第11話 究極の嫌がらせランチスペシャル
ガラガラガラガラ…
特製ランチをワゴンに乗せて私はウキウキしながらデニムのお見合居場所のダイニングルームへ向かっていた。その時、前方から義母と義父がこちらへ向かって歩いてくるのが遠目から見えた。
ま、まずいっ!
もしここですれ違えばランチメニューを見られてしまうかもしれない。私はとっさに空き部屋に入り、身を隠した。
カツカツカツカツ…
足音が通り過ぎるのをじっと待ってやり過ごし、そ〜っと廊下を見るとすでに2人は通り過ぎた後だった。
「ふう…危ないところだったわ。さて、急いでダイニングルームに行かないと折角のシェフ特製お見合いランチメニューがさめてしまうわ」
私は部屋を出ると急いでダイニングルームへと向かった。
****
「ふふふ…今度の舞台はここね?しかしよりにもよってさっきのサンルームといい、今度のダイニングルームといい、私に対するあてつけかしら…」
ブツブツ扉の前でつぶやくと、深呼吸をして私は扉をノックした。
コンコン
「誰だ?」
中からデニムの声が聞こえる。
「お食事をお持ち致しました」
「入ってくれ」
「失礼致します」
カチャリとドアノブを回して開けながら私はワゴンを持って入室した。
「ああ、待っていた…ぞ?!」
デニムは私を見て顔色を変えた。
「ああっ?!お、お前はさっきのメイドッ!!」
「え?」
するとお見合い相手の女性が顔を上げて私を見た。今度の女性はふわふわの栗毛色の髪の…まるで14〜15歳程の少女に見えた。先程の女性といい、今度の女性といい、ま、まさか・・・デニムは幼女趣味…もとい、少女趣味だったのだろうかっ?!
デニムの趣味を知り、背中にブワッと鳥肌が立ちつつ、平静を装いながら私は言った。
「お待たせ致しました。ただいまお食事の準備をさせて頂きます」
私は2人の前に銀のクローシュがかぶせてある料理を次々とテーブルの上に並べていく。本来はここまで料理を運ぶ時、クローシュを被せない予定だったが、蓋を開けたときのデニムのあっと驚く顔が見たかったので、演出の為にシェフに頼んでおまけでクローシュをかぶせて貰ったのだ。
「おい、何故料理に蓋をかぶせて運んできたのだ?いつものようにガラスケース付きのワゴンで運んでくれば良かったじゃないか」
お見合い相手の前で細かい事を指摘してくるデニム。それとも先程の件もあり、警戒しているのだろうか?だから私は言った。
「こちらは蓋を開けた時、どんな料理が出てくるのかワクワク感を醸し出す為の演出でございます。」
「そうですね。確かに中身が見えない料理ってワクワクしますね。そう思いませんか?デニム様」
お見合い相手の少女はニコニコしながら言う。
「え、ええ。確かにその通りですね」
見合い相手にそんな風に言われてはさすがのデニムも同意せざるを得まい。
「それではどうぞ、蓋を開けて下さい」
私が言うと、2人は一斉に蓋を開けだした。
「げっ!」
デニムが小声で悲鳴を上げるのをもちろん私は聞き逃さなかった。
「まあ…どれも全て美味しそうだわ」
どうやらデニムの見合い相手の少女は偏食がないようだ。うん、成人男性のデニムよりもよほど精神年齢はしっかりしているかもしれない。
「ではメニューの説明をさせていただきます。まず、前菜はお野菜のグリル焼きのマリネ漬け、スープはえんどう豆のポタージュ、メインディッシュは舌平目のムニエル、副菜に大豆をお肉代わりに使用したミートボール、そしてデザートにはライムゼリーをご用意させて頂きました」
説明しながら私はチラリとデニムを見た。もはやデニムの顔色は顔面蒼白状態だ。それもそのはず、これらの食材は全て彼が大っ嫌いな食材ばかりを集めて作った、題して『究極の嫌がらせランチスペシャル』なのだから。
『おい!貴様!一体どういうつもりだっ!』
デニムが目で必死で訴えてくるが、そんなのこちらの知ったことではない。全てはお子様舌のデニムが悪いのだ。
「それではごゆっくりおくつろぎ下さいませ」
私は深々と頭を下げると、ダイニングルームを出ていった。
背後に突き刺さるような視線を感じつつ―。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます