第63話 こみ上げる笑い
「おはよう!皆!そしてご苦労さま!」
朝の厨房は忙しい。まるで戦場のようだ。
「あ!奥様!おはようございます!すみません、今手が空いていなくて!」
シェフが真っ先に私に気づき、声を掛けてきた。彼は忙しそうにフライパンでお肉を焼いている。
「いいのよ、そのままで。他の皆も手を動かしながら聞いて頂戴!私は今日デニムに離婚届を叩きつけるから!」
「おおっ!奥様っ!ついに決心されたのですね!」
「おめでとうございます!」
「今夜はお祝いですね!」
「でも、そうなると奥様はここを出ていかれてしまうのか?」
「そんな…奥様がいなくなると我々はどうなってしまうのだ?」
お祝いの言葉と同時に今後の事を不安視する声もちらほら聞こえる。
「安心して頂戴!この屋敷を去るのは私ではないから!」
『えっ?!』
全員が一瞬手を止めて私を見た。
「フフ…今日はコネリー家の歴史が塗り替えられる日になるわよ…?」
フットマンに扮した私は笑みを浮かべて周囲を見渡した―。
****
「お待しておりました、デニム様」
フットマンに扮した私は作り笑いを浮かべて迎賓室にやってきたデニムに声を掛けた。
「あぁ…何だ、お前か…そうか、今日はメイはいないんだものな…」
阿呆デニムは未だに私の変装に気付いていない。それにメイドのメイはもう二度と現れることはない。
「さあ、デニム様。どうぞこちらの席におかけ下さい。」
真っ白なテーブルクロスを引いた四角いダイニングテーブルにデニムを案内すると椅子を引いた。
「さあ、こちらにお掛け下さい」
私は満面の笑みを浮かべてデニムを座らせた。
「あ、ああ…」
デニムは腰掛けると私をじっと見つめてきた。
「ところでお前…」
ギクッ!
何か感づかれたのだろうか?
「はい、何でしょうか?」
「随分機嫌が良さそうだな?何か楽しいことでもあったのか?」
「いえ、何もありません」
敢えて言えば、これから楽しいショーが始まるのだけどね。
「ふ〜ん…そうか…こっちはメイがいなくて最悪の気分だと言うのに…」
デニムはため息を付きながらチラリと私を見た。
「さようでございますか」
私は壁にかけてある時計をチラリと見た。もうすぐ…後少しでブレンダ嬢がやってくる。するとデニムが声を掛けてきた。
「おい、さっさと料理を並べろ」
「あ、はい。ただいま」
仕方ない…準備しているうちにやってくるだろう。私は料理が乗っているワゴンに近付いた時…。
コンコン
扉のノック音が聞こえた。つ、ついに現れた!
「何だ?誰が来たんだ?」
首元にナフキンを付けたデニムが首を傾げた。
「私が対応いたします」
イソイソと扉へ向かい、ドアを開けた。すると、そこに立っていたのはフットマンのフレディにメイドのクララ。そしてその背後には…。
「ようこそいらっしゃいました。ブレンダ様」
私は笑みを浮かべた。
「本日はお見合いをセッティングして頂きありがとうございます」
笑みを浮かべて立っていたのはデニムを恋してやまない、本日のお見合い相手のブレンダ・マーチン嬢、その人だ。
ついにデニムとの対面だ!
「おい?何をしている?」
背後からデニムに声を掛けられる。デニムの座っている席からは扉の様子が覗えない。
「デニム様。本日のお見合い相手のブレンダ・マーチン嬢がいらっしゃいました」
私は笑みを浮かべるとデニムに言った―。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます