第31話 新しい仲間との出会い

午後9時―


コツコツコツコツ…


 足音を響かせながら私はカンテラを持って義父の執務室を目指して歩いていた。

コネリー家に嫁いできて2年。私は何度この廊下を歩いてきたことだろう。

義父は馬鹿デニムが一切領地経営に関与しない為、抱えている仕事が山積みである。そこで私も義母とデニムの目を盗んでは義父の仕事をよく手伝っていた。幸い私は女だてら4年制大学を卒業したし、専攻した学部は経済学部だったのだ。本当は大学院まで進もうと思っていたのだが、突然降って湧いたデニムとの縁談。どうしても貴族の爵位が欲しかった父にせがまれて私はデニムと結婚した。

先方はお金がなくて没落しかかっていた貴族。一方我が家は商人で財を成し、富豪の仲間入りを果たしている。巨額な持参金に月々の援助金…きっと喜んで迎え入れられると思っていたのに、それがまさかこんなに冷遇される立場に置かれることになるとは当時の私は夢にも思わなかった。


 そして何故私が2人の目を盗んで仕事をしていたのか―?


 話は2年前に遡る。


 ここに嫁いでまだ間もない頃、あまりにも義父の領地管理の仕事が忙しく、大変そうだった為、私は自分の知識を活かして自から手伝いを申し出た。義父はそれを快く受け入れてくれて、2人で仕事をしていた時に運悪く執務室に入ってきた義母とデニム見つかってしまったのだ。その際に2人から


「嫁の分際でコネリー家の事に口を挟むな」


と烈火の如く怒られてしまったからである。そこで私は一度義父の仕事の手伝いから手を引いたことがあった。しかし忙しそうに働く義父に対し、私を嫁と認めない義母とデニムのせいで貴族社会の貴婦人の集まりやお茶会と行った行事もさ参加させてくれなかった為に私は暇を持て余した引きこもり状態になっていた。そこでやはり義父の仕事を再び手伝おうと心に決め、義母とデニムには内緒で領地経営の仕事に携わってきたのだった。それに何より義父の仕事の手伝いは楽しい。


「やっぱり私は商人の血を引いているのよね〜」


気付けばいつの間にか義父の執務室の扉の前についていた。そこで私はドアをノックした。


コンコンコン


義父の執務室に私が訪ねる時はノックの音が3回と決まっている。


「ああ、入ってくれ」


誰かを確認するまでもなく、義父の声が中から聞こえる。


「失礼致します」


カチャリとドアを開けると、執務室に置かれた応接セットの椅子に義父と見慣れない若者が座っていた。


「…?」


あの青年は誰だろう?訝しみながらも私は入室すると頭を下げた。


「こんばんは、お招き頂きありがとうございます」


部屋にいる青年が誰なのか分からないし、一応今の私はメイドの格好をしているのだから、それらしい態度を取った。


「ああ、待っていたよ。フェリシア。君もここに座りなさい」


義父は自分の隣の空いているソファを私に勧めてきた。


「はい」


ソファのそばまで進み、着席すると早速義父が私に自分の向かい側に座る青年の紹介をはじめた。


「フェリシア、彼は私の甥っ子なんだよ。」


すると栗毛色の柔らかそうな髪の男性がにこやかに笑いかけると自己紹介してきた。


「はじめまして。フェリシアさん、僕はロバート・ジョンソンと申します。弁護士をしております」


「まあ、弁護士さんですか?それはご立派な職業ですね」


すると義父は言った。


「フェリシア。彼はね、この屋敷の内情を全て分かっているから安心していいよ」


「え?そうなのですか?!そ、それじゃ…デニムが勝手に離婚届を送りつけて、まだ離婚も成立していないのに見合いを勧めている事も?!」


するとロバートさんは言った。


「いいえ、フェリシアさん。知っているのはそれだけではありませんよ。他にも色々貴女の知らないことまで知っています。」


「え…?私の知らない事…?」


一体どんな話だろう?だけどその話を聞いた私はもう興奮でウズウズしている。デニムを追い詰めるネタがあれば何でも構わない。


「そこでどうだろう?フェリシア。我々と手を組まないかい?コネリー家に一泡吹かせてたいとは思わないかい?」


義父の誘い…勿論断るはずは無かった―。


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