第18話 巻き込ませて頂きます
「デニム様。お茶とお茶菓子をお持ち致しました」
ノックをしながら声を掛けると、すぐに返事が返って来た。
「ああ。中へ入ってくれ」
「はい、失礼致します」
カチャリとドアを開けて中へ入ると、すぐにデニムが顔をこちらに向けて露骨に嫌そうに言った。
「何だ、やはりまたお前か…」
そしてマリア嬢の視線が自分を向いている事に気付いたデニムはコホンと咳払いすると言い直した。
「毎回毎回君に見合いの度にお茶を運んで貰ってすまないね。」
「え?毎回毎回見合いって…一体何の事ですか?」
「え…?あああっ?!」
そこでデニムは自分が失言してしまった事に気付いたようだ。使用人に優しい主人を演じたつもりが、うっかりまずいことを口走ってしまったのだから。何て馬鹿な男なのだろう。ワゴンを持って2人のテーブルに近付きながら私は思った。
「あの、デニム様。その毎回毎回見合いというのは何なんですか?」
その口ぶりから思った。今回の見合い相手はひょっとしてかなり嫉妬深い女性かも知れないと。しかもどこか口調がイラついている。性格も短気な可能性がある。
「い、いや…そ、それは…」
一方のデニムはうまい言い訳が思いつかないのか、オロオロしており完全に挙動不審になっている。しかもあろう事か私に目で訴えてきたのだ。
『頼む、何とかしてくれッ!』
と。
全く何で私が…。内心心の中でため息をつきつつ、コーヒーをカップに注ぎながら言った。
「マリア様、デニム様が言ったお見合いと言うのは、カードゲームを見合っている時の事を話されたのです。デニム様はカードゲームが大好きですから」
言いながら2人の前に湯気の立つコーヒーをカチャンカチャンと置いた。カードゲームと聞いて、途端にマリア嬢の目の色が変わった。
「まあ!デニム様もカードゲームがお好きなのですね?私もそうなのですよっ!私達気が合いますわね?!」
「あ、ああ。そうですね」
デニムは相槌を打つが…うん、やはりあの様子だとマリア嬢の趣味すら分っていないだろう。無精者のデニムは相手の身上書すら目に通していない可能性がある。
「実はそんなお2人の為にカードゲームをご用意させて頂きました」
普通に考えれば、え?見合いの席でカードゲーム?と思うかもしれないが、この2人はカジノやカードゲームが大好きなのだ。当然、私が差し出しトランプを嬉しそうに見るとデニムが早速手を伸ばした。
「マリア嬢、どんなカードゲームがお好きですか?」
「そうですね、私は…」
会話が盛り上がって来たので、私は一旦退席する事にした。…アルコール度数の高いチョコレートを2人の前に置いて―。
****
「どう?!ケーキは焼けたかしらっ?!」
厨房へ戻った私は大きな声で、シェフに呼びかけた。
「あ!奥様。はい、勿論出来ております。こちらですがいかがでしょうか?」
シェフの前には焼きあがったばかりのパウンドケーキが乗っている。ドライフルーツがたっぷりのケーキからはアルコールの匂いが漂っている。
「素晴らしい!上出来よ」
満足げに頷く私にシェフは言った。
「このケーキ、ドライフルーツ以外にもケーキの生地にブランデーを含ませております。アルコールに弱い人間でしたら一切れ食べただけで酔っ払ってしまうレベルだと思いますが…本当によろしいのですか?」
「ええ、当然よ。だってこれはあの2人を酔わせる為に貴方に作って貰ったのだから」
「えっ?!見合い相手の方も酔わせるのですか?」
「ええ、そうよ。大体見合い前から結婚した場合に貰えるプレゼントの事を尋ねて来るような非常識な人間よ?悪いけど、一緒に巻き込ませて貰うわ」
そして私はアルコール度数高めのケーキに紅茶のセットをワゴンに乗せて『太陽の部屋』へと向かった―。
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