちは魔王を追っているんだ。魔剣を持ち、魔王の部下の一人を倒したなんて、そんな話を聞いていればあの時話を聞いていたぞ!」
アンジェリカは若干怒っていた。しかし初対面でいきなりそんなこと言える奴がいるんだろうか。
ニイナは相変わらず偉そうにしながら腰に付けた剣を自慢するように言った。
「わたしなんて落ちた天使をもう二人は倒してるんだからね!聖剣カリュバーンで!」
・・・プルプル。
スラ子は彼女がトラウマになっているようだった。
コバヤシの陰に隠れている。
「そうか。ところで何の用なんだ。何もないなら俺はギルド長と話したいのだが」
「ふっふっふ。君の目的はわかっているよ!この街を出ていくんでしょ!」
「話が飛び過ぎだニイナ、ようするにギルドで情報を聞いてから魔王を討伐しに行くって訳だ。狙われている以上この街にいると迷惑が掛かってしまう」
ブローがニイナの発言を補完する。
そもそもこの勇者パーティが来た理由はなんだろうか。
「そもそもが、コバヤシ君が魔王と接触し帰還したという話を聞いてその話を聞きに本国からこの田舎まで来たんだ。まさか魔剣を使う魔術師とは思わなかったけどね」
ブローは質問する。
「なぜコバヤシ君は命を狙われているんだい?僕らも落ちた天使を倒しているが、直接魔王から狙われて街ごと潰そうとされたことはない」
「理由は、これだ。」
現れた紫色の刀身、魔剣を召喚する。
「魔剣、ヘブンズギル。何か魔王と因縁があるのかもしれない。もしかしたら魔王を殺す可能性がある魔剣だからこそ躍起になっているのかもしれないが」
ふむ、とブローは考察する。
「その可能性は高いね。特に後者だ。躍起になっている、という可能性は高い」
「そもそも、魔王の目的はなんだ。お前たちはなんで魔王を追っている」
聖剣の勇者、ニイナはブローをさえぎるように答えた。
「イシュタル様のお告げだよ。わたしがこの聖剣を引き継いだ時、魔王を倒すようにって言われたんだ。魔王の目的は知らないけど」
話によるとニイナの家系は代々その聖剣を管理し、自分の子供に引き継いできたのだそうだ。
その聖剣は霊体で出来た魔物に対して有効で、コバヤシよりずっと前から魔王と落ちた天使たちと戦ってきたようだった。
ギルドにおいては特別な扱いであり、この勇者パーティは有名らしかった。
「話はわかった。どうやら君たちも目的は同じのようだ。そこで提案なんだけど」
ブローは提案をしてきた。魔王討伐の手伝いをしてほしいとのことだ。
アンジェリカもこの提案は賛成のようだった。
ニイナは文句がありそうな顔で賛成する。
「だけどその前に、強さを見せてもらわねば。丁度ここで依頼を受けているので同行してもらおうか」
「わかった。何を討伐するんだ?」
「この街を襲撃した魔物の残党狩りだ。トロルと魔獣の生き残りがいるらしい」
アンジェリカは地図を広げ、以前一斉討伐作戦をした平原の近くの古い砦跡を指さす。
この周辺で目撃されているのはトロル以外にも上級の魔獣もいる。
だが、魔力の回復も十分だし、何より人数は5人。
万が一ということもないだろう。
「わかった。あと、俺たちの紹介はまだだったな。俺はコバヤシだ魔剣を使っているが魔術師だ。彼女はスラ子、水の属性の魔術と雪の元素があれば氷の魔術も行える」
「よ、よろしく!」
緊張した面持ちでスラ子は頭を下げる。
「まあ、そう固くなるな。さて行こうか」
「いくぞ!冒険だ!」
ニイナは張り切ってクエストの開始を告げた。
ウェポンサモナーとスラ子の冒険 どれいく @dorei
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