第13話 隠れて過ごす1日目の夜

 その日の夜―


私はメイドのクララがこっそり用意してくれた離れの客室にいた。


「それにしても、おかしいと思わない?」


ドレッサーの前で髪をとかしながらクララに尋ねた。


「何がおかしいのですか?」


ベッドメイキングをしながらクララが返事をする。


「それはデニムの見合いの話に決まっているじゃない」


コトンとブラシをドレッサーに置くと、クララの方を振り返った。


「お見合いの話し…ですか?」


枕カバーをセットしたクララが枕を抱えたまま首を傾げる。


「ええ、そうよ。何故次から次へとデニムに見合い話が舞い込んできているのかしら?私とデニムは離婚はまだしていないけど、恐らくデニムは私達は離婚したと吹聴して回ってるのよね?」


「ええ…そうでしょうねえ?そうでなければ重婚になってしまいますから」


「それにしたって一応世間では26歳離婚歴あり、という身上書が出回っているはずよ?今日お見合いした2人の女性は少なくともデニムよりは10歳は若く見えたわ。普通に考えて、離婚歴のある10歳位年の離れた男性の元へ嫁がせたいと思う親たちはいると思う?」


「そ、それは確かに…」


それに驚いた事に明日もデニムの見合いが入ってるらしい。しかも今回も2件である。


「おかしい、絶対に何か裏があるに決まっているわ。そうでなければ顔しか取り柄の無いデニムの元へ次から次へとお見合い相手が見つかるとは思えないもの。絶対にこれは裏があるに違いないわ」


「そうですね。言われてみれば確かに何だか私も腑に落ちません。それでは奥様、どういたしましょうか?私に出来る事があれば何でも申し付け下さい」


妙にやる気を出して来たクララに私は言った。


「そうね…ではクララ。デニムのフットマンを務めるフレディに、どうしてデニムのお見合相手があっさり見つかっているのかさり気なく尋ねて見て貰えるかしら?もしフレディが拒んだら、こう言ってちょうだい。『一体貴方が貰っているお給料は誰が支払っているのかしら?』って」


「なるほど、それは彼を脅迫するには持ってこいの話ですね?」


そう、何度も言うがこのお屋敷で働いている使用人のお給料は全て私の実家が工面しておりコネリー家ではびた一文支払っていないのである。これは誰の言う事を聞くかは一目瞭然だ。…余程の愚か者でないかぎりは。


「お任せ下さい。すぐにどういうからくりか吐かせて見せますよ。奥様、大船に乗った気でいて下さい」


「ええ、よろしく頼むわね?それで明日のお見合いの予定はどうなっているのかしら?」


「はい、明日は午後1時から東の塔の『太陽の部屋』で行われます。そして午後4時からは西の塔の『月の部屋』でお見合いが行われる事になっております」


「あら?随分次の見合い時間と時間が近いわね?」


「ええ、そうなんです。何でも先方の時間の都合がどうしてもつかずに、時間の間隔が押し迫ったお見合いのセッティングになってしまったそうですよ?」


「ふ~ん…なるほど‥。でもデニムはそんな短時間で最初のお見合い相手の女性と話を終わらせることが出来るのかしら?」


「さあ…どうでしょうか?」


そこで私にある考えが閃いた。


「ねえ、きっとフレディなら明日のお見合い相手の情報を知っているはずよね?」


「ええ、そう思いますけど…」


「だったら明日、朝一でフレディにお見合い相手の女性の趣味を知っているか聞いてきてもらえる?」


「奥様…何か妙案が閃いたのですね?!」


クララが目を輝かせながら言う。


「ええ、見ていて頂戴?次のお見合いもぶっ潰してやるからっ!」


私はクララにウィンクした―。






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