第8話 嫌がらせのティータイム

「失礼致します。お茶とケーキをお持ち致しました」


扉を開けて中へ入ると深々と頭を下げて、2人を見た。大きな窓に囲まれたサンルームでガーデン用の丸テーブルにデニムと見合い相手の女性が向かい合わせに座っている。デニムはヘーゼルの瞳でじっと私を見ると言った。


「遅かったな。すぐに私と令嬢にお茶とケーキを持ってきなさい」


「はい、かしこまりました」


デニムの自分の事を『私」と言ったことに若干鳥肌を立てつつ、私はワゴンを押して2人のそばにより、お見合い相手の令嬢をチラリとみた。その令嬢は両頬にそばかすが残った、まだ少女と見まごうような外見だった。どう見てもデニムや私達よりは10歳程若く見える。どうしてこんなに若いのにデニムと見合いしているのか私には理解できなかった。


「失礼致します」


丁寧に挨拶すると私は彼らに背中を向けるような形でワゴンの上でお茶の用意を始めた。ティーカップに予めポットに作っておいたアップルティーを注ぎ入れ、デニムにバレないようにさっと角砂糖3個をペーパーの上に取り出し、ポケットにしまった。

そしてデニムのカップには渋い茶葉の絞り汁入りのアップルティーを入れ、見合い相手には普通にアップルティーを入れた。そしてデニムのシフォンケーキにはケーキの表面にバレないように薄っすら塩をまぶして、ペーパーですりこんだ。


「お待たせ致しました。」


2人分のお茶のセットをトレーに乗せると、私は振り向き声をかけた。


「どうぞ」


コトンコトンと2人の前にそれぞれお茶の入ったカップとシフォンケーキの皿を置く。それを見た令嬢が嬉しそうに言う。


「まあ…なんて美味しそうな紅茶とケーキなんでしょう?」


するとデニムが言った。


「ハハハ…我がコネリー家のシェフは腕が一流なんですよ。さ、どうぞ食べてみて下さい。」


全身に鳥肌が立つような甘ったるい声で令嬢に話しかけるデニム。私は2人の邪魔にならないように後ろに下がって様子を見守った。

令嬢は丁寧な手付きでフォークでシフォンケーキをカットすると口に運ぶ。


「フフ…とっても美味しいですわ。甘さも上品ですね?しかもふわふわで口溶けも良いです」


なかなか褒め上手の令嬢だ。


「ハハハ…美味しいでしょう。紅茶も飲んでみて下さい。フルーティーでとてもさっぱりした味ですから」


「はい、頂きます」


令嬢は次にアップルティーをコクンと飲むと、ホウとため息をつく。


「紅茶もとても美味しいですね?」


「ええ、そうでしょう?どれ、私も食べてみることにしましょう」


デニムは破顔すると、塩がすり込まれたシフォンケーキを口に入れた。


「ムグッ!!」


途端にものすごい顔をするデニム。それは確かにしょっぱいだろう。何しろすり込んだ塩は海塩よりも塩辛い岩塩をすり込んだのだから。


「どうされましたか?デニム様?」


見合い相手の令嬢が不思議そうな顔をしてデニムを見る。


「い、いや…な、何でもありません!」


そして慌てて紅茶の絞り汁入のアップルティーを口に入れ、激しくむせこむ。


「ゴホッ!!ゲホッ!!」


おおっ!吹き出すかと思ったのに飲み込んだ!意外と根性があるのだろうか?


「キャアッ!!大丈夫ですかっ?!デニム様っ!」


しかし、デニムはそれに答えず、私をものすごい目で睨みつけると怒鳴りつけた。


「おいっ!貴様…っ!!」


「デ、デニム様…?」


するとその態度にお見合い相手の令嬢はすっかり怯えた様子でデニムを見ている。


「あ…い、いえ。今のはですね…?」


デニムは令嬢を見て笑みを浮かべるが、今更手遅れだった。


「あ、あの…お茶もお菓子も頂きましたし…私、そろそろおいとまします」


すっかり青ざめてしまった令嬢はガタンと席をたった。


「え?もうお帰りになるのですか?まだお見合いを始めて30分も経過していないのに?」


デニムは驚いて令嬢の右手を掴んだ。


「匕ッ!!」


令嬢の顔に怯えが走り、彼女は叫んだ。


「イヤアッ!は、離してっ!」


デニムがパッと手を離すと令嬢は後ずさりながら言う。


「し、失礼しますっ!」


そして逃げるようにサンルームから走り去って行った―。


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