第43話 待ちわびた瞬間
デニムの部屋に到着した。さあ、部屋はどれだけ片付いているだろう?でもどうせぐうたらデニムの事。途中で片付けが嫌になって、ベッドで寝転がっているに違いない。
コンコン
デニムの部屋のドアの前に立ち、ノックした。どうせ不愛想な声で『入れ』とでも言うつもりだろう。
しかし…
カチャリ
ドアが開いた。そしてなんと私の目の前にはデニムが立っていたのだ。
「あ、あの。デニム様?」
「あ、ああ…よく来たな。待ってたぞ?」
何故か顔を赤らめて私から視線を逸らせるデニム。一体何故そこで顔を赤らめる?!しかし、そこでピンと気付いた。ああ、そうか…自分から立ってドアを開ける等とおよそ似つかわしくない行動を取ったので照れているのかもしれない。よし、ならば…。
「お待たせ致しました。デニム様。しかしとても珍しい事もあるのですね?まさかデニム様ご自身がメイドの為にわざわざドアを開けて下さるなんて?」
若干嫌味を含めて言ってやる。
「あ、ああ。相手が他ならぬお前だからな。まあ中へ入ってくれ」
コホンと咳払いしながら言うデニム。なるほど、私のせいで痛い目に遭わされているからメイドと言えど、少しは敬意を払う気持ちになったのだな?
「はい、失礼致します…」
部屋へ入って驚いた。何とあれ程足の踏み場もない位床に落ちていた衣類が全て綺麗に片づけられていたからだ。ええっ?!嘘でしょう?
「ふふん。どうだ?俺は頑張って片付けたのだ。美しい部屋だろう?」
自慢げに言うデニム。しかし、これくらいのことで自慢するなどやはり所詮器の小さい男だ。しかし、ここは歯向かわないでヨイショしよう。何しろこれからデニムにはあれを食して貰わなければならないのだから…。
「ええ、とても美しい部屋になりました…えぇっ?!」
その時、私はたまたまデニムのクローゼットに目が行き、そこで再び驚いた。なんと引き出しやドアがオープンし、そこから入りきらなかったとみられる衣類がグチャグチャな状態で無理矢理入れられ、飛び出しているのである。
やはり阿保は阿保だった。あれでは片づけた、ではなく単に物を可隠す為だけに適当に突っ込んだだけのようなものだ。
「どうした。そんなすっとんきょうな声を上げて。それ程驚いたのか?」
デニムは私の上げた最後の一声を勘違いしたようだ。ええ、驚きましたとも。デニムとは違う意味でね。あんな入れ方ではきっと全ての衣類はシワだらけになっているだろうが、こっちの知ったことではない。忠告するのもアホらしいので放っておこう。
「デニム様、それではお茶とおやつに致しましょうか?」
ワゴンの上に乗っているティーセットを指し示しながらデニムに尋ねた。
「おう!そうしてくれ!何しろ俺のためのスペシャルドリンク&スペシャルフードなのだろう?」
「はい、そうです。私自らが御用意致しました」
シェフが用意してくれたが、私がオーダして作らせたクッキーだ。この件で彼が後々デニムに責められては気の毒なので私が自ら作った事にしておいた。
「な、何?お前の手作りなのか?!」
何故かデニムの声がはずんで聞こえる。
「はい、デニム様の為に心を込めて作りました」
そう、今までの恨みつらみを込めてね・・・!
笑みを浮かべながら私は『苦味強すぎドクダミティーをカップに注ぎ入れる。
「そ、そうか。お前が俺の為に用意してくれたのだな…?」
デニムが何故か嬉しそうに顔を赤らめている。…やはりこの男、挙動不審だ。
私はテーブルに着席したデニムの前に湯気の立つティーカップと、刺激たっぷりジンジャークッキーの乗った皿を置いた。
「さあ、どうぞ。デニム様」
「ああ、ありがとう。では頂こうか?」
そしてお子様舌のデニムは『刺激たっぷりジンジャークッキー』を手に取った。
いよいよ、待ちわびていたデニムの悶絶顔を拝める瞬間が訪れるのだ。
私は固唾を呑んで見守った―。
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