第44話 非常識な男
パクリ
ついにデニムが『刺激たっぷりジンジャークッキー』を口に入れた。
モグモグ・・
少しの間、咀嚼していたデニムはゴクリとクッキーを飲み込み…
「ウガアアアアッ!!か、辛い!げ、激辛だ!!」
デニムはあまりの辛さに我慢できなかったのか、頭をテーブルの上に叩きつけた。
ガツン!!
物凄い音がした。
「グワアアアッ!!」
今度は額を抑えてもんどり打つ。この苦しみ方は激辛クッキーが原因か、それともおでこをテーブルの上に打ち付けた激痛なのか定かではない。ひょっとするとその両方なのかもしれないが、デニムが苦しんでいることに変わりない。
「きゃああ!大丈夫ですかっ?!デニム様!どうぞ、このお茶を飲んで下さいっ!」
わざとらしい演技でデニムに『苦味強すぎドクダミティー』をカップに入れて差し出す。それをデニムは無言でひったくり、一気飲みすると今度は喉を押さえた。
「うげーっ!!に、苦い!苦すぎる!」
デニムは目から涙をこぼして床に這いつくばってヒイヒイ言っている。う〜ん…しかし、私はこれらを口にしていないけれども、デニムのこの悶絶する様、恐らく凄まじい破壊力を持っているに違いない。
「う〜…お、お前…な、何て物を俺に食わせるんだ!おまけにこの飲み物…毒でも入ってるのかぁ?!」
おお!おしい!毒ではないが『ドクダミティー』のお茶である。
「あの、お口に合いませんでしたか?」
「ああ!そうだ!こんな劇マズ、一体誰が用意した!」
「私ですけど?」
これらは私がシェフに用意させたものなのだ。責任の所存は私にある。まあ仮にデニムが私に殴りかかって来ようとも、デニムのようなひ弱な男、所詮私の敵ではない。なぜなら私は常日頃から剣術の鍛錬を密かに行っているのだ、いざとなれば軟弱男の1人や2人、かかって来てもどうって事はない。そう思い、身構えていたのだが…。
「な、何?メイが…用意したのか?」
「ええ、そうです」
「俺の為に…か?」
「ええ、デニム様の為だけに」
何と言っても私が考案したスペシャルメニューなのだから。
「そ、そうか…俺の為に用意したと言うなら…まあ良いだろう」
「へ?」
嘘!良いわけ?!
「そうですか…分かりました」
う〜ん、分からん。デニムのことだから、さぞかし嫌味をネチネチ言うか激怒して手を上げてくるかどっちかだと思っていたのに、こうあっさり許すとは。やはりデニムはMっ気があるのだろうか?
「では、お口に合わないようでしたのでこれらは片付けさせていただきますね」
『刺激たっぷりジンジャークッキー』と『苦味強すぎドクダミティー』を片付けていると不意にデニムが声を掛けてきた。
「メイ、おまえいくつだ?」
はあ?!女性に年齢を尋ねてくるとは…何って!非常識な男なのだ。
「24歳ですけど?」
「はあ?!年増じゃないかっ!」
デニムが素っ頓狂な声を上げた。こ、こいつ…またしても人の事を年増と言ったな?!思わず手にしていた銀のトレーでぶん殴りたくなるのを必死で抑える私。
「そうでしょうか…?あまり自分の事を年増だと感じたことはありませんけど?」
怒りを押さえながら愛想笑いをする。さて、片付け終わった。さっさとこんな淀んだ空気の部屋からおさらばしよう。
「それでは失礼致します」
片付けたお茶セットをワゴンに乗せて退室しようとすると、再び声を掛けられた。
「おい、待て。メイ」
う〜っ!まだ人に用があるのかっ?!
「はい、何でしょうか?」
「お前、恋人はいるのか?」
はああ〜っ?!この馬鹿っ!一体何を聞いてくるのだっ?!
「いいえ、恋人はおりません」
目の前のデニムというクズ男の夫ならいるけどね!
「そうか…恋人はいないのだな…年齢的には年増だが…うん…」
何やらブツブツ言っているデニムを残し、腹が立った私は無言で部屋を出ていったが、デニムには気付かれなかったようだった。
しかし、あの男…仮にも女性に年齢を尋ねてくるとは何て奴だ!
怒り心頭で私はワゴンを押しながら厨房へと向かった―。
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