第46話 生意気な呼び出し
「あ~何だか今日は疲れたわ。あの屑デニムに半日以上かかりきりだったから…とりあえず、もうあの間抜け面を今日は見たくないから、後は皆に任せていいかしら?」
私は厨房にいる皆をぐるり見渡しながら尋ねた。
「そうですね。今日はずっと我儘デニム様についておいででしたから…」
シェフが言う。
「それじゃ、フレディにも伝えておいてくれる?後の事は宜しくって。それに明日は見合いが無いから私も出る幕が無いだろうし…なのでこれから明日まではゆっくりさせて貰うわ。明後日からはまた忙しくなるだろうから」
「はい、フレディさんに伝えておきますよ。それではお夕食は奥様のお好きな料理を用意致しますよ。何が宜しいですか?」
シェフの質問に私は少し考えた。
「そうね…貴方達の食べている賄い料理、すっごく美味しかったわ。私もそれでいいわ」
「ええ?!あんな平凡な料理で宜しいのですか?!」
シェフが驚いたが、私は素朴な料理の方が好きなのだ
「ええ。それでいいわ。時間も手が空いた時に持って来てくれればいいから。それじゃまたね」
『お疲れさまでした!』
厨房の皆に見送られ、私は自分の居住している客室へと向かった―。
****
午後6時―
コンコン
部屋で読書をしていると扉をノックする音が聞こえてきた。
「あら?夕食かしら?どうぞー入って」
すると…。
カチャリ
「失礼致します…」
扉が開かれ、現れたのはフレディだった。
「あら?どうしたの?フレディ。貴方はデニムのフットマンじゃない。夕食の時間なのについていなくても良いの?」
見た処、彼は手ぶらでやって来ている。私の夕食を持ってきたわけでもなさそうだ。
「じ、実は…」
何だか気まずそうな顔をしている。
「どうかしたの?」
「は、はい…じ、実は私がデニム様と大奥様の給仕につこうとしたところ、デニム様が…」
「何?デニムがどうしたの?」
何だか嫌な予感がしてきた。
「は、はい…メイという眼鏡を掛けた三つ編みの女性を給仕に呼べ!と仰るのです‥」
「な、何ですって?!」
思わずガバッと勢いよく椅子から立ち上がり、はずみで椅子が背後に大きな音を立てて倒れた。
ガターンッ!!
部屋に響き渡る椅子の音。
「あ、あの阿保デニムがこの私に給仕をしろと名指ししているわけ…?」
声を震わせながらフレディに尋ねた。
「はい、さようでございます。グウタラ馬鹿舌のデニム様がお呼びしております」
フレディも中々言うようになった。私が言ってもいない言葉でさりげなくデニムを罵っているのだから。
「そ、そうなのね…?くっ!生意気な!クズのくせにこの私を呼びだすなんて…!」
出来れば給仕なんかやりにいきたくない。はっきり言えばあの馬鹿義母と阿保デニムの食事の世話など私が好き好んでやるものか。目的も無いのに、彼らの世話を焼くのはまっぴらごめんである。しかし…。
私は目の前に立っている困り切った様子のフレディを見捨てる事は出来なかった。
どうせメイド服は着たままなのだ。私はカツラを被り、伊達眼鏡をかけると言った。
「分ったわ…。フレディ。私が行くわ」
「ほ、本当ですかっ?!奥様!有難うございます!」
フレディはまるで祈るように私に感謝を述べて来る。
「いいってば。ついでに少しだけデニムに嫌がらせして鬱憤をはらしてくるから。」
「分りました!私もご一緒します!」
「ええ。フレディ。よろしく頼むわ」
そして私とフレディは部屋を出るとデニムと義母が待ち受けるダイニングルームへ向かった―。
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