第64話 ついにこの日がやってきた
「…は?お前…今何と言った?」
デニムは首にナフキン、右手にナイフ、左手にフォークという間抜けな格好で私を見た。
「ですから、本日はブレンダ・マーチン様とのお見合いを兼ねた朝食会になります」
「いやいや、それはおかしいだろう?!昨夜、俺はメイに話はうまくついたのか尋ねたんだぞ?そうしたらメイは『勿論です』と答えたんだからな?!」
ええ、確かにそう答えましたよ。でも、それはあくまでブレンダ嬢とのお見合いの話しを進められたことへの返答だ。
そして、その一方で私とデニムが会話している直ぐ側ではフレディとクララが着々と2人分の朝食の準備を進めている。
「それではそのメイドと、話の内容は確認されたのですか?」
「う…い、いや…内容については、その…確認はしていない」
「なら、そのメイドは本日のお見合いの話がうまく進められたと言う意味で返答したのではありませんか?」
「いいや、嘘だっ!そんなはずはない!昨夜、俺とメイは2人の輝かしい未来についてワインで乾杯して、酌み交わした仲なんだぞっ?!」
ゾワッ!デニムの言葉に全身に悪寒が走る。そしてフレディとクララの動きが一瞬ピタリと止まり、私の顔を驚いたように見つめてくる。違うっ!誤解だってば!おのれ、クズデニムめ。誤解されるような台詞を平気で言うとは許すまじ。
「そ、そうだ!メイだ!メイを探してここへ連れてこい!あいつにきちんと話をさせる!」
その時、フレディが口を挟んできた。
「あいにく、この屋敷にはメイという名前のメイドはもうおりません。本日付で退職して出ていきましたから」
おお!フレディ、ナイスッ!
そしてテーブルの上にはデニムとブレンダ嬢の朝食の用意が出来た。
「では私はブレンダ様をこちらへお連れしてきます」
一礼して私はデニムに背を向けると出入り口へ向かって歩き出す。
実はブレンダ嬢には別室で待っていてもらっているのだ。なるべくデニムがダダを捏ねて醜態を晒す姿ブレンダ嬢に見せない為だ。これもデニムのお見合いを成功させる為の策である。
「お、おい?!待て!行くな!あの女をここに連れてこないでくれっ!」
背後からデニムの焦る声が追っかけてくるが、知った事か。そんなにいやならこの部屋を自分から出ていけばいいのだろうが、デニムは席を立つことが出来ない。実は私にはある秘策が合ったのだ。奴が見合いを拒否し、途中で席を立とうとするのを阻止する為のある秘策が…!
「くっそー!何で今朝に限って俺の大好物な料理ばかりなんだーっ!」
デニムの絶叫を聞きながら、私は隣の部屋にある控室の扉をノックした。
コンコン
「ブレンダ様、いらっしゃいますか?」
すると…。
カチャリ…
扉が開かれ、中から大柄な体型のブレンダ嬢が現れた。
「ブレンダ様、お待たせ致しました。デニムが待っております。お隣のお部屋になります」
「ありがとうございます、フェリシア様。私…お見合いがんばりますね!」
ブレンダ嬢がガッツポーズを取る。
「はい、私も応援します。着替えが終わり次第、私も迎賓室に伺いますからね」
「分かりました。私は見合いを成功させる、そしてフェリシア様は離婚届を叩きつけるのですね?お互い頑張りましょう!」
「ええ。ブレンダ様!」
ガシッ
そして私達は互いに手を握り合った。
「では行ってまいります!」
大柄な身体に窮屈そうなハイヒールを履いたブレンダ嬢はカツカツと大きな足音を立てて部屋を出ていく。そんな彼女を見送った私も最後の仕上げ、元のフェリシアに戻る為、予め運んでおいたデイ・ドレスに着替え始めた。
ついにこの日がやってきたのだ。
これから阿呆デニムに望み通り離婚届を叩きつけてやろうじゃないの―!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます